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コラム

2022年8月18日

デジタル化の推進とデジタル遺品の今後

目次

■    デジタル化の推進とデジタルネイティブ世代の高年齢化
■    デジタル遺品整理をめぐるトラブル
■    自分の死後を想定したデジタル遺品整理の実施とツール
■    今後危惧されていくべきデジタル遺品

 

デジタル化の推進とデジタルネイティブ世代の高年齢化

政府がデジタル庁創設を記念して、2020年をデジタル元年として位置づけたのは2年前のこと。政府や企業は、デジタル化推進による経済活性化を目指してきました。またこの時期、新型コロナウイルスの蔓延によって、テレワークなどをはじめとする消費者の行動変容が起こりました。それにより、以前よりさらに密接にデジタルと関わる機会が増え、自分自身の情報を端末上・ネットワーク上で保存・管理する人々が増えました。

さらに、日本では生まれたときからインターネットやソーシャルメディアに自然に慣れ親しんできた1990年代から2000年代に生まれた「デジタルネイティブ世代」の高年齢化が今後進むことで、自分自身の情報をデジタルデータとして保存する行動がより加速することが考えられます。

総務省によると、個人のインターネットの利用率は13~59歳の各年齢階層で9割を超え、もはやインターネットを利用しない日はない、と言っても過言ではありません。(総務省「令和3年通信利用動向調査」)

そんな端末上やネットワーク上に保存されているデジタルデータですが、死後を想定したツールやサービスはまだ発展途上といえます。

MMD研究所では2022年6月28日~6月30日の期間で「デジタル遺品に関する調査」を実施いたしました。
その結果を一部ご紹介しながらデジタル化の推進とデジタル遺品の今後を見ていきます。

 

デジタル遺品整理をめぐるトラブル

先日の調査で故人のデジタル遺品整理をめぐるトラブルを聴取したところ、故人が「端末上で管理していた友人・知人などの把握をできなかった」「オンライン上で管理していた金融機関の情報がわからなかった」など、死後すぐに手配しなければならない情報にアクセスできないというトラブル経験が多く挙げられました。

もちろん葬儀に関係する知人・友人への連絡手段や金融機関の情報については特に気を付けなければなりませんが、「利用していたSNS・ブログの情報」に関しても、危惧されていくべきだと感じます。
実際に先日の調査では、デジタルタトゥーやゾンビアカウントという言葉の認知は3割に満たないという結果になりました。ネット上に「生きた証」となる文章などが残っていると、故人のブログが炎上する可能性や、ゾンビアカウントとして乗っ取られ、故人になりすまして他者を攻撃するような場合もあり得ます。

上記のようなトラブルは、遺族が故人の端末のロックを解除できないために発生します。故人が、端末解除のパスワードを具体的に遺族に伝えずに他界してしまうことで、遺族がロック解除を試みる工程で端末にロックがかかってしまったり、初期化されたりするトラブルが起こります。端末にアクセスできないことで、預貯金の情報がわからないだけならまだしも、FX取引などリスクの高い投資を行っている故人がいた場合、知らない間に負債が膨らみ、遺族が手に負えない状態になる可能性もあります。

では、このようなトラブルを事前に防止するためのツールについても見てみましょう。

 

自分の死後を想定したデジタル遺品整理の実施とツール

先日の調査では、自身のデジタル遺品の生前整理実施について実施経験があるのは20代が7.8%、実施予定がないのは40代が87.1%とそれぞれ最も多い結果となりました。
総務省の「令和3年通信利用動向調査」によると、13~59歳の95.0%以上がインターネットを利用しています。特に40代は10~30代とほぼ変わらないインターネット利用率にも関わらず、「実施予定・経験なし」の割合がどの年代よりも高いのは、危惧するべき事態です。

そんな中、デジタル遺品整理を助けるツールも徐々に拡大してきています。
AppleのiOS15.2から正式版が公開された「デジタル遺産プログラム」では、自身の死後にApple IDのアカウントにアクセスするユーザーを生前に選択でき、アクセスキーと死亡証明書などの公的書類の提出でアクセスが可能となる機能が追加されました。

Googleでは事故や死亡といった予期しない出来事で自分のアカウントを使用できなくなった場合に、そのアカウントをどのように処理するかを設定することができる「アカウント無効化管理ツール」が存在します。こちらは、アカウントが使用されていないと判断するまでの期間をあらかじめ設定し、その期間が過ぎた後にデータを信頼できるユーザーに公開するかGoogle側でデータを削除するかを選ぶことができます。

FacebookやInstagramには追悼アカウンがト存在します。Facebookは、故人の生前の意向や家族や友人の意向、Instagramでは家族や友人の意向で、死後届け出があった場合に、故人のアカウントを追悼アカウントに移行することが可能です。追悼アカウントに移行すると、故人のアカウントには誰もログインできなくなり、プロフィールのアカウント所有者の名前の横に追悼と表示されるのです。そのような生前の準備をしておくことで、死後自身のアカウントがゾンビアカウントとなり、乗っ取られるという事態を避けることができます。

これらの機能に関して認知度を見てみると、追悼アカウントの機能については著名人の例があるものの認知は19.1%にとどまり、Googleのアカウント無効化管理ツール、Appleのデジタル遺産プログラムも20.0%を下回る認知度となりました。Appleのデジタル遺産プログラムが追加されたiOS15.2は2021年12月14日にリリースされたのもあり、あまり知られていないのが現状のようです。

キャリア決済やキャリア関連のサービスに登録している人も多いため、そのようなサービスの死後の扱いも踏まえ、キャリアや国からの負の遺産とならないような啓発や呼びかけが必要だと考えます。

Googleのアカウント無効化管理ツールやAppleのデジタル遺産プログラムは全てデジタル上での設定となりますが、先日の調査ではデジタル遺品整理実施(予定)者の共有(したい)方法は、いまだに紙面が50.8%であることが分かりました。こういったツールの拡大でデジタル遺品整理がデジタル上だけで完結できるようになることで、死後のトラブルが軽減できるのではないでしょうか?

 

今後危惧されていくべきデジタル遺品

さて、これまで挙げてきたデジタル遺品に関するトラブルやツールですが、実際に相続が必要となる「デジタル遺産」に関しては、特にあり方を考えるべきだと感じます。今は件数が少ないため、個別対応で済んでいることが多いようですが、キャッシュレス決済の利用率の増加に伴って、個別対応が難しくなり、より汎用性のある対応方法を考えていく必要があると考えています。

上の図はサービスごとに相続の可否をまとめたものです。現金をチャージして使用する決済手段では、一切の権利が一身専属的に帰属する場合でも、相続が発生する際には例外として返金が可能となることが多いようですが、クレジットカードのポイントや経済圏の共通ポイントなどを相続できるサービスは少なく、ポイントは会員が亡くなる前に使い切ることが必要です。サービスによっては、チャージしてあったものが全額失効してしまう場合もあります。決済手段が多様化していくことで、「デジタル遺産」を生前整理する際には現金をチャージしている決済手段や貯めたポイントの使い道も視野に入れてサービスごとに柔軟に対応することが大切です。

今後のキャッシュレス化なども含めたデジタル化の発展に伴い、デジタル遺品についてもよりフォーカスしていくべきと考えます。そのために必要なのは、生活者の意識改革、国・事業者による体制の強化です。
下記はあくまで筆者の構想ですが、デジタル遺品・遺産の体制整備を進めるべきだと考えます。

● 定期契約している商品やサービスの支払いを延滞していた場合でも、死後を証明できればクーリングオフのような制度が適用される
● マイナンバーカードにデジタル遺産となる情報を先に登録しておくことで、死亡届提出後、その情報が反映され、デジタル遺品情報が相続者に開示される
● 定額サービス関連の契約に死後を想定した相続先や親族を明記する義務化をする・・・など

2016年にはマイナンバーカードの交付が開始、2018年には経済産業省からは将来的にキャッシュレス比率を80%まで上昇させる目標が掲げられ、2021年にはデジタル庁の創設など、日本政府はデジタル化に着手しているものの、まだ始まったばかりです。それでも、すでに身近になっている媒体の整理は今からでもできます。デジタル遺品・遺産の整理を個人としての実施することはもちろん、行政の体制整備が必要なのではないでしょうか。

今後もMMD研究所はデジタル化に伴った、「デジタル遺品・遺産」の在り方の変化に注目していきたいと思います。

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