コラム
2022年5月27日
洋服月額レンタルサービスの現状と今後の動向
目次
■ 洋服月額レンタルサービスの現状
■ 利用者の動向と未利用者の意向
■ SDGsに対する意識
■ 「モノ」に対するサブスクリプションサービスの今後
洋服月額レンタルサービスの現状
新型コロナウイルスの蔓延から2年が経ち、生活にはたくさんの変化が訪れました。
総世帯の消費支出の全体の動向をまとめた「家計調査報告」の2020年と2021年で消費支出の月平均額の増減率を比較すると、「被服及び履物」の消費支出では2020年は前年比20.1%減少し、2021年にはそこからさらに2.0%減少していることが分かりました。コロナ禍での衣類に対する必要性が減少していると見て取れます。(出典:総務省統計局「家計調査結果」)
コロナ禍の在宅勤務やおうち時間の増加による巣ごもり需要でアパレル業界ではEC化率は19.4%となり、2019年から2020年にかけて5.6ポイントの成長となりました。(出典:経済産業省「産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」)
同様に、新型コロナウイルスが蔓延し始めた2020年以降、サブスクリプションサービスの定着化も進んでいます。経済産業省によると、サブスクリプションサービスとは定額の利用料金を消費者から定期的に徴収し、サービスを提供するビジネスモデルを指しますが、2020年には有料動画/音楽配信の市場規模が前年比21.9%増の3,983億円となりました。有料動画/音楽配信などの「コト」のサブスクリプションサービスが発展している中、カーシェアや洋服レンタルなどのシェアリングエコノミーとも称される「モノ」のサブスクリプションサービスも2008年頃から参入しています。
その中でも2015年頃から参入だけでなく撤退の動きまで多く見られた洋服月額レンタルサービスは、毎月定額で洋服を借りられるサービスで、AIやスタイリストがコーディネートを考えるものから自分で選ぶものまで多種多様なサービスが存在します。
2019年6月の世論調査(出典:内閣府「国民生活に関する世論調査」)で「物質的にある程度豊かになったので、これからは心の豊かさやゆとりのある生活をすることに重きをおきたい」と62.0%が回答したように、それぞれが自身に合った生活を送ることが重視されている現代ではそうしたサービスが必要とされやすいのではないしょうか。
MMD研究所では2022年4月14日~4月25日の期間で「洋服月額レンタルサービスに関する調査」を実施いたしました。
その結果を一部ご紹介しながら洋服月額レンタルサービスの現状を見ていきます。
利用者の動向と未利用者の意向
洋服月額レンタルサービス利用者の動向と未利用者の今後の利用意向を見ていくと、双方の意識に大きく違いがあることが分かりました。
先日発表した調査では、洋服月額レンタルサービスの認知度は52.9%と約半数が認知しているものの、内容理解度は24.3%と認知からの離脱が28.6ポイントとなりました。さらに、洋服月額レンタルサービス未利用者の利用意向は89.5%が利用したくないと回答したものの、利用経験者が家族や友人に勧めるかについては、69.0%が勧めると回答しています。
半数以上が認知しているにもかかわらず内容理解や利用意向の低さが目立ち、名前やなんとなくの知識でどういうものなのかを認識していることで利用意向の低さにつながっているともいえるかもしれません。利用経験者のお勧め度としては約7割に上るのに、なぜこれほどまで利用者と未利用者の認識に差異が生まれているのでしょうか?
利用経験者の利用理由と利用検討者の利用したい理由を見てみると、利用経験者は「返送料が無料だから」「洗濯やクリーニングなどの手入れの手間が省けるから」「無料トライアル期間だから」が上位に来ており、利用検討者は「洗濯やクリーニングなどの手入れの手間が省けるから」「新品で借りれるから」「返送料が無料だから」とどちらも手入れの手間の少なさや返送の際の価格面など、コストや手間などの利便性を重視していることが分かりました。各社が特徴としているスタイリング方法やプラン内容の充実は、利用経験者/検討者どちらも重要とはとらえていないように思えます。また、利用経験者の利用理由のうち17.5%で4位に入っていた「SDGsに配慮したいから」は、利用検討者では10.7%で13位となり、利用を経験するほどSDGsへの配慮を考えるきっかけになっているのではないでしょうか。
SDGsに対する意識
SDGsは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称で、2015年9月に国連で採択された2030年までの国際開発目標です。これを生活の中で意識している人はどのくらいいるのでしょうか?
先日発表した調査では、洋服月額レンタルサービス利用経験者が、洋服の購入時/レンタル時/廃棄時にどのくらい意識しているのかについて聞いたところ、年代別では、若年層・シニア層での意識が高いことが分かりました。
購入時・レンタル時ともに60代が最も高く意識していると回答し、廃棄時には10代が最も高く意識していると回答する結果となりました。10代は購入時には意識が最も低いものの、フリマアプリやリサイクルショップの活用、回収サービスを行っている企業への持ち込みなど、廃棄時に環境への配慮ができる仕組みづくりは確立され始めているのかもしれません。
レンタル時に意識していると回答した人は50代が最も少なく洋服をレンタルすることでSDGsに貢献しているという認識がまだまだ確立されていないということが分かります。また、購入時・レンタル時に意識しているのが最も高かった60代は廃棄時では最も低い結果となりました。リサイクルショップでの購入などは考えやすいものの、廃棄時にそれを思い浮かべる人は10代よりは多くはないのが現状なのではないでしょうか。
フリマアプリサービスを提供するメルカリがNTTドコモとシニア層をターゲットとしたコンセプトストアを展開したように、シニア層の衣類の廃棄や処分方法が身近になる働きかけが今後必要とされると考えられます。
EUでは生産者が製品の廃棄やリサイクルまで責任を負う「拡大生産者責任(EPR)法」があり、それまでは家電、容器包装、自動車のリサイクルに適応されていました。2021年に発表された世界のSDGs達成度ランキング(SUSTAINABLE DEVELOPMENT REPORT)の上位国である8位のフランスが初めてアパレル業界に対して導入し、さらにオランダ(11位)は2023年から、スウェーデン(2位)は2024年1月から導入するとされています。
日本は18位となりましたが、5月18日にKDDIがGoogle CloudのImmersive Stream for XRを活用してアパレル販売向け高精細XRマネキンを開発し、アパレル業界のDXおよび余剰在庫削減による環境負荷軽減を支援していくと発表しました。デジタル化で今後のアパレル業界のSDGsを後押しする仕組みが構築されていくのも近い将来の話となるのかもしれません。
「モノ」に対するサブスクリプションサービスの今後
近年、デジタルコンテンツ(音楽や動画、電子書籍、ソフトウェアなど)である「コト」のサブスクリプションサービスが定着し、それに伴いシェアリングエコノミーとも呼ばれる「モノ」のサブスクリプションサービスも発展しています。先日発表した調査では、利用経験者の利用開始時期は新型コロナウイルスが蔓延してから約一年後から増加傾向にあり、2021年7月~9月が16.7%と最も多い結果となりました。
「モノ」のサブスクリプションサービスの拡大には、「モノ」を扱うためのコストやそれをシェアすることで生まれるリスクを伴うからこそ、まずは利用者にとって安心かつ身近な存在にすることが必要になると考えます。
先日発表した調査の利用状況を性別で見てみると、認知・内容理解は女性が多いのに対し利用経験は男性が多く、衣類におけるSDGsへの意識は女性よりも男性のほうが高いことが分かりました。男性の認知・内容理解度の低さや女性のSDGsへの意識の低さを高めていくには、利用検討者の利用したい理由やSDGsへの取り組みと関係していることを踏まえて、内容理解者を増やしていく必要があると思います。
流行のサブスクリプションサービスの発展をSDGsの取り組みのような社会問題と紐づけて発展させることでサービスの拡大の手助けとなりえるのかもしれません。
MMD研究所では今後もサブスクリプションサービスに関して調査を行う予定です。ぜひ今後のリリースも楽しみにお待ちください。
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