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2019年4月11日

【モバイル決済キーパーソン】フェリカネットワークス 疋田智治 社長ロングインタビュー「キャッシュレス推進に向けサービス事業者とユーザーの橋渡しを」

【モバイル決済キーパーソン】フェリカネットワークス 疋田智治 社長ロングインタビュー「キャッシュレス推進に向けサービス事業者とユーザーの橋渡しを」




◆はじめに――モバイル決済キーパーソンの考えを知る


現在私たちが当たり前のように使っているSuicaやPASMOなどの交通系ICカード、そしてスマートフォンなどの携帯端末で可能なタッチ決済。 それらの機能が「当たり前」になったのは「FeliCa」と呼ばれる非接触IC技術があってこそだ。「モバイル決済キーパーソン」の連載8回目となる今回は、非接触型決済普及の立役者であるフェリカネットワークスの疋田智治社長に話を聞いた。

【目次】


◆ はじめに――モバイル決済キーパーソンの考えを知る

◆ 日本の交通を支えるFeliCa(フェリカ)の高速通信

◆「おサイフケータイ」から大きく広がるモバイル決済

◆ サービス事業者とユーザーの橋渡し――各電子マネー事業者との取り組み

◆ キャッシュレス化推進に向けた国内外の展開




◆◆日本の交通を支えるFeliCaの高速通信


――まずはFeliCaの歴史を教えてください。最初に搭載されたサービスは何だったのでしょうか?

非接触IC技術については、1980年代後半からソニーで研究・開発を始めていました。その後様々な紆余曲折を経て、最初に実用化されたサービスは香港のオクトパスカードです。これは香港の公共交通機関などで使用できる乗車カードですが、1997年にスタートしています。その後2001年には日本国内でもカードタイプのSuicaやEdy(現:楽天Edy)が実用化されました。2001年以前もいくつかのサービスで利用されるケースはありましたが、日本で急速に普及が進んだのはこの時期ですね。その後2004年に当社が設立され、おサイフケータイが登場しました。

――技術開発は早い段階から進められていたのですね。今や私たちの生活に欠かせないものとなったFeliCa技術ですが、その特長とは何でしょうか?

先ほども触れたとおりFeliCaの技術自体はソニーで研究・開発したもので、現在でも基礎の技術面はソニーが担っています。その上で特長についてですが、やはり高速で通信ができる点でしょう。交通機関の乗車券に使われるケースが最も多いこともあり、通信スピードの速さには自信を持っています。FeliCaなら、朝の通勤ラッシュなど多くの人が一度に改札を通る場面でも滞りなく処理することができます。

――交通機関におけるニーズは非常に高そうですよね。最初に実用化されたのが香港のオクトパスカードとのことでしたが、その他にFeliCaが海外で活用されている事例もあるのでしょうか?

はい、アジアを中心にご活用いただいています。インドネシアやベトナム、インドでも交通機関の乗車券として導入されている事例がありますね。これらの国では交通渋滞が問題となっていて、その解消のために国家として鉄道など交通インフラを整えようとしています。その過程で、乗車券や改札のシステムにFeliCaを導入していただきました。

――日本だけにとどまらず、アジアにも広がりを見せているのですね。交通機関の乗車券や電子マネーがFeliCaの代表的な活用事例だと思いますが、その他にはどのようなサービスに使われていますか?

おっしゃる通り交通系ICカードや電子マネーが主たるところではありますが、社員証や学生証といったIDカードとしても多くの企業や教育機関でご採用いただいています。また、会員証やチケットなど、様々な場面でご活用いただいています。






◆「おサイフケータイ」から大きく広がるモバイル決済


――それでは、「モバイル決済」を可能にするプラットフォームとしての側面についてもお伺いします。おサイフケータイを始めた経緯について教えていただけますか?

携帯電話用のモバイル FeliCa ICチップ開発が本格的に動き始めたのは、SuicaやEdyの実用化が始まった2001年から2002年にかけてです。NTTドコモ、JR東日本、ソニーの三社で協力して「携帯電話で改札を通過したり、決済が出来るようにしたい」というビジョンを共有していました。その後、2004年にNTTドコモから初めておサイフケータイ対応の携帯端末が発売されます。
当時のおサイフケータイに対する世間の期待度は非常に高いものでした。サービスを先導したのはNTTドコモですが、おサイフケータイはユーザーにとって非常に利便性が高いものなので、より多くの方におサイフケータイを使っていただくため、他のキャリアさんともオープンに取り組みを進めてきました。また、サービス開始から3~4年後には、nanacoやWAONなど対応する電子マネーも続々と増えてきました。

――従来のFeliCaカードとおサイフケータイ(モバイルFeliCa)の間には、どんな違いがあるのでしょうか?

一番の違いは、おサイフケータイはネットに繋がることだと思います。たとえば、FeliCaカードにはあらかじめサービスが書き込まれているのですが、おサイフケータイは通信が可能なのでモバイルFeliCa ICチップにサービスを追加発行することができる。つまり一つの端末に複数のサービスを載せられるので、カードであればお財布がかさばってしまうところを端末一台でスマートに管理できます。また、その場で残高を確認したり、チャージしたり出来る点もカードタイプとの大きな違いでしょう。券売機やレジに出向く手間がなくなりますからね。

――FeliCa機能を活用したモバイル決済のプラットフォームも、おサイフケータイ、Apple Pay、Google Payなど多様化してきましたよね。それぞれのユーザーの特長などがあれば教えていただけますか?

おサイフケータイのユーザー属性で言うと、やはり30~50代の男性が多いです。テクノロジーや決済に興味がある層の方々に順当に使っていただいていたのかな、という印象はあります。しかし2016年にApple Pay、Google Payが始まったことにより、幅広い層の方に利用されるようになりました。特にApple Payの対応後は20代の女性の利用者がぐっと増えましたね。とは言え、iPhoneユーザーには男性もたくさんいるので、全体として見れば一般的な分布になっていると思います。決済は年代や性別問わず誰しもに関わることなので、満遍なく様々な属性の方にお使いいただけるよう努力していきたいですね。






◆事業者とユーザーの橋渡し――各電子マネー事業者との取り組み


――フェリカネットワークスでは、電子マネー事業者と一体になって「電子マネー推進検討会」を運営されていますよね。こちらではどのような活動をしているのでしょうか?

より多くの方におサイフケータイで電子マネーを利用していただけるよう、おサイフケータイに対応した電子マネー事業者6社と共同で様々な取り組みをしています。当社が決済サービス自体を提供しているわけではありません。だからこそ、サービス事業者、ひいては業界全体を支援する動きが出来ればと考えています。
具体的な活動としては、たとえば各事業者と共同で音楽フェスなどにおいてキャンペーンを行っています。人出も多く現金の出し入れが煩雑になるフェス会場のグッズ売り場や飲食店で電子マネーを利用できる環境を整え、多くの方に非接触型決済の利便性を体感していただこうというのが目的ですね。電子マネーで決済していただくと抽選でグッズが当たるという企画なども実施しました。実際音楽フェスでの利用率は非常に高く、SNSを見ているとユーザーの反応も良かったです。
また、面白いところで言うと「きょんくま」さんというYouTuberのユニットとコラボした動画も発信しました。これも非常に反響がありましたね。与えられたお題に沿って色々な電子マネーで買い物をするバラエティー企画なのですが、動画視聴者からは「おサイフケータイってこんなに便利なんだ!」といったポジティブなコメントが多数寄せられていました。

――今お伺いしたようなユーザー獲得に向けた企画は、各電子マネー事業者と協力しながら進めているのでしょうか?

おっしゃる通りです。YouTuberとコラボした動画配信に関しても、企画段階から電子マネー事業者の皆様と案を出し合って進めました。通常、事業者同士は競争関係にあるわけですよね。しかし非接触型決済そのものを盛り上げようという意味では、手を取り合って業界の拡大を目指していくことができる。その支援をするのが当社の役割です。電子マネー事業者をサポートし、様々な企画を通してユーザーとの接点を作ることで、ユーザーと事業者の橋渡しをお手伝いしたいと考えています。

――なるほど。プラットフォームを提供しているフェリカネットワークスならではのお取り組みですね。

そういった意味では、電子マネー事業者だけでなく通信キャリアや端末メーカーとも日々連携を取っています。ユーザーが快適にFeliCa機能を使える環境を整えることが何よりなので、関係事業者との協力は欠かせないですね。



(2019年3月に開催された音楽フェス「30th J-WAVE TOKYO GUITAR JAMBOREE」でのコラボイベント)


◆キャッシュレス化推進に向けた国内外の展開


――続いて、国内のキャッシュレス決済の動向についてお聞かせください。2018年から今年にかけて、QRコード決済が世間の注目を集めていますよね。QRコード決済に対してはどのような印象をお持ちですか?

当社は決済サービスを提供している事業者ではないので、いわゆる「競合」には当たらないかなと思っています。また、非接触型決済とQRコード決済は共存できるものだとも考えています。現にLINE PayさんではAndroidの端末であれば非接触のQUICPayに対応していますし、メルペイさんでもiDを使われている。今後他のQRコード決済サービスでも、非接触に対応するところが増える可能性は十分あるのではないでしょうか。
更に言うと、QRコード決済が話題になることはモバイル決済、キャッシュレス決済全体にとってプラスだと思います。QRコード決済をきっかけに、「かざすだけで支払えるサービスもあるんだ」というように非接触など他のサービスに触れる機会もきっと増えますよね。
非接触型決済とQRコード決済ではユーザーインターフェースが違います。たとえば非接触の良さは支払いの手軽さ、セキュリティの安心感、使える場所の多さ、スマートフォンの電池が切れた後も使える利便性などが挙げられますが、特に交通に関してはFeliCaにしか出来ないスピード感があると思います。

――グローバルな対応についても教えてください。今年の2月にはNXP Semiconductorsとの技術協力で、海外市場でのスマートフォンでもFeliCa対応が可能になるという発表がありましたね。これはたとえば、訪日外国人が自分のスマートフォンでそのままSuica等を利用できるようになるということでしょうか?

そうですね。この発表に関しては突然始まったというものではなく、FeliCaが日本国内のスマートフォンに対応するようになって以来長年取り組んできたものがやっと発表できる段階に来たというものです。これまでは海外市場でのNFCスマートフォンは日本国内のFeliCaサービスに対応していなかったことから、「NFC対FeliCa」というような論調で語られることもありました。しかし、FeliCaはNFCの規格の一つです。今回のNXPさんとの技術協力では、その他のNFCの規格とともに国内のFeliCaサービスにも対応したグローバルスマートフォン端末が実現できるようになりましたが、今後も様々なパートナー企業の皆様と連携しながら、世界中でFeliCaが利用できる環境を作るために今後も努めていきたいですね。

――それでは最後に、今後日本社会で推進されるキャッシュレス化の動きのなかで、フェリカネットワークスとしてどのような役割を果たしていきたいとお考えですか? 今後の展開とあわせて教えてください。

当社の担うべき役割としてはやはり事業者とユーザーの架け橋になることですね。ユーザーが非接触型決済をもっと使いやすくなるように、関係事業者の皆様と連携を取っていきたいと思います。電子マネー事業者との取り組みは、先ほどもご説明したようなキャンペーンやコンテンツを引き続き実施していきたいですね。通信・端末関連の事業者に関しては、ユーザーがFeliCa機能をよりスムーズに、ストレスなく使えるよう協力していければと思います。
また、今後の展開についてですが、一つにはスマートフォン以外の端末でもFeliCa対応が進んでいくのではないかと考えています。具体的にはウェアラブル端末ですね。Apple Watchには既に対応していますが、これからますます対応端末が増えていくと思います。もう一つはサービスの広がりですね。特に交通分野です。Suicaを始め既にFeliCaは広く普及していますが、全国を見渡せばまだモバイルサービスが使えないエリアもある。全国の交通機関でモバイルFeliCaを利用していただけるよう、働きかけを続けていきたいと思います。

(FeliCa機能が組み込まれたNXP Semiconductors製ICチップ。驚くほど小さいことがわかる)

【編集後記】
交通、決済など幅広い場面で私たちの生活に根付いているFeliCa。FeliCaの圧倒的な処理スピードと安定性がどのように支えられているのか、その一端が垣間見えた。



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