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2019年4月17日

【モバイル決済キーパーソン】JCB モバイルペイメント部 吉田敦史 QUICPay推進グループ次長ロングインタビュー「ユーザー体験を武器に安全・安心なキャッシュレス決済を推進」

【モバイル決済キーパーソン】JCB モバイルペイメント部 吉田敦史 QUICPay推進グループ次長ロングインタビュー「ユーザー体験を武器に安全・安心なキャッシュレス決済を推進」




◆はじめに――モバイル決済キーパーソンの考えを知る


2018年から2019年にかけてQRコード決済サービスが大きな注目を集める中、QUICPayは非接触型決済サービスの中でも着々とユーザーを伸ばしている。Apple Pay及びGoogle Payへの対応、LINE Payとの連携、独自のユーザー体験の提供など、「モバイル決済」ができる電子マネーとして多岐に渡る取り組みを進めているQUICPay。その強みについて、JCB モバイルペイメント部 吉田敦史 次長に話を聞いた。

【目次】


◆はじめに――モバイル決済キーパーソンの考えを知る

◆当初は生みの苦しみも――試行錯誤の歴史

◆若年層の獲得――QUICPay+以後

◆キャッシュレス普及の鍵はユーザー体験

◆安心、安全なキャッシュレス決済を提供する




◆当初は生みの苦しみも――試行錯誤の歴史


――まずはQUICPayの歴史を教えてください。サービス開始の経緯についてお伺いできますか?

QUICPayの発表をしたのは2004年の7月です。当時どういう状況だったかというと、電子マネーではEdyさん、交通系ではSuicaさんが既にスタートしていました。その実態を見てみると、チャージにクレジットカードを利用しているユーザーが多かったですね。非接触の技術も進んでいた時代で、当社もOfficaというFeliCaベースのソリューションを持っていました。Officaを簡単に説明すると職域向けの非接触ICカードソリューションで、たとえば社員食堂での決済や社内のパソコンのログイン認証、入退室の管理といった一連を一枚のカードで行えるもので、支払い情報に関しては社員が持っているクレジットカードを紐づけることができます。つまり、現在のQUICPayの原型となるサービスですね。それを一般市場にも展開していこうと2004年7月にQUICPayを発表し、サービス自体は2005年の4月に開始しました。
当時はちょうどおサイフケータイに対応した端末が出始めていて、おサイフケータイが広く使われていくという気運がありました。特にモバイルSuicaと呼ばれるおサイフケータイを使ったSuicaの利用者は非常に多く、今後は交通だけなく決済に関してもおサイフケータイの利用が大幅に伸びていくのだろうなと感じていました。そのため、QUICPayはサービス開始当初からカード型・おサイフケータイ双方に対応をしています。

――既に先行のサービスがある状況でのスタートだったのですね。その中で、QUICPayの強みは何だったのでしょうか?

最大の特徴はポストペイ(後払い)ですね。つまり、チャージがいらないことを一番の売りにしていました。事前にチャージをするプリペイド方式だと、チャージした金額を使いきれなかったり、クレジットカードと一体型のプリペイドカードはクレジットカードが更新されるタイミングで残額の引継ぎができず、プリペイドバリューが入った更新前のクレジットカードにハサミを入れてしまうという事態が当時は起きていました。そこで、クレジットカードをそのまま電子マネーにしたような、使った分だけ請求が出る仕組みがクレジットカードの利用者には良いのではないかと思っていました。

――実際にサービスを開始してみて、手応えはいかがでしたか?

強みだと思っていたポストペイ方式が、いざ始めてみると利用者拡大においては、弱みになってしまいました。背景としては当時のQUICPayはクレジットカードを持っている人しか発行できなかったからです。子供や高齢者を含め誰でも発行できるプリペイド方式に比べ、クレジットカードを所有者にしかアプローチ出来ないQUICPayは、会員数が伸びませんでした。そうなると必然的に加盟店も増えない。強く推進いただいたカード会社等の力で普及が進んだ地域もありましたが、全国的に満遍なく広まっているという状況ではありませんでした。

――サービス開始当初は試行錯誤されていたんですね。

そうですね。サービスを始めてから暫くの間は、まさに生みの苦しみを味わっていました。





◆若年層の獲得――QUICPay+以後


――現在はポストペイ以外にも、様々な支払い方法が可能になっていますよね。こちらはいつ頃から対応されたのでしょうか?

2016年の8月にQUICPay+という拡張サービスを発表したタイミングですね。従来のQUICPayはユーザーの待ち時間を最小限にとどめるため、店舗側の決済を基本的にはオフラインで処理していました。QUICPayを開始した当初は加盟店端末の通信回線も電話回線をそのまま使っているケースもあり、オンラインで決済すると処理時間がかかってしまうので、原則オフラインで数回に一度だけオンラインに飛ばして紐づいているクレジットカードの情報を確認するようなシステムにしていました。しかし、デビットカードやプリペイドカードなど多様な決済手段に対応するためには、全てをオンライン決済で行う必要がありました。そこで、オンライン決済が可能なQUICPay+を導入したという経緯です。

――QUICPay+を導入されたことで、他に変化はありましたか?

一番大きな変化は、Apple PayやGoogle Payといったモバイル決済のプラットフォームに対応できるようになったことでしょう。Apple Payに対応する2016年10月より前には、QUICPayのユーザーは500万会員程度でした。しかし最新の数字ではQUICPayのユーザー数は1,186万6,000人です。これは2019年1月末時点での数値ですが、その後もぐんぐん伸びている印象があります。

――この2年で倍近くの伸びがあったのですね。ユーザーの属性にも変化は見られたのでしょうか?

若い利用者が増えましたね。定期的に調査を行っているのですが、直近で最も認知率が伸びているのが20代の女性です。実は今、全年代の中で認知度が高いのはこの層なんですよ。女性に向けたアプローチは過去も数多く取り組んできましたが、これまではなかなか上手くいかなかった。やはりテクノロジーや決済は男性のものというイメージが強かったんですね。けれども、Apple PayやGoogle Payへ対応したことによって、モバイル決済がかなり一般化した印象があります。
また、最近は20代や30代の女性をターゲットに様々な施策も実施しました。早速効果も見えていて、この世代や、そして少し上の40代女性の認知も急上昇しています。

――QUICPayユーザー全体で見ると、モバイルで利用している方はどれくらいいるのでしょうか?

現在はおよそ半数程度の方がモバイルでご利用いただいています。また、モバイルのユーザーはカードタイプのユーザーに比べて稼働率が高いです。カードタイプだとどうしても物理的にお財布の場所を取るので、お客様がお持ちのカードが増える度にお財布から出されて、利用されなくなるリスクがあります。その点モバイルは常に持ち歩いているものなので、稼働率が落ちないのは大きな強みですね。

――モバイル決済サービスが多く使われるシーンとして、コンビニなど少額決済の場面があると思います。QUICPayが利用されるシーンも同様の傾向がありますか?

はい、コンビニでの利用は多いですね。日常的に使うお店なので必然的に回数は多くなりますが、最近は加盟店の拡がりも伴い、高額な決済も徐々に増えてきています。もともとQUICPayは1回の決済金額を上限2万円に設定していたのですが、QUICPay+ではその上限金額を取り払いました。それもあって、たとえば飲食店や衣料品の購入、遊園地などのテーマパークでもQUICPayが使えるようになっているのですが、そういった場所では1万円以上の高額な決済も増えてきましたね。


(モバイル決済でのQUICPay利用シーン。スマートフォン1つで手軽かつ安全に決済を行える)


◆キャッシュレス普及の鍵はユーザー体験


――東京ディズニーランド・東京ディズニーシー内で利用できるというのもQUICPayの特徴の一つですね。

そうなんです。パークの中では1日を通してご利用いただいています。ポップコーンを買ったり、お土産を買ったり、1日お財布を出さずにQUICPayで決済するという体験をすることで、その後の継続利用に繋がっています。利便性を体感していただくことが、モバイル決済に対する抵抗感を払拭したのだと思います。
実は今まで私たちが最も苦労してきたのは、まさにこのポイントなんです。いくら「モバイル決済は便利ですよ」と私たちが説明しても、実際に利用していただくまでのハードルを越えられなかった。しかし実際に特定の場所で利用されると、その後も継続的にお使いいただけるんですよね。音楽フェス等のイベントでQUICPayを利用できるようにした場合も同じような効果が起きているので、やはりユーザーが利用してみようと思う環境を作り、実際に体験いただくことがモバイル決済が拡がる重要な要素だと感じます。

――ディズニーカードの特典としては、キーチェーン型のQUICPayもありますよね。

おっしゃる通り、キャラクターの形をしたものがあります。これはディズニーJCBカードの特典なのですが、SNS等でよく写真も上げられていますし、非常に人気です。このキーチェーンをパーク内で使ってみたいと思っていただくお客様も増えておりキャッシュレスを始めるきっかけというのは案外こういう単純なところにあるのかもしれません。自分の好きな場所で好きなものを使ってみたいというワクワク感ですよね。
今、コード決済のサービスでは大規模なキャッシュバックキャンペーン等が行われており、それもキャッシュレスを始めるきっかけと思いますが、QUICPayは魅力的のあるサービスを提供し、キャッシュレスを便利に楽しんでいただくことで利用者を増やしていきたいと考えています。

――ユーザー体験では、どこで使えるかが重要になってきますよね。今後の加盟店開拓における戦略などがあれば教えていただけますか?

そうですね。コンビニやファーストフードなど日常的も立ち寄るお店から、ユニクロさんのように少し金額が張る買い物をするお店まで、現時点で導入はかなり進んでいます。そのため特定の分野を狙って行こうという考えはありません。ただ、今年は増税の年でキャッシュレスを新たに始める方も多いと思うので、満遍無く色々なところで使えるようにしたいですね。





◆安全、安心なキャッシュレス決済を提供する


――2018年から2019年にかけてはQRコード決済が世間の大きな注目を集めました。QRコード決済に対してはどのような印象をお持ちでしょうか?

非接触型決済とQRコード決済は充分に共存できると思います。QRコード決済のサービスがキャッシュレス利用者の裾野を広げていただくことで、まずは現金を使わない良さを知っていただき、QUICPayもご利用いただけるチャンスが増えると思っています。
また、LINE PayさんとはプリペイドカードでもQUICPayでも一緒にお取り組みをさせていただいていますが、「QRコードで払っていただける方もいれば、カードや非接触で支払いたいと思われる方もいる。だからこそ非接触も積極的進めていきたい」というお話をされたりします。LINE Payさんは3月中旬~下旬にかけてPayトクという20%還元のキャンペーンを実施されていましたが、今回からLINE Payを経由したQUICPayでの支払いも対象にしていただきました。SNSを見ていると、ユーザーの反応が非常に良かったですね。
一方、加盟店に関しても、非接触型決済を導入するにはどうしてもコストがかかる部分もあるので、たとえば屋台など小規模なお店にとっては現実的に導入が難しいと思います。そういったお店に対してはQRコード決済を導入するメリットの方が大きいでしょう。日本の隅々までキャッシュレス化を推し進めるという意味では、QRコード決済と非接触型決済、そしてクレジットカードと、それぞれの良さを活かして住み分けをしていくのが効果的なのかなと考えています。

――キャッシュレス決済全体の利用者を増やしていくためにそれぞれの役割を担っていくということですね。その中で、QUICPayとしては今後どのような戦略で拡大を目指していくのでしょうか。

QUICPayとして、JCBとして、というよりはキャッシュレス決済の手段を提供する一つの会社として、まずは世の中全体にキャッシュレス決済がいかに安全で、安心して使えるものかということを広めていきたいですね。もちろんその中で当社のサービスを選んでいただければ何よりですが、まずはキャッシュレスそのものへのイメージ作りが重要ではないかと考えています。

――やはり「安全」や「安心」がキーワードになるのですね。

やはりキャッシュレスが流行る大きな要因の一つとして、「安全」「安心」があるのではないでしょうか。まだキャッシュレス決済に移行できていない方がどうして現金にこだわっているのかと言うと、現金の方が安全だと思われているからなんですよね。キャッシュレス決済に対する心理的なハードルを下げるためには、ユーザーに安心感を与えることが一番でしょう。当社としても、「安全」「安心」なサービスの提供を通じて、キャッシュレス決済の推進に貢献できると思います。その上で、JCBらしい、またQUICPayらしい施策を展開していきたいですね。




【編集後記】
若い世代、特に20代女性の認知が劇的に伸びたというQUICPay。ユーザー体験や口コミを重視した独自の取り組みが印象的だった。




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