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2019年1月16日

【モバイル決済キーパーソン】PayPay 馬場一 副社長執行役員COOロングインタビュー「キャッシュレス時代の新たなプラットフォームへ」

【モバイル決済キーパーソン】PayPay 馬場一 副社長執行役員COOロングインタビュー「キャッシュレス時代の新たなプラットフォームへ」




◆はじめに――モバイル決済キーパーソンの考えを知る


2019年になり、ますます競争が加速していくことが予測されるモバイル決済市場。本連載企画の第6回目となる今回は、2018年末に大きな話題を呼んだPayPayへのインタビューをお届けする。「100億円あげちゃうキャンペーン」の狙いは? キャンペーン終了後の展開は? PayPay株式会社 馬場一 副社長執行役員COOに詳しく話を聞いた。
※本インタビューは、「100億円あげちゃうキャンペーン」の終了直前に行った。

【目次】


◆はじめに――モバイル決済キーパーソンの考えを知る

◆新たなプラットフォームの創造――きっかけはヤフー・ソフトバンク共通の思惑

◆100億円はどう動く?――キャンペーン以後も見据えて

◆日本のどこでもPayPayを――拡大の鍵は「人」の力

◆キャッシュレス時代の新たなプラットフォームへ――PayPayの挑戦




◆新たなプラットフォームの創造――きっかけはヤフー・ソフトバンク共通の思惑


――PayPayのサービスを開始したきっかけや経緯を教えてください。

ご存じの通り、PayPayはヤフーとソフトバンクの共同出資会社です。PayPayを始めるに当たっては、新しいプラットフォームを創りたいという想いがありました。その背景に何があったかというと、両者の思惑が一致していたということですね。

まずヤフーに関して言うと、スマートフォンの普及に伴い、検索プラットフォームとしてのヤフーの立場が揺らぎつつあるという危機感を持っていました。メールや天気の確認、乗り換え経路の検索などをスマホ以前は全てヤフーで行っていた人たちが、スマホを持ち始めてからは個別のアプリで行うようになった。つまり、調べごとをするのにヤフーにアクセスする必要がなくなってしまったんですね。そこで、検索エンジンに代わる新たなプラットフォームを模索し始めました。

一方ソフトバンクにも心配な点がいくつかありました。5G回線に備えて設備投資が必要になったり、少子高齢化による人口減少の影響で通信契約が伸び悩むことが予想されたり、というところです。最近で言うと、官房長官の「通信料金4割下げる余地あり」という発言も話題になりましたよね。ソフトバンクとしても通信事業以外のサービスを開拓していかなければならなくなった。

そういった状況の中で、ヤフー・ソフトバンク双方の思惑が一致し、新たなプラットフォーム作りに協力して乗り出すことになったわけです。

――新たなプラットフォームとして考えられたのが、「決済」を軸とするものだったんですね。

おっしゃる通りです。どんなサービスでも決済は必ず付いて回るものですし、年齢や性別にかかわらず日本に住んでいる人全員に関係のある問題ですからね。決済を押さえておけば、未来のプラットフォームについて新しい発見があるかもしれないと考えたんです。

PayPayのシステム開発に関しては、インドの決済事業者であるPaytmと連携して進めました。Paytmはソフトバンクグループのソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資先の一つで、現在インドでは3億人のユーザー数を誇るインド最大の決済事業者です。

また、Paytmには中国のアリババグループも出資しているので、Paytm、アリペイ、PayPayはソフトバンクグループを介していわば親戚関係にあるようなものなんですね。Paytmやアリペイのビジネスはまさに決済を通じた新たなプラットフォームと言えるでしょう。先行事例を学び、日本風にアレンジして成功への近道を探ることができるのはPayPayの大きな強みです。



(Paytmの操作画面。決済だけでなく、各種支払いや映画、交通機関の予約なども行える。)


◆100億円はどう動く?――キャンペーン以後も見据えて


――それでは、PayPayのサービスの特徴について教えていただけますか。

ユーザーにとっては、お金をチャージする方法が3つあることは便利なポイントではないかと思います。この3つの方法とは、クレジットカード、銀行口座、そしてポイントです。ポイントに関しては、2019年の4月からヤフー関連サービスでキャンペーン時などに付与している期間固定TポイントをPayPayの残高として付与します。また、同時期にソフトバンクの長期継続特典等で付与していた期間固定TポイントもPayPayに変更する予定です。ユーザーが使いやすいサービスにすることが何より重要なので、様々なチャージ方法を用意しています。

――2018年12月4日から始まった「100億円あげちゃうキャンペーン」は大きな話題を呼んでいますね。このキャンペーンを通して、PayPayで支払われている平均的な金額等やよく支払われている店舗等についてお聞かせいただけますか。

よく使われている店舗で言うと、ご想像の通りコンビニがダントツで多いです。飲み物や食事など、普段コンビニでしているちょっとした買い物の支払いをPayPayでされる方が一定数いるのでしょう。また、家電量販店でPayPayを利用できることもご好評いただいています。今回のキャンペーンでは、毎回20%還元されるだけでなく、40回に1回全額還元のチャンスも設けました。ヤフーやソフトバンクのユーザーなら、全額還元の確率はもっと高くなります。全額還元を期待して普段はしない買い物をされた方もいるようですね。このキャンペーンが冬のボーナスの時期だったことも功を奏した要因かもしれないですね。

ユーザー1人当たり支払い金額については、平均をとると傾向は見えにくくなってしまうかもしれません。コンビニ等で少額決済をされるケースと、家電量販店で大型の買い物をされるケースで二極化しているような印象はありますね。

――「100億円あげちゃうキャンペーン」を実施する前の期間では、5,000円以上のチャージで1,000円分の残高をプレゼントするキャンペーンも行っていましたね。こちらについての手応えはいかがでしょうか。

「100億円あげちゃうキャンペーン」への期待感を高める意味でも、効果は充分にあったと感じています。今後も「100億円あげちゃうキャンペーン」のような大型キャンペーンの実施前には、セットとなる小型のキャンペーンを行うこともあるかもしれません。

――それでは、「100億円あげちゃうキャンペーン」が終了した後の次の打ち手についてはどのようにお考えでしょうか。

何よりもまず、ユーザーに使い続けてもらうための策を考えていく必要があります。今回の「100億円あげちゃうキャンペーン」でユーザーがどのような場所でどのような支払いをしたのか、満足度はどれくらいなのか、データを研究して次の打ち手に活かしていきたいですね。

また、2019年の1月10日ごろから順次今回のキャンペーンで還元される残高がユーザーに付与されていきます。還元額合計100億円分がどのように使われるのかという点も合わせて見ていきたいと思っています。コンビニなのか、家電量販店なのか、それとも誰かとコミュニケーションを必要とする居酒屋のような場所なのかなど、具体的な施策を検討するのはその後ですね。



(「100億円あげちゃうキャンペーン」は大きな話題を呼び、開始からわずか10日間で終了となった。)


◆日本のどこでもPayPayを――拡大の鍵は「人」の力


――PayPayでは、加盟店に対しても2021年まで決済手数料無料という施策を打ち出していますね。加盟店開拓についてはどのような戦略があるのでしょうか。

我々は「日本のどこでもPayPayが使えるようになる」ことを目指しています。日常的に立ち寄る機会の多いコンビニ等への導入はもちろんですが、PayPayをどこでも使えるようにするためには、中小規模の店舗へ導入していくことも必要になります。

したがって、比較的規模の小さな店舗でも導入しやすいよう、可能な限りコスト面でのハードルを下げています。コンビニや量販店ではキャッシュレスで決済ができても、近所のラーメン屋さんで使えないとなったら結局現金を持ち歩いていなければなりませんからね。「近所のラーメン屋さん」のような個店にも是非PayPayを導入してもらえるよう、PayPayの良さを伝えていきたいと思います。

――加盟店を増やすとともにユーザーを増やしていくための取り組みも必要になると思います。大型のキャンペーンとは別に、ユーザー獲得のため具体的に考えている施策はありますか?

スマートフォンで決済することに対する心理的な抵抗感を拭えたらいいな、と考えています。クレジットカードの登録にしても、銀行口座の紐づけにしても、複雑な作業だと感じる人は多いでしょう。そこで、PayPayではヤフー・ソフトバンクの強みを活かした地道な努力をしていきたいと思っています。

たとえば神戸ルミナリエではPayPayで募金グッズが購入できるブースを設け、PayPayのスタッフが直接アプリの登録方法や使い方をお伝えしました。日米野球でも公式グッズをPayPayで購入できる取り組みを行ったのですが、その際も同様に試合会場にブースを出展し、直接お客様に操作方法を説明しています。

さらに言うと、ソフトバンクとY!mobileは日本全国に店舗を持っています。スマートフォンの操作方法や端末の選び方など、お客様の相談に乗る「スマホアドバイザー」という専任のスタッフが在籍しているショップなどもあるんですね。将来的には、機種変更や契約変更などの際にアドバイザーからPayPayの使用方法についてもあわせてご案内したり、ご相談を受けられる体制を整えていきたいと思っています。

――先ほど伺った中小規模の加盟店開拓も個々の「人」の力が重要になると思うのですが、ユーザー獲得の面でもコミュニケーションを通した「人」の力を重視されているということですね。

その通りです。新しいサービスを始めるのは誰しも不安ですよね。そこで、ヤフー・ソフトバンクの「人」のネットワークを活かし対面でのコミュニケーションも大事にしながら、PayPayを広げていきたいと思っています。

また、今後はソフトバンクのスマートフォン端末にPayPayをプリインストールしておくような取り組みも考えています。端末にあらかじめPayPayが入っている状態で、お店でスタッフからサポートを受けられる。そういう導線を作ることで、PayPayのユーザー数を更に伸ばしていきたいですね。





◆キャッシュレス時代の新たなプラットフォームへ――PayPayの挑戦


――PayPayの今後の展開についてもお伺いさせてください。Paytmやアリペイと連携しながら、海外に向けた取り組みについてはいかがでしょうか?

現在の取り組みで言うとPayPayはアリペイと連携しています。日本のPayPayの加盟店で、訪日中国人の方がアリペイのQR決済を利用できるという仕組みなのですが、これはアリペイユーザー、PayPay加盟店双方にメリットがあります。アリペイユーザーには自国で使っているサービスを日本でそのまま使える便利さがありますし、PayPayの加盟店は訪日中国人の来店増加が見込める。

いつになるかは分かりませんが、この逆の方向のことも行えたらいいなと思っています。PayPayユーザーの日本人が外国に行って、PayPayで決済できるようになる未来をいつか実現させたい。Paytmやアリペイと連携を取りながら、通信でいう国際ローミングのように海外でもPayPayのサービスを使えるようにできたらと考えています。かなりの時間と費用がかかる大事業になりますが、是非挑戦したいですね。

――先ほども出たように、Paytmは単なる決済ツールというよりも決済を軸としたプラットフォームになっていますよね。この先行事例にならって、PayPayもプラットフォーム化を進めることになるのでしょうか?

こちらもまだ具体的にお話しすることは難しい段階ですが、いずれはそのような舵取りをしていくことになると思います。Paytmやアリペイは生活の導線に寄り添ったサービスを展開していて、タクシーの配車や映画の予約はもちろん、こまごまとした生活用品の支払いや公共料金の支払いまでアプリ上で行うことができるんです。そういった意味では、いずれPayPay上にヤフー関連サービスを紐づけて、プラットフォーム化することは可能でしょう。検索プラットフォームとしてのヤフーが担っていたような立場を、決済を軸にしたPayPayが担っていくことになるということですね。

――最後に、大きなテーマについてもお聞かせください。今後の日本のキャッシュレス化についてや、今後の目標・戦略などについてお話しいただけますか?

2025年までにキャッシュレス決済の比率を40%に引き上げようという国が掲げているビジョンもありますが、この調子でいけば達成できるんじゃないかと感じています。PayPayとしては、日本のどこでもPayPayが使えるようになることを目指して、ユーザー・加盟店双方に今後とも働きかけていきたいと思います。

キャッシュレス化の推進にはスマートフォン決済の事業者だけでなく、銀行を始め様々な事業者が関わっていますよね。「現金のやり取りを少なくする」という目標はみな共通して持っていると思うので、協力してキャッシュレス化を進めていきたいと考えています。




【編集後記】
PayPayにはヤフー出身の従業員とソフトバンク出身の従業員がおり、馬場副社長はソフトバンク出身だとのこと。両者の知恵やノウハウを結集して、PayPayが生まれたのだろう。



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