インタビュー
2018年12月6日
【モバイル決済キーパーソン】プリン(pring)広報 曽根田優菜氏 ロングインタビュー「お金コミュニケーションが導くキャッシュレスな未来」
【モバイル決済キーパーソン】プリン(pring)広報 曽根田優菜氏 ロングインタビュー「お金コミュニケーションが導くキャッシュレスな未来」
◆はじめに――モバイル決済キーパーソンの考えを知る
「モバイル決済キーパーソン」と題し、モバイル決済の注目企業にインタビューを行う本企画。第4回目の今回は、大手企業が続々と参入するモバイル決済業界にあって無視できない躍進を見せるスタートアップ企業pringの取り組みにフォーカスを当てよう。広報の曽根田優菜さんに話を聞いた。
【目次】
◆はじめに――モバイル決済キーパーソンの考えを知る
◆とことんユーザー目線――手数料ぜんぶ無料、分かりやすさへのこだわり
◆「お金コミュニケーション」の活性化――ユーザー、加盟店増を目指して
◆プリン拡大に向けた新事業――法人向けサービス
◆正直者が得をする世界へ――プリンが描く未来図
◆とことんユーザー目線――手数料ぜんぶ無料、分かりやすさへのこだわり
――2018年3月にローンチされたプリンというサービスについて、開始したきっかけや経緯を教えてください。
弊社代表の荻原は、もともと「SPIKE」という決済代行サービスを運営する会社の代表を務めていました。荻原にはSPIKEを始めた当時から「手数料0%の決済サービスを作りたい」という考えがあったようです。ただ、間にクレジットカードを挟むと手数料0%を実現させるのはどうしても難しい。荻原の描く理想とSPIKEのサービス自体が乖離していく中で、ちょうどみずほ銀行さんからお声がけいただき、プリンの立ち上げに至りました。
――SPIKEをスタートさせた当初から「手数料を0%にしたい」という想いがおありだったんですね。
荻原はSPIKEに関わる以前金融業界で働いていた経験もあり、例えば振込を行うときなど、裏ではデータを書き換えているだけなのに、お金を移動させる際に手数料がかかってしまうことに問題意識を感じていました。荻原はよく「お金の通り道の摩擦をなくしたい」という言葉を使いますが、その想いは現在でも変わっておらず、プリンというサービスの特徴を形作っています。
――それでは、具体的にプリンの強みや特徴をお聞かせください。
まず、「分かりやすさ」にはかなりこだわっています。実際の画面をご覧いただくと分かると思うのですが、UIには特に力を入れていますね。年代や知識に関わらず誰もが直感で操作できるような見映えを心がけています。
また、一切の手数料なしで「円」そのものを銀行口座から出し入れできることもプリンの大きな強みです。プリンでは、アプリ上のお金を手数料0円で口座に入金したり、あるいは口座からプリンにチャージできます。プリンはサービスを開始するにあたって、まず資金移動業者として登録を行いました。「円相当」のポイントやコインではなく、「円」をそのままやり取りできるのがユーザーにとって何より価値のあることだと考えたからです。
――それでは、実際ユーザーはプリンをどのように利用しているのでしょうか?
金額で言うと、1回の送金につきやり取りされる平均的な額は1,000円~2,000円程度です。友人と食事をした際の割り勘に使われたり、ご夫婦で生活費やお給料のやり取りをされたりするケースもあるようです。年代で言うと20~30代が比較的多く、女性がやや多い くらいでしょうか。また、現在のユーザー数は当初の事業計画で出していた数字を越えています。おかげさまで多くの方にご利用いただいています。
(プリンの操作イメージ。直感的に操作できるUIにはこだわりがある。)
◆「お金コミュニケーション」の活性化――ユーザー、加盟店増を目指して
――プリンはユーザーが増えれば増えるほどその強みが発揮されるサービスだと思いますが、今後更にユーザーを獲得していくため、どのような戦略をお考えでしょうか。
他の決済サービスで取り組んでいるようなポイント還元をプリンでは行っていません。大々的なポイントキャンペーンなどは、消費者を一時的にしか引き留められないと考えているからです。
また、プリンのコンセプトは決済サービスというより「お金コミュニケーションアプリ」です。お金コミュニケーションとは「お金をおくる」「お金をもらう」といったアプリ上でのお金のやり取りを指しています。つまり、プリンはお金を通して人と繋がるためのアプリなんです。そのため、単なるポイント付与というよりはお友達紹介キャンペーンなど、アプリの方向性にマッチした施策を今後も展開していこうと考えています。
さらに銀行との協力も必要不可欠です。プリンはクレジットカードとの連携を行っていないので、プリン上にお金をチャージするためには銀行口座を登録する必要があります。ユーザーにとっては、対応している銀行が多ければ多いほど利便性が高いサービスになるでしょう。したがって、口座連携できる銀行を増やしていくことも重要になります。
――続いて、加盟店に向けたお取り組みについてもお聞かせください。プリンは業界の中でもいち早く0.95%という低い決済手数料を打ち出していましたが、どのような考えがあったのでしょうか。
先ほどもお話しましたが、代表の荻原にはSPIKEを立ち上げた当初から「お金の通り道の摩擦をゼロにしたい」という考えがありました。そのビジョンに基づいて加盟店への手数料も可能な限り低く設定しています。何故それが可能かというと、プリンが直接銀行口座と紐づいているサービスだからです。クレジットカード支払いでは間に入っている様々な企業へ手数料を払う必要がありますが、プリンでは不要になっています。
――「お金の通り道の摩擦をなくしたい」という考え方を貫いているんですね。それでは、加盟店を増やしていくための取り組みについてはいかがでしょうか。
現在、ファミリーマートの一部の店舗では試行的にプリンを導入していただいています。やはりコンビニは消費者にとって身近な存在なので、今後は全国のファミリーマートに展開していきたいと考えています。
その他の取り組みも勿論行っていますが、加盟店を増やすと同時に、ユーザー間の「お金コミュニケーション」を活発にさせることも重要です。スマートフォン上でのお金のやり取りは、全体から見ればまだ多くの人が利用しているとは言えない状況です。しかし、そうした現状をプリンから変えていきたいと思っています。
簡単に割り勘ができたり、手数料ゼロで口座からお金を出し入れできたりするプリンの利便性を理解してもらい、どんどんユーザー間でお金コミュニケーションをしてもらう。そしてプリン上にお金が貯まっている状態で街中に出れば、ユーザーは自然とプリンで決済をしようと考えるのではないでしょうか。したがって、ユーザー増に向けた動きと加盟店増に向けた動きは、あくまでも不可分なものだと捉えています。
――なるほど。そうなるとやはりユーザー獲得のため連携できる銀行をいかに増やせるか、といった点が一層重要になりますね。
おっしゃる通りです。銀行側にもプリンと繋がるメリットを提示しながら、メガバンク・ネット銀行・地方銀行など、様々な銀行との提携を進めていきたいと考えています。例えば、 利用者がその地域を離れた時に口座が休眠してしまうという点は、地方銀行にとって大きな課題だと思います。
しかし、プリンに地方銀行の口座を紐づけておけば、地元を出てからもその口座をスマホ一つで運用することができます。ユーザーにとっては地元を離れても地銀の口座からお金を出し入れできるメリットがあり、地方銀行にとっては休眠口座が減るというメリットがあります。
◆プリン拡大に向けた新事業――法人向けサービス
――少し違う角度にはなりますが、ユーザー増といえば、10月から新たに法人向けの送金サービスも始められたのですね。こちらのお取り組みについてもお伺いできますか?
法人向けに、経費・報酬などの支払いサービスを始めました。日本瓦斯株式会社のグループ企業などでは、働き方改革を推し進める一つの手段として、早速導入していただいています。
仕組みをご説明すると、経費や報酬などを受け取る従業員や委託業者の方にプリンをダウンロードしていただく。給与支払いの担当者が管理画面上にCSVファイルなどで支払い情報をアップロードすると、従業員のもとに一瞬で着金します。従業員がプリン上で受け取ったお金は、もちろん無料で銀行口座に入金することが可能です。勿論ユーザー間で送金したり、実店舗での支払いに利用したりすることもできます。
現在このような形式で報酬支払いを行うことができるのは、QR決済サービスの中だとプリンだけです。法人にとっては支払い業務の効率化に繋がりますし、従業員にとっても報酬や経費を即座に受け取れるメリットがあります。従業員にしてみたら「立て替えた経費をすぐにもらえない」というのは完全に企業側の都合ですよね。プリンのサービスは、企業側・従業員側双方の困りごとを解決する手段になると思います。
また、今後は給与支払いに関する法改正も進んでいるので、プリンで給与も受け取れるようにしていけたら、と思っています。
――企業にプリンを導入することで、ユーザーが飛躍的に増えるという側面もありそうですね。
その通りです。企業全体にプリンを導入してもらうことによって、一挙にユーザーを獲得できます。さらに、従業員の家族や友人にプリンユーザーのネットワークが広がっていくことを期待しています。
(法人向け決済サービスの支払いまでのイメージ。)
◆正直者が得をする世の中へ――プリンが描く未来図
――銀行との連携を強化しながら今後の拡大を目指していくということですよね。ここからは大きなテーマについてお伺いできればと思います。まず、現在のモバイル決済市場についてはどのようにお考えでしょうか?
現在は業界全体でモバイル決済を盛り上げていくフェーズだと考えています。特にQR決済は非接触型決済に比べて認知も利用もまだまだこれからという状況です。具体的には、今後1年くらいは各社の活動を通して市場全体を大きくしていく流れになると予想しますね。その後生き残っていくQR決済サービスは、恐らく2~3に絞られていくだろうと思います。
――国との連携や政策についてはいかがでしょうか?
キャッシュレスに税金の優遇制度をつけるなどの動きがあります。国がリーダーシップを持って今以上に銀行や関係業界との連携をとってくれると有難いですね。人の行動が変わるのには時間がかかりますが、国全体としての大きな動きは後押しになると思います。
――今後社会全体にキャッシュレスの波が広がっていく中で、プリンが果たす役割や、必要となる戦略についてはどのようにお考えでしょうか。
プリンは「お金コミュニケーションアプリ」なので、日本のお金コミュニケーションを活性化させていきたいと思っています。そのためには、お金のやり取りそのものを変えていきたいですね。日本では未だに現金が強い状況ですが、友人との割り勘、会社での支払い、様々な場面でユーザー同士にプリンを使っていただき、お金コミュニケーションを身近なものにしていきたいと思っています。
たとえばプリンの社内でも、簡単な仕事のお礼として社員同士で100円や200円といったちょっとした金額を送り合うことがあります。それくらい気軽なお金コミュニケーションを増やしていくのが理想です。お金コミュニケーションを活発にすることで、友人や社員との距離感も縮まっていくと思います。
――キャッシュレス化を正攻法で推し進めるのではなく、「お金コミュニケーション」といった側面から促進するということですね。
その通りです。お金の通り道の摩擦をゼロにしたいというのは、「正直者が得をする世界になってほしい」というプリンの願いも込められています。現在の決済業界では消費者に不利な点が多々あるのではないでしょうか。
たとえばいつの間にか引き落とされてしまうクレジットカードの年会費や、分かりづらいポイント付与のシステムなどですね。これらは自ら努力して情報収集をしなければ分からない仕組みになっています。プリンはユーザーにとっての「分かりやすさ」を徹底することで、正直者が得をする世界を作っていきたいと思っています。誰もが簡単に得をできる仕組みを作り、お金コミュニケーションを活性化させることで、自ずとキャッシュレスな未来を導くことができると考えています。
【編集後記】
インタビュー中、広報の曽根田さんは実際にプリンの送金機能を実演してくれた。一目で操作方法がわかるUIと、送り手から受け手へ一瞬でお金が届くスピード感がプリンの強みだという。
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MMD研究所(編集部員)