コラム
2021年4月28日
eKYCの現況と予想される今後の課題
目次
■国内でのeKYC導入~現在
■消費者のeKYC認知・利用状況
■通信キャリアによるeKYC導入状況
■写真撮影不要の本人確認「JPKI」
■eKYCの課題と今後について
国内でのeKYC導入~現在
現在、政府や企業はデジタル化を進めており、あらゆるサービスがオンラインに切り替わっています。そのなかの1つに、オンラインで完結する本人確認、「eKYC」がフィンテック分野を始め、様々な業界のサービスに導入され始めています。
まずは、国内でのeKYC導入について振り返ってみましょう。
詐欺やマネーロンダリング、テロ資金供与等の防止を目的とする「犯罪による収益の移転防止に関する法律」が2018年11月に改正され、オンライン上で完結する本人確認方法が利用できるようになりました。2018年12月以降、株式会社Liquidが「LIQUID eKYC」、三井住友銀行グループの株式会社ポラリファイが「Polarify eKYC」サービス提供を開始し、改正当初から広がりを見せました。
2019年にはキュッシュレス決済サービスによるeKYC導入が続きました。4月にメルペイが「アプリでかんたん本人確認」、5月にLINE Payが「スマホでかんたん本人確認」を開始し、話題となりました。
2020年には、本人確認の仕組みを企業に再検討させるような事件も起こりました。9月に相次いで発生した、電子決済サービスの不正引き出しです。
2020年10月、対策としてdocomoは「ドコモ口座」にてdocomo回線を契約していないユーザーに対してeKYCを用いた本人確認を必須としました。
このような事件から企業の本人確認手続きに関する関心は高まり、eKYC導入など施策を再考した事業者も増えたのではないでしょうか。
2020年11月には楽天モバイルが「AIかんたん本人確認(eKYC)」を開始しました。
2021年3月以降、他の通信キャリアがオンライン契約専用の新プランサービス開始し、新規契約や乗り換え手続きでeKYCサービスの利用を可能にしました。
新型コロナウイルスの流行が続いていることからも、非対面で手続きが可能なeKYCは有効であり、今後も普及拡大していくことが予想されます。
消費者のeKYC認知・利用状況
現在、消費者にeKYCはどれほど認知されているのでしょうか。また、どのようなシーンでeKYCは利用されているのでしょうか?
MMD研究所が2021年3月23日~3月30日の期間で行った「本人確認(eKYC)に関する調査」の結果を一部ご紹介しながら、消費者・企業の動向と合わせてeKYCに関する現状と今後を考えます。
20歳~69歳のスマートフォンを所有する男女659人を対象に、オンライン上で完結する本人確認の方法「eKYC」を知っているか聞いたところ、「全く知らない」が最も多く71.5%となり、次いで「利用したことがある」が12.0%、「名称は知っているが、どんな内容なのか知らない」が5.9%となりました。
年代別で見ると、「利用したことがある」は20代(n=117)が最も多く19.7%、次いで30代(n=130)が16.2%、40代(n=165)が11.5%となりました。「全く知らない」は60代(n=106)が最も多く86.8%、次いで50代(n=141)が79.4%、40代(n=165)が75.2%という結果となり、若年層ほど利用者が多く、年代が上がるにつれて認知している人の割合も減ってくることがわかりました。
次に、eKYC利用経験者について見ていきます。
eKYC経験者78人に利用シーンを聞いたところ(無回答者1人を除く、複数回答)、「銀行・証券口座開設時」が最も多く59.0%、次いで「キャッシュレス決済サービス利用時」が43.6%、「クレジットカード発行時」が35.9%となりました。現状、金融系のサービスにて利用経験のある人が多い傾向にあります。
次に、eKYC未経験者の利用意向も合わせて見てみましょう。
eKYC未経験者580人のうちeKYCを今後利用したいと思うと回答した235人に、利用したいシーンを聞いたところ(複数回答)、「クレジットカード発行時」が最も多く57.0%、次いで「銀行・証券口座開設時」が49.8%、「キャッシュレス決済サービス利用時」が49.4%となりました。
eKYC経験者の利用したことのあるシーンと1~3位の順位は違いますが、金融系サービスでの利用を希望している人が多いことは同様のようです。
通信キャリアによるeKYC導入状況
次に、通信キャリアのeKYC導入状況にフォーカスして見ていきます。
2021年3月以後、通信キャリア4社は新プランのサービスを開始しました。
新プランは、いずれも新規契約・乗り換えはオンライン限定での対応(Rakuten UN-LIMIT Ⅵは店舗での契約可能。ahamoは有償での店舗契約可能)とし、各社がeKYCの利用を可能にしました。
キャリア4社のeKYCに関する動向を見ていきます。
・docomo
2021年3月26日からahamo契約時の本人確認として、「LIQUID eKYC」が採用され、サービス開始しています。
・au
2020年12月からau Online Shopの本人確認において「LIQUID eKYC」を導入しており、2021年3月23日からpovo契約時の本人確認にも利用可能となりました。
・SoftBank
2021年3月17日、LINEMOのサービス開始とともに、eSIM契約希望者限定でeKYC利用可能となりました。
・楽天モバイル
2020年11月9日、オンライン契約において、「AIかんたん本人確認(eKYC)」を開始しました。本サービスは、11月9日に「my 楽天モバイル」アプリ(Android)、11月30日に「my 楽天モバイル」アプリ(iOS)で利用可能となりました。自社のアプリでeKYCの手続きを行える点は他のキャリアとは異なる点です。
さきほどの利用経験者78人にeKYCを経験したことがある利用シーンを聞いた結果(無回答者1人を除く、複数回答)では「スマートフォンや携帯電話購入・SIM契約時」は34.6%でした。
一方、eKYC未経験者580人のうちeKYCを今後利用したいと思うと回答した235人に利用したいシーンを聞いた結果(複数回答)では、「スマートフォンや携帯電話購入・SIM契約時」と回答したのは48.1%でした。
現状は、eKYCを利用した/利用したいシーンで4位の「スマートフォンや携帯電話購入・SIM契約時」も、オンライン契約のみでの対応が主流なキャリアの新プランの契約がさらに普及すれば、利用経験者および利用希望者も増えていくのではないでしょうか。
また、今後オンライン契約が伸びそうな傾向を示すデータとして以前のコラム「通信キャリアの新プランにおけるユーザー状況と今後の予見」でご紹介した結果も合わせて振り返ります。
2021年2月時点で18歳~69歳の男女40,000人に、通信会社の新規契約や機種変更、プラン変更等の手続きをオンライン上で行ったことがあるか年代別に聞いた結果(家族や知人の手続きを代行した場合も含む)では、全世代の25~40%程度はオンラインで手続きを1回以上行ったことがあると回答しています。
このように、オンライン手続き経験者の割合がとりわけ低い年代はおらず、今後、通信事業者が導入するeKYCサービスが普及する見込みはあると考えます。
写真撮影不要の本人確認「JPKI」
最近では本人・書類写真不要のeKYCの仕組みでサービス開始した動きも見られます。
2021年3月2日、メルカリは、マイナンバーカードの公的個人認証サービス(JPKI)を利用した本人確認をメルペイにてiOS先行で対応開始しました。こちらのサービスは本人(容貌)と書類の撮影は不要で、NFC読み取り部にマイナンバーカードのICチップをかざすことで手続きが完了する方法です。
また、LINEは、行政手続きの効率化実現に向け2021年春を目標にLINE Payを活用したJPKIのサービスを開始することを予定しています。本サービスによって行政手続きで必要な情報の検索から申請、支払いまでが全てワンストップにスマートフォン上で、時間や場所を問わず可能となります。
JPKIは、今回の調査でわかった利用者が感じるeKYCのデメリットの解消や手続き途中の離脱者減少の効果が期待できそうです。
20歳~69歳のスマートフォンを所有する男女437人に、オンラインでの本人確認手続き中に、アプリのインストールや書類郵送、窓口に向かうのが面倒になり、手続きを中断したことはあるか聞いたところ、「手続きを中断したことがある」が41.6%となりました。
また、eKYC利用経験者79人にeKYCのデメリットを聞くと「何回試しても認証されない」が31.6%、「本人確認書類の画像や動画などの読み込みができない」が29.1%で挙げられています。
これらのデメリットをカバーするためにJPKIは有効と考えられます。
eKYCの課題と今後について
圧倒的な利便性・効率性の高さから今後もeKYCの導入は拡大され、私たちの生活にとって不可欠な仕組みとなっていくことが、利用経験者の9割以上が今後さらに普及してほしいと回答したことからも予想されます。
ただ、eKYCを導入したとしても、手続きを中断してしまう人を100%防ぐことは難しいと考えます。
さらに、将来eKYCを導入する企業が増えれば、その利便性や操作のわかりやすさなどで差が生まれ、手続き過程において求められることも増えてくるでしょう。
そこで重要となるのが、eKYCにおけるUI/UXの改善・工夫ではないでしょうか。
実は、eKYCは手続き途中で離脱するユーザーが生まれやすい特徴をいくつか持っています。
まず、習慣的に使うシステムではなく、手続きの際に一度きりの使用になる場合が多いことです。そのため、初めて使用する人でもわかりやすいよう「見ただけでわかるUI」であることが他サービスよりも求められるでしょう。
次に、スマホを持ちながら自身と証明書類を撮影する困難さです。
eKYCは、スマートフォンのインカメラで「申請者本人の顔の容貌」と「写真付き本人確認書類(免許証やマイナンバーカードなど)」を同時に写す必要があるものもあります。このような場合、両手がふさがった状態で指定された位置にコントロールしながら撮影することが難しいという事例が見受けられます。そのため、細かな動作が必要な上に、初めてeKYCを体験するという人はより難しくなるではないでしょうか。
さらに、自撮りが苦手な方の場合はスムーズに手続きが進まない場合もあるでしょう。容貌の静止画だけでなく、顔振り・ウインク・笑顔での確認を要する場合は抵抗もあり、手続きに時間がかかってしまう可能性があります。
これらの難点が予想されることから、実際に使ってみなければわからないUI/UXでの意外な欠点が見つかることも多いのではないでしょうか。
弊社では、事業者様がeKYCを導入する際のUI/UX検証調査をすることが可能です。
例えば、スマートフォンに慣れていないユーザーやシニアのスマホ利用者を対象に、企業が導入するeKYCのフローのテストチェックを行います。
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