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2018年4月5日

【石川 温氏×木暮 祐一氏 特別対談】日本とアメリカのスマートフォン中古端末市場調査からみる、中古端末市場の今後


モバイル研究家 木暮 祐一氏×スマホ・ケータイジャーナリスト 石川 温氏




石川温  ジャーナリスト


1975年、埼玉県生まれ。中央大学商学部を経て、98年、日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社。日経トレンディ編集部で、ヒット商品、クルマ、ホテルなどの取材を行ったのち、2003年独立。現在は国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップル、海外メーカーなども取材する。日経新聞電子版にて「モバイルの達人」を連載中。ニコニコチャンネルでメルマガ「スマホ業界新聞」を配信。近著に『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞出版刊)がある。


木暮祐一 モバイル研究家


1967年、東京都生まれ。黎明期からの携帯電話業界動向をウォッチし、2000年に(株)アスキーにて携帯電話情報サイト『携帯24』を立ち上げ同Web編集長。コンテンツ業界を経て2004年独立。2007年、「携帯電話の遠隔医療応用に関する研究」に携わり徳島大学大学院工学研究科を修了、博士(工学)。2013年、青森公立大学准教授。スマートフォンの医療・ヘルスケア分野への応用をはじめ、ICTの地域社会での活用に関わる研究に従事。モバイル学会理事/副会長、ITヘルスケア学会理事。近著に『メディア技術史』(共著、北樹出版)など。
1000台を超えるケータイのコレクションも保有している。

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はじめに


昨今携帯電話市場の公正競争促進を目指すために、総務省や公正取引委員会が旗振りを行い様々な角度から話し合いが行われている。直近では、「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」が開催され、2017年12月から2018年1月の間にMVNO事業者、大手携帯電話事業者(通信キャリア)、消費者団体、中古端末事業者、携帯電話販売代理店等、幅広い分野からヒアリングを実施しており、その中の1つに「中古端末の国内流通活性化」という議題が挙げられている。

今後の国内の中古端末市場はどう動いていくのか?
石川氏と木暮氏による対談では、MMD研究所とオークネット総合研究所が2017年12月に共同で行った「日本とアメリカにおけるスマートフォン中古端末市場調査」の結果を参照しながら、

「国内の中古携帯電話市場のこれから」

を様々な側面から考察する。

国内中古携帯電話市場の伸びしろは?日米比較から考える


──中古端末購入率を見ると、日本は4.5%、アメリカは13.0%と8.5ポイントの差があります。日本では中古端末の流通が少ないため、日米に差が出たことも考えられますが、今後日本で中古端末の流通は広がっていくのでしょうか?

木暮氏:今後伸びる可能性はある市場ですが、主に2つの課題があります。1つ目は日本の携帯電話の販売方法です。現状は、大手通信キャリアで契約すると、キャンペーンで値引きされた価格で新品端末を購入できます。この値引きのために新品と中古端末の価格差がほぼなくなってしまうことが挙げられます。2つ目は、日本の通信ネットワークは最先端のため、そのネットワークのメリットを最大限活かすには最新の端末が有利なことです。そのため中古端末が見劣りしてしまいます。

石川氏:日米の市場の違いを考えると、販売場所の多さが挙げられます。海外だとキャリアでも新品同様の安い整備品を購入できるため、中古端末がユーザーの目に触れる機会が多い。アメリカでは所得の差が激しいので、自分の収入、身の丈にあった端末を購入します。一方、日本は割引があるため、所得差に関わらず誰でも新品を買える、という違いがあります。


──前回利用していたスマートフォン・携帯電話の処分方法では「自宅保管」という回答が日本は60.7%、アメリカは43.7%でした。自宅保管の理由として、日本では「個人情報の流出が心配」、アメリカでは「いつか使うかもしれない」がそれぞれ最多回答となっています。中古端末の流通を活性化させるには、消費者の意識も変える必要があると思いますが、今後日本人の意識は変わるでしょうか。また、変えるために何が必要となりますか。

木暮氏:両国自宅保管が多いですが、日本は特に自宅保管の割合が多いですね。現状日本では、「自宅保管」か「下取り」という選択肢だと思います。海外は日本と比べ、買い取り店、中古端末屋が多いため換金しやすい環境があります。

石川氏:日本の場合は、古くからiモードやカメラ付き携帯など個人情報が満載の携帯電話を所有してきたため、買い換え時に「個人情報を守るため」自宅保管することが習慣になっている。海外はカメラ付き携帯やインターネットに接続できる携帯の普及が遅く、単に通話するだけのものという認識があったため、両国に意識の差が生まれたことが考えられます。

木暮氏:日本の消費者が気にしているのは、アドレスの移行よりも中に入れている写真や音楽。アメリカではパソコンをしっかり使う方が多く不要な端末からデータを取り出し外部に保管できるが、日本ではスマートフォンとパソコンを連携されている方が少なく、バックアップを取れるスキルがない方が多いように感じます。それもあり、新しい端末にしても古い端末で音楽や写真を楽しんでいるケースが多くある。

石川氏:ガラケー時代は、メーカーで仕様がバラバラでデータをパソコンに移すのが難しかったため、そのまま端末を置いておく人が多かった。その名残もあると思います。

最近はクラウドなどを始めとするバックアップの選択肢が増えたので、そのあたりは大きく変わった部分です。

木暮氏:バックアップやデータ移行にハードルを感じる方に対して、中古端末販売事業者が「個人情報の安心できる移行」や「思い出の保存サポート」などを押し出せる環境が整うと、自宅で保管以外の選択肢が出てくるかもしれません。

下取り、自宅保管、売却?消費者の賢い選択は


──調査では下取りサービスの利用意向は、日本は61.1%、2016年から3.5ポイント減で2012年からは11.7ポイント減でした。この原因は何でしょうか?

石川氏:総務省の施策が効いていますね。スマートフォンの購入補助の規制で下取り価格が減ったため、下取りが減っています。下取り価格が低いとしても、買い取り業者に持っていくという選択肢もあるので、自宅に置きっぱなしにしているのはもったいないですね。

木暮氏:下取りの利用及び意向は減っていますが、処分方法を見ていると数%ずつではあるが、「携帯電話買い取り店への売却」が増えています。2年ほど前にゲオが「埋蔵携帯の総額価値は1兆円」というようなリリースを出していました。眠っている端末をゲオに持っていって、賢く売ろう、というようなことが書いてありました。消費者にも徐々にではあるが、「持ち続けず売る」という選択肢があることが伝わり始めていると思います。


中古端末流通の鍵はMVNO事業者


──調査で今後スマートフォン・携帯電話端末購入時に中古端末を検討できるかという質問では「検討できる」という割合はアメリカに比べ低い割合になりました。整備された中古端末を海外では「リファービッシュ」というカテゴリーで扱い、「整備修理していない端末」と分けています。日本ではあまり認知されていませんが、「修理・整備された中古端末」は次の選択肢となりえるのでしょうか?

木暮氏:おっしゃる通りで「修理・整備された中古端末」というのは、日本の消費者の中でまだあまり認識されていないカテゴリーと言えます。修理・整備されていてもいなくても「中古は中古」と括られてしまっているのが現状です。

石川氏:アメリカはキャリアでも整備品を買えるので、ユーザーの認知度が大分違います。日本でも、最近MVNOが頑張っていて、AppleのCPO(認定中古品)やリファービッシュ品を扱い始めたため、MVNOで安く買った端末が整備品、という流れが今年でき始めました。今後もMVNOの頑張り次第で広がることが予想されます。

木暮氏:もう1点中古端末の流通を拡大するという観点でみると、SIMロック解除された端末がもっと流通すればいいですね。せっかくSIMロック解除が義務化されたのに、解除率も低い。その辺の意識を変えていくべきです。

石川氏:さらにいうと、MVNOに解除できる仕組みがあればよいと思います。


中古端末のマイナスイメージは「バッテリー」


──中古端末のマイナスイメージとして、日本では「バッテリーが持たなさそう」が最多でした。中古端末として流通する際、バッテリーなどは交換されているのでしょうか?

石川氏:総務省の認証がある中古取り扱い業者であればバッテリーを交換することが可能です。しかし、そもそも替えられるバッテリーが流通していないという問題はありますね。

バッテリーに関して言うと、多くのAndroidメーカーはiPhoneを追随して内蔵型にしました。あれが大きな間違いでした。Androidでいうと、バッテリーを内蔵型にしなければ中古市場により高い値段で流通させられる可能性がありました。一方でAppleは巨大な流通網を活用し、中古端末も流通できるようになっています。電池は消耗品なので、長く使うことはユーザーの安全の問題に関わるため、細心の注意が必要。その点において、整備品は安心して使えます。
──一消費者として、中古端末を購入する際の注意点などはありますか?

石川氏:まずネットで検索や店頭でSIMロック端末、SIMフリー端末などの相場感をつかみます。最新のものもありますが、少し前の端末を購入するのもいいかもしれません。
掘り出しものを見つける感覚で、色々な端末を探すのが面白くて楽しめますよ。

木暮氏:私も中古を探して購入することは多いですね。ここの会社なら安心という販売店を見つけることが大切ですね。買う時にしっかり調べて、安心できるところで買うのはもちろん、買った後に相談できところで購入するのがよいでしょう。

中古端末を流通させるにはまず、新品端末市場の活性化を



──総務省開催の「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」では、中古端末市場の議論がされていますが、国はどうアクションを起こすべきだと考えていますか?

石川氏:しっかりとした業者のみが買い取り、修理、販売をできる仕組み作りは必要だと思いますが、国が中古端末市場活性化の旗振り役を行うのは少し違和感を覚えます。それよりも中古端末事業者がもっと努力することが重要です。

日本での格安スマホ盛り上がりのきっかけは、イオンがスマートフォンとSIMカードをセットで売り始めたところにあります。その後、様々な会社が新規参入しました。

このように、どこかの事業者から安心して端末を買える仕組みを作ることが大切です。そこが成功することで、より多くの会社が参入できる環境作りができるのではないでしょうか。

中古端末という名前が悪いのか、プロモーションが悪いのか、売り方が悪いのか、何かしら答えがある。それを上手に解決して消費者にアピールできる会社が勝てると思います。

木暮氏:現在の国の方針が私には新品市場を縮小して中古市場を活性化する、という動きにみえます。それは間違っています。中古市場を大きくさせるためにはまず新品をもっと売らなければならないので、いまの方向性は矛盾しています。端末市場全体がもっと活性化するということを考えないといけません。

中古端末を販売するアメリカの通信キャリア、日本も販売する日はくるのか・・・


──アメリカの場合は、通信キャリアが独自でベライゾンCPOというブランドを作り展開していますが、日本の通信キャリアも中古市場活性化の観点から、買い替えが幅広く選択できるように、サービスを提供すべきでしょうか?

石川氏:まず日本の大手キャリアがそのサービスを提供することはないでしょう。キャリアは新品を売り、それを割賦払いしてもらうというサイクルになっています。その債権が経営の数字になっているので、あれを止める選択肢は経営者の意識としてもないと思います。アメリカでは先ほどの話にも挙がったように低所得者への供給をカバーするための戦略のひとつだったと考えられます。

──日本ではやはりMVNOが「安い端末の供給」という部分を担うべきでしょうか?

木暮氏:MVNOも端末がないと売れないため、iPhoneの整備をし始めました。直接Appleと交渉するのは難しいため、整備品を導入する流れが出てきました。MVNOを選ぶ人は通信を安くしたいという意識を持っている人ですので、端末も安くしたいというニーズがあります。まずはMVNOユーザーへ訴求するのが近道でしょう。

石川氏:最近はMVNOも大手キャリアと同じように端末の分割払いと縛りを設けた販売手法を取るところがある。キャリアと同じような手法を取ってくると、中古市場は厳しくなるでしょう。また、最近は安い端末も多くそこも中古端末のライバルと言えます。


修理に留まる登録修理業者、流通までを行う手立ては?



──調査結果で、中古に求めることとして、「綺麗にされていること」「整備されていること」などが挙がっていました。残念ながら現状国内では整備された端末の流通はほとんどありません。整備された端末を流通させるために、登録修理業者制度に登録をする動きもありますが、修理に留まっていて、流通までには至っていません。流通を促進するには何が必要だとお考えですか?

木暮氏:業界がAppleを意識しすぎていると感じます。余計なことをすると大変なことになると意識しているキャリアや業者が多いのではないでしょうか?

石川氏:Appleも大手キャリアの手前難しい立場だと思いますが、iPhoneユーザーを増やすという点では、金額が障壁になっているガラケーユーザーに新品より安いiPhoneの整備品を流通させる手法はありだと思います。海外ではそのような施策を打っています。現状はiPhoneの整備品は特定のMVNOとの組み合わせしか購入できませんが、もっと身近にある中古販売店で整備品が買えるようになればいいですね。

今回の調査で国内のフィーチャーフォンユーザーの割合は17%と出ていましたが、この割合は業界全体にとっての課題であり、宝の山だと言えます。
そこをなんとかしようと大手キャリアもMVNOも頑張っています。その中で、この17%を動かす施策の一つが中古端末の販売になってくるのではないでしょうか?

──Appleが日本で中古のiPhoneを販売していないのには何か理由があるのでしょうか?

石川氏:これだけ新品のiPhoneが日本国内で売れるのはキャリアのパワーがあってこそ。そのこともあってAppleはキャリアのことを配慮していると思います。

とはいえSIMフリーをAppleストアで売り始めたり、mineoがiPhoneのSIMフリー端末を扱い始めたりすると、Appleの中での変化を感じます。

木暮氏:Apple StoreでiPhoneを修理に出すと、新しいのに変えてくれる場合がありますが、あれこそCPO(認定中古品)なのでは。


インパクトのある名づけが必要?中古端末市場のこれから



──最近の最新端末は価格が高くなる一方ですが、今後消費者のスマートフォンの持ち方は変わってくるでしょうか?

石川氏:これだけ端末が高くなると、端末購入だけではなく、レンタルのような売り方があってもいい気がします。2年に1回10万円を払うのではなく、月いくらか払えば、シェアリングサービスのように、端末をレンタルできるようなサービスがあると面白そうですね。
もっと気軽に端末が使える契約の仕方も考えられるのではないでしょうか?

木暮氏:一般の家電では再生品が特価で売られていることがあります。箱に入っていて開ければ新品と何ら変わらない製品が入っており、メーカー保証もついています。スマートフォンもうまく認知されれば、他の家電同様に意識せず買ってくれるのではないかと思います。

いまはスマートフォンを持ったら2年は買い換えないというのが多くの人の意識ですが、もっとカジュアルに買い換えられる未来があってもよいのではないでしょうか。中国や香港にいくと色々な端末が売っているので、楽しいですよ。

石川氏:現状、中古端末はユーザーの選択肢の一つになっていません。選択肢になるような努力がまだまだ必要です。中古端末というとイメージが悪いし、リファービッシュ品というと何だかよく分からない。例えばMVNOだと、名前のいい悪いは置いておいて、「格安SIM」とか「格安スマホ」という言葉は大変インパクトがあります。

それと同じように中古端末を流通させるには、インパクトがある名づけやそれを浸透させるためのプロモーションが必要です。それを作るのは国ではなく、中古端末を流通させる事業者の仕事でしょう。

木暮氏:現状、日本では日本で売れた新品が中古になるしかありません。海外の面白い端末が中古で流れてくると面白そうですね。まだまだその部分は法整備が必要ですが、もっとモバイル市場が開かれていく必要がありますね。

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