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2018年11月29日

【モバイル決済キーパーソン】d払い 大浦勇亮ペイメントビジネス担当課長ロングインタビュー「キャッシュレス化を進める2つの切り札 キャリア決済とdポイント」

【モバイル決済キーパーソン】d払い 大浦勇亮ペイメントビジネス担当課長ロングインタビュー「キャッシュレス化を進める2つの切り札 キャリア決済とdポイント」




◆はじめに――モバイル決済キーパーソンの考えを知る


「モバイル決済キーパーソン」と題し、モバイル決済の注目企業にインタビューを行う本企画。第3回目となる今回は、今年4月のサービス開始以来急成長を遂げているd払いに注目した。6,700万人以上という強固な顧客基盤を持つドコモは、QR決済をどのように推進しようとしているのだろうか? NTTドコモ大浦勇亮ペイメントビジネス担当課長に話を聞いた。

【目次】


◆はじめに――モバイル決済キーパーソンの考えを知る

◆パスワードだけで即支払い――街でも使えるキャリア決済

◆全てのユーザーにお得と安心を――上限金額、ポイント還元

◆目指すは200万ヶ所――dポイント経済圏

◆d払いの2つの切り札――キャリア決済とdポイント




◆パスワードだけで即支払い――街でも使えるキャリア決済



――d払いのサービスを開始したきっかけや経緯を教えてください。

d払いを開始したのは2018年4月25日ですが、それ以前からECサイト向けのキャリア決済サービス「dケータイ払いプラス」を展開していました。「月間およそ1,500万人に利用されているキャリア決済を街の実店舗でも利用できるようにしよう」という狙いで始めたのがd払いです。
また、ドコモには他にもiDやdカードといったキャッシュレス決済のサービスがあります。日本の現在のキャッシュレス比率は20%程度だと言われていますが、今後の伸びしろは多分にあるでしょう。その中で、iモード時代から積み重ねてきたキャリア決済のノウハウを活かし、d払いという新たな選択肢を提供することになりました。

――「キャリア決済」はd払いのキーワードの一つですよね。その点も含めて、d払いの強みや特徴についてお話しいただけますか。

d払いはドコモ以外の回線を契約しているお客様にもお使いいただけるサービスですが、やはりドコモユーザーにとっては「始めるまでのハードルが低い」ことが最大の魅力だと思います。
まず、ドコモのスマートフォン端末にはd払いのアプリがプリインストールされているので、自分でアプリを探してダウンロードする手間がかからないんですね。かつ、複雑な設定や申し込みも必要ありません。d払いでキャリア決済を利用する場合、4ケタのパスワードを入力するだけで設定が完了します。クレジットカードや銀行口座登録などの面倒な初期設定が不要で、すぐにサービスを使い始めることが出来るのはd払いならではの強みですね。実際に決済するときも、ECサイトでは4ケタのパスワードを入力するだけで、街中のリアル店舗ではバーコード等を見せるだけで、あっという間に支払いができます。

――利用開始までのハードルが低いのは重要なポイントですね。そうすると、やはりd払いユーザーにおけるドコモユーザーの割合は高いのでしょうか。

おっしゃる通り、サービスの特性上ドコモユーザーの割合が高くは出ています。しかし、ドコモ以外のユーザーでもクレジットカードを登録すればd払いを利用できるので、他の通信会社と契約しているd払いユーザーも一定数います。
また、d払いで支払うとdポイントが付与されるのですが、dポイントはどの通信会社と契約している方でも貯めることができるポイントです。dポイント会員は順調に伸びてきているので、「ドコモユーザーではないけれどd払いを使っている」という方は今後増えていくと思います。

――その他、d払いユーザーに特徴的な傾向はありますか。

全体的には性別や年代に大きな偏りはありませんが、男女で比較すると面白い傾向が出ています。iD含めたスマートフォン決済は男性の利用が多いのですが、ECでのd払いの利用に関して言うと、およそ7割程度が女性という状況です。実際ユーザーにアンケートを取ってみると、街中での決済に関しては「なんとなく面倒」という漠然とネガティブなイメージを持っている方が多くいます。
ただ、女性はポイントに敏感な傾向が強いので、「街のお店でd払いを使えばもっとお得にdポイントを貯められる」という訴求が出来れば、男女共に街のお店でのd払い利用はもっと伸びると思います。そのためにも重要なのはユーザー体験ですね。実際に一度d払いを街中で使ってもらい、「思ったより簡単にできた」と体感することで、自ずとリピーターは増えていくはずです。


(実店舗におけるd払い利用の流れ。キャリア決済の場合は、利用前の煩雑な登録も不要。)

◆全てのユーザーにお得と安心を――上限金額、ポイント還元


――それでは、d払いのユーザーは実際どのようにd払いを利用しているのでしょうか。

金額で言うと、ECの場合1人あたり1ヶ月に1万円程度の利用があります。街での利用も大体同程度ですね。
d払いでは支払い上限額を設けており、1ヶ月あたり10万円まで利用できます。また、10万円以下であれば自分で上限金額を変えられる便利な機能もあるんです。たとえば月々のお小遣いに合わせて上限額を3万円に設定するなど、自分の懐事情に合わせてカスタイマイズができる。残額はd払いアプリのトップなどで簡単に確認できます。モバイル決済は使いすぎてしまいそうで不安という方も含めて、誰でも安心して利用できるサービスになっています。

――まだクレジットカードを作ることができない若年層に対しても親和性の高いサービスと言えそうですね。

未成年の場合はキャリア決済の上限額が月々1万円になります。ユーザー自身にもユーザーの家族にも、安心してほしいというのが一番ですね。また、若年層に限らず、クレジットカードを持てなかったり、クレジットカードに抵抗があったりするユーザーは一定数います。そういった方々にとってもd払いは使い勝手の良いサービスになっていると感じます。

――d払いではユーザーに対して数々の個性的なキャンペーンを展開していますよね。特に効果のあったキャンペーンはありますか。

10月25日~11月4日の期間で開催されていた東京ラーメンショー2018というイベントは大きな効果がありましたね。d払いでラーメンのチケット代を支払うと、後日ラーメン代全額相当のdポイントが還元されるというキャンペーンを行いました。これがTwitterなどのSNSで非常に拡散され、新規ユーザーの獲得にも繋がりました。

また、9月から10月末にかけてはローソンでdポイントを10倍付与するキャンペーンも実施しました。その他の加盟店とも還元率の高い様々なキャンペーンを行ってきましたが、11月23日からはdポイント3周年を記念し、「dポイント 3rd Anniversary キャンペーン」という大規模なポイントキャンペーンも始まっています。「dポイントがお得だから買い物に行こう」というように、ユーザーがお店に足を運ぶきっかけを作ることが出来ればいいなと考えています。

――ポイントキャンペーンは、ユーザーだけでなく加盟店にとってもメリットがあるということですね。

d払いの導入によって新規利用に繋がったり、購買頻度が上がったりするのは、既にECサイトの方で多数の実績が出ています。日頃の携帯料金の支払いなどで貯まったdポイントを使いたいユーザーにとっては、「d払いで支払えること」が購入の決め手になるケースも多いようです。


(「dポイント 3rd Anniversary キャンペーン」では、最大50倍のdポイントが付与されるなど、様々な特典が用意されている。)

◆目指すは200万ヶ所――dポイント経済圏


――d払いを導入することによって加盟店にどのようなメリットがあるか、さらに詳しく教えていただけますか。

先ほどもお話しした通り、新規ユーザーが増え、購入頻度が上がることによって客単価が上がります。d払いの導入が直接売り上げの増加に繋がるのは、加盟店にとって大きなメリットですね。どうやってそれを実現するのかというと、一つにはdポイントの強みがあります。dポイントで買い物ができること、還元率がお得なことなどから、加盟店で買い物をする導線を作っていく。
また、もう一つには我々が持っている媒体の強みがあります。ポータルサイト、メール、アプリなど、ユーザーとの接点を様々に活用して、加盟店への来店を促すことができます。

――続いて、加盟店の決済手数料に対する考え方を教えてください。

d払いの決済手数料は一概には言えないのですが3%台が多いです。導入の際、d払いの導入パートナー企業と加盟店側で取り決めを行うことになっていますが、決済手数料を0%にしない理由は明確にあります。やはり決済手数料を0%にしてしまうと、ビジネスとして継続するのが難しいんですね。加盟店に対しても「0%だから導入してほしい」とアピールをするのではなく、手数料が多少かかったとしても、それ以上の価値があるのだと感じていただくことが重要だと思います。
今後手数料を下げることも検討していく必要があるかもしれませんが、「d払いを導入して売り上げが伸びた」という効果を実感してもらうことが一番でしょう。

――今後さらに加盟店を増やしていくにあたり、目標や戦略はありますか。

d払いが使える実店舗は2018年9月末時点で約1.9万店舗あります。また、サービス開始当初から「近い将来10万店舗に導入しよう」という目標を掲げています。導入のお手伝いをしていただくパートナー企業を増やしながら、是非実現させたい数字ですね。さらに、iDやdカードを含めてdポイント経済圏全体として考えると、2021年度には200万ヶ所への導入を達成させたいと考えています。

また、d払い単体の戦略的なところで言うと、コンビニやドラッグストアといった生活に身近なお店への導入を進める必要があると思っています。それと同時に、導入パートナー企業の力も借りながら徐々に中小規模の店舗も開拓していきたいですね。
d払いは中小規模の店舗にとって導入しやすいサービスです。既にドコモで展開している非接触型決済のiDに比べると、QR決済のd払いは比較的安価に導入することができます。実際に毎月相当数の個店がd払いを導入してくれています。



◆d払いの2つの切り札――キャリア決済とdポイント


――続いて、大きなテーマに移りたいと思います。日本のキャッシュレス化の現状についてはどのようにお考えでしょうか。

現状のキャッシュレス比率は2割程度ということで、現状としてはまだまだと感じます。オフィス街のコンビニなどで様子を見ていても、やはり一生懸命小銭を出している人が多い印象です。
ただ、来年あたりから世の中全体が大きくキャッシュレス化へ動いていくような雰囲気は感じていますね。我々は「キャッシュレス推進協議会」に参加しているほか、経済産業省やその他の省庁とも連携を取っています。2019年は10月に消費税増税が控えていますが、その対策として国はキャッシュレスで決済した場合にポイント還元することを検討していますよね。事業者の努力ももちろん重要ですが、国が先導してキャッシュレス化を推進してくれることで、モバイル決済は一挙に浸透していくでしょう。我々も国と歩調を合わせて決済事業を進めていきたいと考えています。

――業界内の他社についてはいかがでしょうか。

そもそも日本のキャッシュレス化の現状が思わしくないという事情もあるので、各社これからという状況ではないでしょうか。業界内でしのぎを削るというより、今はモバイル決済そのものを盛り上げるフェーズにあると認識しています。お財布を持ち歩き、支払いの都度現金を出して支払う方が圧倒的に多い現状を業界全体で変えていく必要があると思っています。

――それでは、社会全体にキャッシュレス化を広めていく中で必要となる今後の目標や戦略について教えてください。

ドコモ全体としては、戦略的にお客様の捉え方を変えようとしています。これまでは「お客様=通信契約者」でしたが、今後は「お客様=dポイントクラブ会員」という図式に基づいて、dポイントクラブ会員を軸に事業を展開していきます。

また、d払いという単独のサービスとしては、ドコモ全体の方向性を踏まえた上で、2つのアプローチが可能であると考えています。1つは、dポイントで決済ができるというアプローチです。もう1つは、キャリア決済が街でも使えるというアプローチです。dポイントのユーザーとキャリア決済のユーザーは現在大きく被っていない状況なので、ドコモの顧客基盤を活かして多角的にd払いをPRしていくことができると思っています。
さらに、d払い単体でも加盟店を増やし、どこでも使える状態にするのも大きな目標ですね。ゆくゆくは数百万人規模のユーザーに利用していただけるようなサービスにしていきたいと考えています。

――dポイントとキャリア決済という2つの強みから、キャッシュレス化を推進されるということですね。

キャッシュレス化を正攻法で推進しようとするのは大変なことです。アプリをリリースし、認知を広げる。そして消費者にダウンロードしてもらい、銀行口座やクレジットカードを登録してもらった上で実際に利用してもらう。この一連は非常にハードルが高いです。特に口座やカード登録の段階など、途中で挫けてしまう人もたくさんいると思います。

その点d払いは約6,700万人にも及ぶNTTドコモの顧客基盤を持っています。スマートフォン端末にd払いのアプリがプリインストールされていたり、キャリア決済であればECであれば4ケタのパスワード入力のみで支払いができたり、街のお店であればバーコード等の提示のみで支払いできたりと、ユーザー体験を手軽に行える環境を提供している。さらにその上で、dポイントとキャリア決済の両軸からアプローチしていくことが可能なんですね。これらの強みを最大限に活かして今後もますますサービスを拡大させていきたいと考えています。



【編集後記】
大浦課長は2011年からキャリア決済を担当されてきたプロフェッショナルだ。大浦課長の話を伺っていると、キャリア決済がインターネットから街に飛び出していく歴史を目の当たりにしているように感じた。



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LINE Pay 長福久弘COOロングインタビュー「キャッシュレス化は人手不足を解消する切り札」
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楽天ペイ 諸伏勇人シニアマネージャーロングインタビュー「累計付与1兆ポイントの力からキャッシュレス化を推進」
・MMD研究所で実施したモバイル決済に関する調査結果はこちら。
「2018年5月 モバイル決済利用者・未利用者比較調査」

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