コラム
2025年6月11日
ユーザーの経済圏利用にはギャップが! 意外な視点と深層発見【2025年通信市場の実態~データとユーザーの生の声から紐解く消費者動向~ Vol.1】
2025年4月17日に「2025年通信市場の実態~データとユーザーの生の声から紐解く消費者動向~」内にて、MNOユーザー3人とMVNOユーザー2人の方にリアルタイムでインタビューを実施いたしました。今回はMNOユーザーにインタビューした内容を、実際に担当した弊社モデレーターからインタビューへの意識や工夫点、仮説検証などを聞き、まとめています。
インタビューを考えている方はもちろん、通信サービスについても分析していますので、通信事業者の方にも参考になる内容です。ぜひご覧ください。
2025年通信市場の実態~データとユーザーの生の声から紐解く消費者動向~
- Vol.1:【MNOユーザー】ユーザーの経済圏利用にはギャップが! 意外な視点と深層発見
- Vol.2:【MVNOユーザー】MVNOユーザーの「詳しくない」は真実か? 価格と不安に隠れた選択の理由
目次
■ インタビュー全体の印象
■ 回答の引き出し方・インタビュー時の工夫
■ 発言の背景や意図の読み取り
■ 仮説から実際のインタビューで得られた気づき
■ ユーザーに対しての注意点
■ インタビュー調査を考えている方へ
<座談会ユーザー情報>
①30代女性
- 通信会社:楽天モバイル
- 所属している経済圏:楽天経済圏
②30代男性
- 通信会社:au
- 所属している経済圏:au経済圏
③30代男性
- 通信会社:ソフトバンク
- 所属している経済圏:PayPay経済圏
インタビュー全体の印象
今回は3人の方にご参加いただいたと思いますが、インタビュー全体を通してどのような印象を持たれましたか?
3人の方から、さまざまなお話を伺うことができて、良いインタビューになったのではないかと思います。
ただ、今回は限られた時間の中で3人にお話を聞いたため、本来であればもっと深掘りできるポイントがあったのですが、時間の都合で一部カットせざるを得ませんでした。もしデプスインタビューのような形式であれば、それぞれの方からさらに異なる意見を引き出せたのではないかと感じています。
インタビューを通して「新しい発見があった」「意外な視点だった」と感じる点はありましたか?
3人の方とも、事前インタビューの段階では「経済圏についてあまり意識していない」といった、いわゆるライトユーザー寄りの回答をされていました。しかし、実際に話を伺ってみると、意外と関連サービスをしっかり利用されていて、「全く興味がない」人たちとは明らかに違う印象を受けました。
「がっつり経済圏を活用している」と明言するようなユーザーは、さらに多くのサービスを使いこなしているんだろうなと想像が広がりましたし、「あまり使っていない」と自ら語る人たちも、一般ユーザーと比べると十分に経済圏に精通しているように感じました。このあたりの“ユーザー自身が持つ認識”と“実際の利用実態”との間にギャップがあるのではないか、という点は特に印象的でした。
今回のインタビューで、興味深かったものはありましたか?
興味深かった点として特に印象に残ったのはPayPay経済圏を利用されている方のお話です。
その方は、PayPayを使ったポイント運用なども活用されていて、かなりアクティブな使い方をされていました。そういった利用スタイルは、一般的なユーザーの中では比較的珍しいと感じましたので、その方のようなケースについて、もっと詳しく話を聞いてみたいと思いました。
3人の方に共通して見られたポイントや、逆に個人差が目立った点があれば教えてください。
まずは個人差が目立った点からお話しします。
特に印象的だったのは、経済圏を利用している理由に関する違いです。楽天経済圏を使っている方は非常にコストパフォーマンスを重視しており、楽天のサービスを幅広く利用して、ポイントを最大限に活用するスタイルでした。まさに「経済圏どっぷり」な印象でしたね。
一方で、au経済圏、PayPay経済圏の方は、楽天経済圏の方ほど経済圏に深く入り込んでいる印象はありませんでした。ただ、それぞれある程度利用するサービスをひとつの経済圏内に絞っている点などは共通していて、そのことによるメリットはある程度共有されていると感じました。
次に、共通して語られていたポイントについてですが、au経済圏、PayPay経済圏の方は、通信会社に対して特に大きな不満はなさそうでした。それに対して楽天経済圏の方は、若干の不安を感じている様子で、回線品質に関する懸念があるように見受けられました。
還元率などの面では楽天経済圏が優れている一方、au経済圏、PayPay経済圏はユーザーに「安心感」を提供できているのではないか、という印象を持ちました。
回答の引き出し方・インタビュー時の工夫
インタビュー時の工夫として、たとえば質問に対して、ユーザーが理解しにくそうだなと感じた場面はありましたか?
特に難しい場面としては、やはり専門用語が入ってしまう場合がありました。業界の人であれば理解できる内容でも、ユーザーにとっては伝わりにくいだろうなという質問もありました。
そうしたときには追加質問などをする際に、なるべく難しい言葉や業界用語を避けるようにして、内容をかみ砕いて説明するように心がけていました。また、ユーザーが理解しやすい形で質問を投げかけることで、回答をスムーズに引き出せるよう工夫していました。
具体的に話を深掘りするために、意識していた聞き方などがあれば教えてください。
時間が限られていたこともあり、深掘りをしてしまうと全体の進行に支障が出てしまう可能性がありました。そのため、あえて深掘りするポイントをかなり絞る必要がありました。追加の質問を多くいただいていたこともあり、そうした点を踏まえると、どうしても個別の話を掘り下げることが難しかったのが実情です。
「ここはもっと深掘りしたかったな」と感じたポイントについては、セミナー終了後の登壇タイミングで補足的にお話しするようにしました。
インサイトが得られたと感じた瞬間はありましたか?
ユーザーからの断片的な回答の中に「ここを深掘りすれば、きっとインサイトにつながるだろうな」と感じる場面はいくつもありました。
ただ先ほどもお話しした通り、今回は時間の制約があったため、そうした部分を深く掘り下げることができなかったのが正直なところです。
発言の背景や意図の読み取り
断片的な発言の中に、何か重要な要素や背景が隠れていそうだと感じた場面はありましたか?
楽天経済圏の方は非常にコストパフォーマンスを重視している印象が強く、あまりその裏にある深い背景までは感じ取れませんでした。
一方で、au経済圏、PayPay経済圏の方は、発言の中に「漠然とした信頼感」のようなものが見え隠れしていた印象があります。
そうした背景に何かが隠れていそうだと「気づく」ためのポイントやコツのようなものはありますか?
私の場合、発言の見極め方としては、ある程度「パターン」で覚えているところがあります。
過去のインタビュー経験や外部研修などを通して、どのような発言に注目すべきかを自分なりにパターン化していて、「この言い回しやニュアンスは、調査目的や課題に関わる深いヒントかもしれない」と常に意識しながら聞いています。
また、事前に用意したスクリプトの段階で、「このような発言が出たら、絶対深掘りしたい」ポイントを明確にしておくようにもしています。そのため、本番中もそうした発言が出たタイミングで、迷わず反応できるようにしています。
今回に限らず、何か気づきがあったときに、その発言を深掘りする際に意識している工夫などがあれば教えてください。
意識していることとしては、相手の答えを誘導しないようにすることです。
たとえば「なぜそうなのですか?」といった形で、こちらからヒントを与えずに、相手の言葉で自然に答えを引き出せるように質問することを心がけています。
仮説から実際のインタビューで得られた気づき
通信に対する意識やニーズに関して、従来の仮説はどのようなものだったか教えてください。
現在「ポイ活」などのトレンドがある中で、弊社としては「退会防止」、つまりリテンション施策を最も重視しています。次に重視しているのがARPUの向上、そして最後にユーザー獲得の順番で優先順位を立てています。そのため、今回のインタビューでは「リテンション施策として、ポイ活プランや経済圏の存在がどれだけ寄与しているか?」という点を主な目的として設定していました。
実際にインタビューを行ってみると、楽天経済圏の方については、経済圏によるポイント付与が継続利用の大きな理由になっており、「退会防止」に明確に寄与している印象を受けました。楽天経済圏を使い続ける理由が、まさにポイントを貯めたいから、と非常にわかりやすい動機であり、経済圏の影響が大きく出ていると感じました。
一方で、au経済圏、PayPay経済圏の方については、現時点ではリテンション施策にどこまで経済圏が寄与しているか、明確には言い切れない印象でした。
ただし、au経済圏の方は回線の速度や品質に満足して利用しており、PayPay経済圏の方も長く同社を使い続けている方でした。両者ともに、経済圏関連のサービス(au PAY マーケットやPayPayでのポイント利用など)については好意的に捉えていました。
仮に今後、何らかのきっかけで「解約したい」と考えたときに、経済圏と連動して利用しているサービスが多ければ多いほど、「通信会社を変えると他のサービスも変えなければならない」といったハードルが発生するため、やはりリテンションには一定の効果があるのではないかと感じました。
総合的に見て、当初の仮説である「経済圏はリテンションに寄与する」という点については、一定程度仮説通りであったと考えています。
仮説と異なっていた点についてですが、特にそういった部分は見られませんでしたか?
今回のインタビューに限って言えば、仮説と大きく異なるような点は特になかったと思います。
先ほど、auとソフトバンクの経済圏を利用している方々については、リテンションへの寄与がはっきりしないというお話がありましたが、もしデプスインタビューでもっとしっかり深掘りしていたら、その仮説がより正しいかどうかは判断できたと思いますか?
そうですね。ある程度は把握できたのではないかと思います。
特にPayPay経済圏の方については、興味深い発言がいくつかありました。そうした発言をさらに深掘りしていけば、「なぜその方が現在の通信会社を使い続けているのか」、あるいは「なぜ他社への乗り換え意欲が見られないのか」といった点がより明確に見えてきたはずです。
そういった掘り下げができていれば、経済圏がリテンションにどの程度寄与しているのかという点について、もっと定量的・定性的に明確な判断ができたのではないかと思います。
ユーザーに対しての注意点
今回の結果を踏まえて、これからインタビュー調査を検討している人にとって、どのあたりが特に価値のある内容になりそうだと感じましたか?
今回は、インタビューの「結果」そのものというよりも、「インタビューとはどういうものか」という点が非常に参考になると思います。
今回のように3人を対象にしたグループインタビューでも十分に得られるものはありましたが、同様の人数に個別インタビューを実施するような場合には、一人あたり1時間しっかり時間を使って深掘りしていくことができます。
実際、今回は追加質問によって細かい点に触れる場面もありましたので、そうした内容を事前に想定しておくことで、より効果的な設計ができると思います。
このインタビューは、ある意味で「簡易版」として捉えていただけるとよいかもしれません。今後、自社でインタビュー調査を実施する場合、自社の課題や目的に沿った形で、より深い内容を引き出すための参考になるはずです。
今回インタビューに参加された3人の対象者に対して、特に配慮した点があれば教えてください。
今回の3人の方々はそれぞれが初対面で、セミナーの当日が初めての顔合わせという状況でした。そのため、いきなり「みなさんで自由に話してください」といった質問だと、特にZoomのようなオンライン環境では話しづらさが出てしまいます。
そこで、進行側からあらかじめ話題や質問を提示し、それに対して1人ずつ順番にお話を伺うように配慮しました。また、急に発言を求めるようなことは避け、たとえば1人目の方に質問した内容を、そのまま2人目の方にも「どう思いますか?」と尋ねるのではなく、きちんと背景や意図を伝えてから質問するようにしました。
Zoomのような形式では、他の方が一時的に気を抜いてしまうこともあるため、発言の流れが唐突にならないよう、特に“本番”の場で混乱が生じないように、進行には細かく気を配るようにしていました。
インタビュー調査を考えている方へ
最後に、今後インタビュー調査を検討している方々に向けて、何か伝えておきたいことがあればお願いいたします。
今回は「通信」のテーマについて、比較的広く、ざっくりとお話を伺う形式にしました。具体的には「経済圏」を切り口にしながら、通信にまつわるさまざまな意識や利用実態を幅広く聴取しています。
ただ、インタビューの設計次第では、特定のサービスについて「この機能はどうだったか?」「実際に利用してみてどう感じたか?」といった、かなり細かい部分にフォーカスすることも可能です。まだ課題が明確でない段階の企業や、ざっくりとした仮説しか持っていない方から、すでに特定の課題を持っていてそれを明確に検証したいクライアントまで、幅広いニーズに対応できる手法だと思います。
インタビュー調査は目的やテーマに応じて設計の幅が広いので、ぜひ柔軟に活用していただければと思います。
▼もっとインタビュー調査について詳しく話を聞きたい、相談・質問したい方はぜひお気軽にご連絡ください
※インタビュー調査自体についてはもちろん、今回のセミナーのインタビュー内容についてでも構いません
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MMD研究所(編集部員)