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2021年2月24日

動画配信サービス「U-NEXT」株式会社U-NEXT 編成制作本部 音楽・ライブ部 香山真吾部長インタビュー「新たなコンテンツとしてライブを映像で見るという文化を作っていきたい」

動画配信サービス「U-NEXT」株式会社U-NEXT 編成制作本部 音楽・ライブ部 香山真吾部長インタビュー「新たなコンテンツとしてライブを映像で見るという文化を作っていきたい」




ドラマや映画などの配信を行う「U-NEXT」は2007年にサービスを開始し、日本の動画配信プラットフォームとして先行してきた。2020年、新型コロナウイルス感染拡大の影響で巣ごもり需要が高まる中、新しくオンラインライブ配信を始め、動画配信サービスとして培ってきた高音質・高画質を生かして数々のライブを配信している。ライブ配信に新規参入を果たしたU-NEXTの特徴や今後の展望について、香山部長に話を聞いた。


「U-NEXT」はドラマや映画などを配信しているプラットフォームにもかかわらず、2020年3月から無観客で行われたライブに対して配信インフラの無償提供プログラムを行っていました。当時よりオンラインライブ配信を想定されていたと思いますが、「U-NEXT」が本格的に参入するまでの経緯を教えてください。


新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた2020年1月、2月頃から、予定されていたライブツアーが急遽中止、もしくは延期することが増えてきました。当時はただ中止や延期となるだけで、業界として、すぐにはその代替案が出てこなかったんです。
弊社はドラマや映画など、映像配信をしているサービスなので、コロナ禍において「我々ができることは何だろう」と考えた結果、プラットフォームを貸し出しすれば使っていただけるのではと思い、無償でインフラを提供するプログラムを開始しました。
しかし3月末には、たとえ無観客であってもライブをすること自体がむずかしくなり、お問い合わせは多数あったものの、開催寸前での中止が相次ぎました。

通常、予定していたライブを中止や延期にした場合、主催者側では販売済みチケットの返金義務が発生します。さらに、公演準備に掛かる膨大なコストを回収しなくてはなりません。なにより、公演を楽しみにしているファンの事も考えた結果、代替案として、オンラインライブ配信が現実味を帯びてきました。

1回目の緊急事態宣言下では、過去ライブの無料公開や、生ライブの無料配信など、社会的に落ち込んだ空気をアーティストが元気づけるという視点で、ライブ映像が無料公開され、音楽が人々の力になるということが改めて実証されました。そして2020年6月25日、サザンオールスターズさんが先陣を切って、無観客のオンラインライブ配信を実施しました。我々もここに参加したのですが、有料でライブを見てファンの方に楽しんでいただき、アーティストの皆さんにもその売上をお戻しできることが、1プラットフォームとしてのやりがいを感じましたね。U-NEXTとしてはまさにこのタイミングで、課金型のライブ配信のシステムを構築しました。以降、ONE OK ROCKさん、Official髭男dismさん、松田聖子さん、B'zさんなど名だたるアーティストのライブを配信させていただき、弊社としても最優先事項として本腰を入れてきました。



当時は、U-NEXTに音楽やライブの印象はなかったと思います。勝算はあったのでしょうか。


もともと音楽ジャンルを開拓していこうという意思はあったものの、コロナ禍という異常事態でしたし、勝算というよりは、とにかく自分たちのできることを探そうという想いでした。U-NEXTはご存知の通り映像配信のプラットフォームなので、映画やドラマ、アニメなどの映像のファンにご利用いただいています。突然オンラインライブを配信したところで音楽業界はもちろん、ファンの皆さんに対してもサービスが認知されてないだろうという予感はありました。
一方で、我々の強みは大きく2つありました。1つは、配信サービスを生業にしているからこその品質です。アーティストのみなさんは、いちばんいい状態でライブをファンの手元に届けたいと思うはずです。だからこそ、高音質・高画質で臨場感あるライブを安定的に配信できるU-NEXTに期待していただけると考えていました。もう1つはプロモーションです。積極的にファンの方々に対して情報発信をし、意欲を喚起していくとともに、「ライブに行ったことがないけど、行ってみたい」「ライブに行きたかったけどチケットが取れなかった」といった比較的「ライト層」へも徹底的なプロモーションを行ってきました。


オンラインライブ配信をするにあたって新しく始めたプロモーションはありますか?


特段新しく始めたプロモーションはなく、U-NEXTで通常実施しているマーケティング/プロモーションと同様にWebプロモーションを行っています。ただ、アーティストのファン層に応じて都度工夫していて、比較的ファンが若年層であればSNSやYouTubeを厚く、逆にSNS広告を出しても届きにくい年配層がファンの場合は、通常のSNS広告に加えてタクシー広告を出すなど、いかに興味のある方と接点を作れるかに重点を置いて、プロモーションの中身を変えています。


それほどU-NEXTの外に向けてプロモーションをしているということは、オンラインライブを見るために新規で登録される方も多いように感じます。実際ライブの視聴者は、以前からU-NEXTを使っていた方と新規の方、どちらが多いですか?


割合はケースバイケースです。でも、オンラインライブをきっかけにU-NEXTを知って加入してくださる方もたくさんいらっしゃって、映画、ドラマ、アニメだけではリーチできなかった層の存在を強く感じています。
一般的には、オンラインライブ配信はいくつものプラットフォームで開催されることがほとんどなので、自分が普段使っているサービスを使うことが多いでしょうね。一方で独占配信の場合は「そこ」でしか見られないため、普段利用していないサービスに加入する方も多く、必然的に新規加入の割合も増えてくると思います。


オンラインライブを配信する際に、特に求められていることを教えてください。


やはり音質と画質に関してはアーティストや主催者から求められることが多いですね。どうしてもオンラインだと、きれいな画質でクリアに見せるのは難しいケースがあります。ただU-NEXTはもともと映像配信事業者ということもありシステム的に盤石なので、かなりきれいな画質・音質を安定的に提供することができました。
複数プラットフォームで同じライブを配信しているからこそ、主催者側もその差に気づいてくださり、「U-NEXTの映像ってきれいだね」と当初からよく言っていただきました。


オンラインライブ配信だと「見逃し配信」も魅力的に感じますが、気が付いたら配信が終わっていることも多いです。またいちファンとしては、最近ファンになったアーティストの過去の映像が見られるといいなと思います。


それこそ本来の動画配信プラットフォームの出番ですよね。U-NEXTがオンラインライブ配信で特性を発揮できる部分は大きく2つあり、「いつでも見たいコンテンツにアクセスできる」という点と「膨大なコンテンツ」です。「あれ?ライブやってたんだ!」と後で気が付くことがあると思いますが、生のライブだからこそ、やる前に気づいてもらわないといけません。だからこそU-NEXTでは事前プロモーションに重点を置き、ライブを開始する前に少しでもファンに知ってほしいと考えています。また見逃し配信期間中もプロモーションを継続し、最終日までしっかりと情報をお届けし、出来るだけ目にする機会を増やしています。
またアーカイブについても、過去のライブ映像を配信するなどラインナップに力を入れています。これまではなかなか音楽のライブ映像は配信市場に出てこなかったのですが、コロナの影響もあって音楽映像のデジタル化が進んでいます。いままではDVDやBlu-rayでしか見られなかったファンアイテムとしてのライブ映像を配信で気軽に見られるよう、我々は配信プラットフォームとして積極的に取り組んでいきます。それこそがアーティストの魅力を伝え、ファンの裾野を広げ、微力ながら音楽市場を底支えできると信じているからです。


オンラインライブ配信が増えるにあたって、違法流出の危険も増すと思いますが、そのあたりの対策があれば教えてください。


U-NEXTの強みのうち、先にお話した2つに加えて重要なのがDRM(Digital Rights Management/デジタル著作権管理)と呼ばれるセキュリティ面です。もともとU-NEXTはハリウッド映画を多数配信しており、流出などのリスクを避けるため世界レベルのDRMを採用しています。同様のDRMをオンラインライブ配信にも採用しているので、スクリーンショットも撮れないなど、どこよりも厳しいセキュリティ対策をしています。
それでも悪用しようとする人もいるでしょうし、映像の流出懸念はあると思います。我々は、もし仮に流出しても出どころがわかるように、画面内の一部にウォーターマークというU-NEXTのロゴを表示するようにして万全の対策をしています。


先日、U-NEXT初となるマルチアングルでの配信を実施したとお聞きしました。機能面に関して、今後も新しい機能を追加していきますか?


はい、もちろんです。僕らが当初想定していたマルチアングルは、音楽フェスでの利用を前提としたものでした。音楽フェスにはいくつかのステージがあり、フェスに行かれる方は1dayチケット買って、あっちに行ったりこっちに行ったりしていろんなアーティストを楽しんでいると思うのですが、それをオンライン上でやろうとするとなかなか難しいんです。でも、画面上でスムーズに切り替えることができれば、ステージを行き来できるような体験が、オンライン配信でも提供できると考えたのです。

こうした構想をもとに、実は、早期からマルチアングル機能の開発をしていました。フェスのようにステージを切り替えることもできるし、1つのステージの異なるカメラを切り替えることもできます。ただコロナの影響でフェス自体が開催できないケースが増えましたし、2020年は音楽業界全体として、まずはオンラインライブを安全に配信することが最優先で、機能を充実させる発想になかったんです。ようやく2020年の年末ぐらいに配信ライブも一般化し、安定的な配信が可能になってきました。そこで次のステップとしてさまざまな企画が出てくるようになり、我々もマルチアングルを使ってみましょうとか、ドルビーアトモスを採用してさらに高品質なライブを配信しましょうとか、新たな企画を提案し実現できるような状況になってきました。今後はアーティスト側もさらに独自性、企画性のあるライブを実施したいと考えるでしょうから、プラットフォームへの要望がさらに高まるでしょうね。


多様化する配信ライブのあり方に対し、柔軟に対応していくということですね。映画やドラマなどを配信しているU-NEXTにとって、オンラインライブ配信とはどういった存在なのでしょう。


今まではすでに撮影された映像作品を配信するサービスでしたが、今後はライブやイベントもそうですし、漫才や歌劇、ミュージカルなど、いわゆる“生もの”を扱うケースも増えていくと思います。
コロナ禍でリアルなエンターテイメントに触れられなくなって余計に、みなさんは生での臨場感や高揚感が非常に重要だったと再認識したと思うんです。なのでライブを映像作品として届けることに止まらず、配信でも、リアリティやアーティストの表現したいもの、アーティストがファンに伝えたい部分を表現できなきゃいけないと思っています。私にとっては、配信ライブというのは新たな1歩なんですよね。映像作品のさらに先にあるエンターテイメントの新しい形を創り出す、新たなコンテンツと思っています。



今後オンラインライブ配信は世の中にとってどういった存在になると考えていますか?またその中で、U-NEXTの目指すところを教えてください。


この1年間はコロナの影響で中止になったコンサートの代替策としてオンラインライブ配信が活用されてきました。それが一定のニーズを満たしたり、アーティスト活動を支えることもあったと思いますが、まだまだライブに行ったときの臨場感や興奮といった感情を再現するものには至っておらず、あくまで代替という感覚です。そのため、当初は目新しさもあってオンラインライブを視聴してきた方が見飽きてしまったケースもあるでしょう。またコロナが落ち着いてリアルのライブが増えてくると、ファンの当然の営みとしてリアルなライブに足を運ぶでしょうし、オンラインライブの必要がなくなっていくでしょうね。しかし我々としては、映像は映像として楽しめる良さもありますし、ライブ会場が遠い方や、高齢者、あるいは身体的な理由で行きたくてもライブ会場には行けないニーズに対して、新たなコンテンツとして「ライブを映像で見る」という文化を作っていきたいと考えています。
そのためには生ライブでもDVD・Blu-rayでも実現できないマルチアングルとか、チャットや投げ銭のようなギフティング、さらにはドルビーアトモスなどの「オブジェクトベースオーディオ」など、配信ならではの楽しみ方をもっと提案してバリエーションを増やしていかなくてはなりません。ライブをリアルに見ることに加えて、映像で見る、という選択肢を定着させられるように、より満足感を感じられる配信ライブのあり方を追求していきたいと考えています。


【編集後記】
MMD研究所で発表した「音楽のオンラインライブ視聴に関する実態調査」でも、U-NEXTのプラットフォームは21.5%で2番目にシェアが高い結果となっていた。オンラインライブでもクリアな映像にこだわった配信こそ、リアルのライブにある臨場感が伝わり、新たな楽しみ方の1つとして今後ライブを映像で見る層が確立されていくのではないだろうか。


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