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インタビュー

2015年5月27日

Vol.38 眠れる中小企業の知的財産やアイディアを呼び覚ます ものづくりクラウドプラットフォーム『Wemake』

2013年4月、GE(ゼネラル・エレクトリック)が約120万のユーザーを抱えるクラウドサービス「Quirky(クワーキー)」との商品開発プロセスにおける提携を発表し、大きく報道された。この提携によってGEは、保有する数千もの特許を公開し、それを用いたアイディアをQuirky上で一般消費者から集めるという手法を取った。
こうした、企業が消費者と商品開発を行う「共創マーケティング」は世界的に広がりを見せ、日本国内でも新規サービスが登場してきている。

今回は、早くから日本の“ものづくり”に危機感を持ち、日本版Quirkyとも言われる『Wemake』を立ち上げた株式会社A(エイス)代表取締役 山田歩氏と大川浩基氏にお話を伺った。




左:大川代表 右:山田代表


Wemake=“消費者によるものづくり”のためのプラットフォーム


山田氏>『Wemake』は、ものづくりに必要なリソース、たとえば優秀な技能を持つ企業や人、活用されていない知的財産などを全てウェブ上のプラットフォームに集め、誰もがアクセスできるようにして、モノづくりの民主化を進めることを目指しています。

具体的には、メーカーさんと弊社でテーマを設定してコンペを開催し、そこに対してクリエイターさんにコンセプト(案)を投稿していただきます。そして、それを見ている全国の消費者が「これ欲しい」とか、「こういったものはすでにある」「この価格じゃ買わないよ」といった形で評価し、その評価を基にさらにクリエイターさんが改善し、メーカーさんからもアドバイスをもらいながら一緒に商品化を目指す、というフローです。


クリエイターさんの中には企業に所属している方もいますし、主婦の方、大手メーカーのOBの方、あとは美大生でデザイナーの卵という方や、独立したばかりの若手のプロダクトデザイナーさんなどがいらっしゃいます。

大川氏>ただ、最終的に目指しているのはあくまでも一般の消費者が「こういうものを作りたい」と発案したものを実現させるプラットフォームにすることです。今は分からないことがあったらGoogleで検索することが当たり前ですが、今度はできないことがあったときに、Wemakeというサイトを使えば解決できる、というプラットフォームにしていきたいんです。



現状は、まだまだサービスを始めたばかりでマジョリティにリーチするためにもサービスの品質を保持する必要があるので、クリエイターさんたちからではなく、基本的にメーカーさんからのコンペありきでアイディアの募集をしている、という状況です。

大川氏>昔から、アイディアの投稿サイトみたいなものはあったんですが、Wemakeではアイディアを集めた後、ユーザー同士でウェブ上で改善し、デザインや商品名、キャッチコピー等まで募集します。ウェブ上でできる商品開発のフローは全てやって、出来上がった企画をメーカーにマッチングする、というところが従来のサービスと違う点です。

また特徴としては、アイディアを出した人、もしくはデザインを出した人、あるいは投票という簡単な行為でも、それぞれに収益が分配されるという点が新しいところですね。

山田氏>一般消費者が商品開発に関わるサイトというのはネット黎明期からけっこうあったんですが、あまり続いてきませんでした。なぜかと言うと、一般消費者はメーカーに対して劣るものだという認識のもとで、そうしたサービスが作られていたところがあって、消費者から見れば搾取されているようなところがあったんです。

投稿しコメントするけど何もリターンがない、では面白くないですよね。そこでWemakeではどれだけ貢献したかというのを数値化して、その数値に応じて収益を分配し、お金をきちんと稼いでもらえる点が特徴になっています。

我々のマネタイズに関して言うと、メーカーさんからいただくコンペの開催フィーと、商品化した際の売り上げから発生するロイヤルティ、この二本立てで基本的には収益化しています。



大川氏>メーカーさんがWemakeを必要とするケースというのは大きく3つくらいあります。一つは、老舗の企業さんが毎年別のシリーズを出さなくてはいけないんだけどアイディアが枯渇してしまっているので新しいアイディアがほしいというようなパターン。

もう一つはWemakeでは製品化の過程でコンセプトに対して投票してもらうので、どういった世代のどういった性別の人がこういう商品を欲しがっている、というようなマーケティングデータを提供できるので、新規事業のテストマーケティング的な使い方をしていただくパターンもあります。

あとは知財をテーマに設定して消費者のニーズを組んだプロダクトを出したいというパターンですね。ユーザーと一緒に商品企画を創っていく共創マーケティングとかユーザーイノベーション、オープンイノベーション、そのツールとして期待していただけている実感があります。

こうした共創マーケティングの文脈で言うと市場が成熟化し、ニーズも細分化されていて、ライフサイクルも早い、その中で何を作れば売れるのか分からないと。今のニーズを今、把握することが社内の企画部だけでは難しいという話がやはりあって、であれば消費者と一緒に企画の段階から一緒に取り組むことで共感が生み、それによる主観的な満足度も高めて訴求していく、というところで必要とされている気がします。

山田氏>ただ、メーカー側の反応は部署によりますね。超巨大企業になると、とても面白いサービスだし、社内でもオープンイノベーションをやりたくて努力はしているけど前例がないので慎重にならざるを得ないというような反応です。ただ、中小企業とか製造小売業、自治体では非常に反応がいいです。

ものづくりに関わる様々な人との出会い



大川氏>Wemakeを立ち上げた時に、半年間ひたすら200社ほどの企業に電話をかけてインタビューさせていただいていた時期があって、町工場のおっちゃん達はけっこう、若そうだし話だけでも聞いてやるか、みたいな感じで会ってくれました。

行ってみると意外な発見があって、インターネットに疎いのかと思っていたら、フェイスブックの使用率がすごく高いんですよ。何かやらないとマズいという危機感からフェイスブックでネットワークを広げていたり、Quirky(クワーキー)をよく知っている人もいたり。いいらしいと聞いたらやる、というスタンスなんですね。

山田氏>その時に出会った浜松の「カクシンJP」というハイテクベンチャーと今、製品化を進めています。

こちらは、大手メーカー向けにセンサーを開発する会社だったんですが、カーボンナノチューブを使ったプロダクトを活用するために新しい会社を立ち上げて商品化を目指しています。

このプロダクトというのが、布のように非常に薄くて柔らかいシートなんですが、電気を通すと50度くらいまですぐに温まって6時間くらいはもつんですね。彼らは町工場のおじさんに合いそうなプロダクトばかり作っていたので、座布団くらいしか思いつかないと。そもそもどうすれば売れるものになるか分からないからWemakeでアイディアを募集できないか、という相談をもらって始まりました。

そのプロダクトのサイトを見てみたら、技術的な図解が載っていたんですが、それを読んでも一般の消費者には理解できないと思ったので、消費者向けに僕らが翻訳してあげて、
コードレスで薄くて柔らかくて温まりますよ、というところだけを訴求して、使い方のアイディアを募集しました。



最終的には200案くらい集まって、その中で一番人気のあった主婦の方のアイディアを商品化しているところです。彼女はこのシートはシートとして使いたいと提案しました。色んな使い方を考えられるからこそ、シーンは限定するものの、シートとして売り出して欲しいと。

具体的には、お子さんの幼稚園の送り迎えのときに厚着をさせたくない、かといってホッカイロもやけどが怖いからこれを下に敷いて適度に温度調節できるようにして使いたいと。あとは、冬場のスポーツ観戦とかお弁当を包むのに使うとか、便座に敷くとか、熱帯魚用の保温シートとか、ヨガマットとか色々使えるよねって。

この主婦の方も、Wemakeの初期のユーザーで、超パワフルな発明主婦なんですよ。
こういう主婦の方たちって根性とか粘りも半端じゃないんです(笑)「婦人発明家協会」というものに呼ばれて行ったことがあるんですが、50~60代の女性がたくさんいて、特許を申請するのには1件70万円くらいかかるものなんですが、「何件出したんですか?」って聞いたら「10件は超えてるわよ」っておっしゃる方もいました。

彼女たちも知的財産を守るという考え方が時代にあってないということを理解していて、でもメーカーに自分で営業することもできないから手伝ってほしい、という話でした。

大川氏>あとは介護士の方からの相談もありました。その方は、介護される側が声を出せないからと言ってメーカー側が勝手に決めつけて作ってくる製品が許せないとおっしゃっていました。尊厳が考慮されていないと。デザインにしてもあくまで健常者より劣っているものとして出てくる。でも自分たちだけではどうしようもなくて、困っていることを吐き出すところがないからWemakeで拡散して、デザイン性の優れた介護製品を作りたいということでした。



ものづくりにまつわる問題意識とWemakeが目指す世界



山田氏>そもそもなぜこのサービスをやっているのかというと、元々僕は人力飛行機を作って鳥人間コンテストに出場したり、ものづくりに関わっていて、日本の中小企業が置かれている状況への問題意識を強く持っていました。

中小製造業ってすごく利益率が低いんです。にも関わらず、本当に僅かな利益率を獲得するために半年に数億円という投資をして機材を買い換えたりしているレベルです。高い技能を持っている中小製造業であっても、大企業がコストを下げるために下請け先を変えてしまい、どんどん潰れていく状況を目の当たりにしたんです。

もちろん、そうした下請けの脱却を図ろうとはするんですけど、それまで企画もやったことがない、販路開拓もマーケティングもしたことがないという中小企業は何を作っていいか分からず、自分たちが作りたいものを作ってしまって、当然、市場に受け入れられることもなく在庫だけが残り結局潰れてしまう。

一方で、僕たちみたいな一般消費者は欲しいものがあっても、なかなかそれを企業に提案することができない。企業側からしても、数百万というロットでないと商品化の決断ができないので、なかなか満たせないニーズが存在していますよね。

でも中小製造業であれば、多品種小生産が得意なので、そこをマッチングできれば、大手メーカーの規模には敵わないけれども消費者がほしがっているものを提供できるんじゃないか、という仮説もありました。そして、ウェブ上にクラウドプラットフォームを作ることができれば、それが実現できるのではないか考えました。

さらにサービスを立ち上げるにあたってリサーチしていく中で、大手メーカーにいるデザイナーさんとかエンジニアさんとかにもお話を聞いたんですが、彼らは彼らでやりたいことがやれてないんですよね。

環境的には恵まれていても、部署の都合、例えばカメラのこのパーツを作る部署を存続させるために、なんとか載せなきゃいけないっていう事情があるようなんです。アップル製品に勝るものをと意気込んでいいデザインをしても、妥協せざるを得なくて、自分の商品として名前を入れたくないと思うくらい誇りをもてない、というような話も聞きました。

また、日本のメーカーって世界でもトップクラスの知的財産を持っていますが、職務上、義務で取っているだけであって、ほとんど収益化できていないという側面もあります。

そういった、デザイナーのやり場のない思いであったり、眠っている知的財産をうまく活用する場として、個人でも企業でもないところで商品化を目指せるサービスっていうのが
非常に有効なのではないか、というような意識もWemakeの根本にはあります。

Wemakeでは、参加する消費者一人ひとりがキュレーターになって、その人への信頼が元となり、友達が買っていく、というような流れを作りたいんです。小売店を省いて、製販直結みたいになったら理想ですね。そうすることによって、製造業の方々にたくさんの利益を享受してもらう世界を目指していきたいなと思っています。




[取材後記]

そういえば、近江商人が唱えた有名なビジネス哲学“三方よし”は、「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」とされているが、そもそも近江商人が活躍していた時代の「売り手」は、ほとんど「作り手」だったはずだ。買い手や世間が「よし」とする価値が大きく変わりつつある今、Wemakeが次なる「作り手」「買い手」「世間」 の“三方よし”を実現する場となることに期待したい。

Wemakeでは現在、王子製紙とのコラボレーションでコンペを開催している
オープンデザインを活用した新しいダンボール家具

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