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インタビュー

2015年5月20日

Vol.37 「Netflix上陸は市場拡大の大きなチャンス」 日本におけるSVODの先人Huluが取る独自路線

2015年、間違いなくビデオオンデマンドサービスは大きな変革期となりそうだ。その大きな要因の一つが昨年発表された米国最大のオンデマンドサービス「Netflix」の上陸である。

今秋の上陸を前に、先月末には国産サービスである「dビデオ」が「dTV」へと大きくリニューアル、CMを大々的に打つなど国内の動きも活発化している。
そんな中、早々に日本へ上陸し昨年には日本テレビ放送網傘下となったHuluはどのような戦略を描くのだろうか。今回は、HJホールディングス合同会社職務執行者社長、船越雅史氏にお話を伺った。



日本テレビ放送網傘下に入ってからの1年


この1年に関しては、コンテンツとサービスの充実、この二本柱を強化してきました。
特に、ガンダムを中心とする国内のアニメコンテンツの充実、それから日本テレビのドラマのキャッチアップ、『龍馬伝』をはじめとするNHK大河ドラマ等々新作の投入、また年度末には『12モンキーズ』など、いくつかの海外作品を日本初上陸させました。

サービスの充実というところで言うと、マルチデバイス対応を進め、先日PS4への対応も発表しましたが、それ以外にもChromecast(クロームキャスト)などへの対応を進めたことが挙げられます。

この二本柱によって解約率の好転化+入会者の増加を実現できた、ということがありますが、特にこの1年が急速に伸びたというわけではなく、数字で言うとおよそ3年で61万人、この1年で100万人を突破というところなので、伸び率が多少加速したかな、というところですね。


オリジナルコンテンツへの取り組み


コンテンツの充実というところで言うと、今年度は新たにオリジナルコンテンツの製作・配信に挑戦していきます。先月からは木梨憲武さんのアートバラエティの配信を開始し、6月19日からは日本テレビとの共同製作によるドイツの刑事ドラマのリメイク版「THE LAST COP/ラストコップ」を配信開始する予定です。また特別に、日本テレビの「金曜ロードSHOW!」でプレミア放送も行われます。

日本テレビグループ傘下に入る前からオリジナルコンテンツを作るスタッフはいましたが、グループに入ったことで日本テレビの制作部だけでなく、さらに多くの制作会社とも連携することができ、一層加速させることができたと思います。

去年の12月1日には「コンテンツ制作部」というオリジナルコンテンツを制作する部署を新設しましたので、まだまだ小さな組織ですけれどもそこを中心に今後さらに加速していけると思います。

今回、制作スピードの兼ね合いで木梨さんのアートバラエティが第一弾ということになりましたが当初、我々が入る前からオリジナルコンテンツ第一弾として想定していたのはやはりドラマでした。

作品の候補としては当然、日本に原作があるものなども挙がってきていましたが、やはりなんとなくHuluらしいっていうものを第一弾にもってきたく、そうするとやはり海外のドラマが一番Huluらしいかなというところで作品を選びました。Huluといえばドラマというようなイメージは大事にしていきたいところです。

Huluは連続視聴に向いていると思うんですね。『24 -TWENTY FOUR-』であったり『プリズンブレイク』であったり、何話もあるものを連続して一気に見るのに適している。なので、将来は分かりませんが、現状として、たとえば2時間のドラマを作るというようなことは、あまり想定していません。

現状、100話のものを作る体力はないですが、やはり連続ドラマでやっていきたい。その尺がテレビドラマだと45分くらいに限られていますが、Huluならその枠におさめる必要もないので、どれくらいの尺がいいのかという点などは、まさにこれからの研究課題だと思っています。

30分がいいのか、もしかするとNHKの朝の連続ドラマ小説のように13分くらいのものがいいかもしれないし、やはり45分くらいが日本人の気質に合っているなど、検証する余地があると思っています。そして将来的にはそれが100話、120話になったとしても、Huluのサービスならば耐えられるんじゃないかなという気もしています。

最重要デバイスはテレビ



デバイス別の視聴習慣に関しても研究課題です。確かに、全体感として動画視聴におけるデバイスシフトというのは起きていると思いますが、他のオンデマンドサービスと比べてHuluの20代以上のユーザーというのはテレビ視聴される方が遥かに多いんですね。

というのも、本格的なドラマや映画が多いこともあり、スマホから移行している場合もあると思いますが、寝る前にリビングで寛ぎながらテレビで見るとか、ゲームコンソールを通して見る、という方も多いですし、そもそも視聴デバイスとしてテレビが圧倒的なんです。

一方で10代のメディア接触時間はテレビよりスマホが増えているという事実があり、たとえばユーチューバーが作っているような、うちの子供も「はじめしゃちょー」*1)が大好きなんですが、ああいったコンテンツの方がスマホで見るのに適しているのだから作らないのか、という風になるんですけれども、そこは逆の発想で、おそらく今の、特に10歳前後の子ってスマホでドラマを見ることに抵抗感がないんですね。

*1)...若者に人気の大学生ユーチューバー


だからこそ、その子どもたちが大きくなったときに、スマホやタブレットで連続したテレビドラマを見ることにもあまり抵抗を感じないだろうと考えていて、そこのデバイスシフトは起こるかもしれないですが、スマホで見るからそのデバイスに合わせたコンテンツを提供する、という必要は必ずしもないのではないかと思っています。

ただ、今の10歳前後の子って本当にスマホばかりなので、ぜひその子たちにはテレビ番組はテレビで見てください、映画は映画館で見てくださいっていうのは言いたいですけどね。

実際にHuluユーザーの視聴動向を見ていると、5分10分の細切れで見ている方がけっこういます。Huluのサービスの特徴の一つにデバイスシームレスに再生できるという点があって、同じアカウントでログインすれば別のデバイスで視聴しても、前回の続きから視聴することができます。なので、必ずしもスマホに特化したコンテンツ制作ということを強く意識する必要はないのではないかと今の段階では思っています。

喫緊の課題とすれば、ユーザーさんからすると地上波やBS、CSの使い分け方というのは徐々にできてきていると思うんですが、それに比べるとSVOD*2)って何なの?という認知はまだまだ低いと思うので、そこの理解を深めていくことが、我々の急務だと認識しています。

*2)... Subscription Video on Demandの略。定額動画配信サービスのこと。


機械的なレコメンドには限界がある


当然、各社が力を入れているレコメンド機能というのも意識していますし、常に頭の隅に置いていますが、それで全てが解決できるわけではないと考えています。

以前、テレビ番組全録マシーンが登場したときに、テレビ局がみんな脅威を感じながら、結局ほとんど思うようなビジネス展開ができなかったのは、全部が録画されて、「さぁなんでも見てください」って言われることに、日本人は不快感に近いものすら感じたんだと思うんですよ。結局、何を見ていいか分からないし決められない。

レコメンドって「推薦」という意味で、本来きわめてアナログな発想なのに、それをデジタルでやることには限界があると思います。当然、逆に一つ「これだけを見なさい」というやり方だけが正しいわけでもないので、それ以外の方法というのを、もちろん我々も考えています。

最も良いレコメンドって、一番信頼している家族、あるいは友人に勧められることなんじゃないかと思うんですよ。それに近い世界観をどうやって作っていくかが今後の課題です。方法としては、SNSかもしれないし、 “知らないうちに勧められている”という形が理想だと思っています。



我々にとって理想的な世界って1億2000万人の人が全員Huluを見てくれて、学校に行ったら「昨日Huluでこれ見たんだけど、面白かったんだよね」と言ってもらえるような世界です。

テレビが口コミを重要視するのは、ドラマの翌日に学校や職場で「昨日見た○○っていうドラマ面白かったよ」とか、「昨日○○見たんだけどイマイチだった・・・」って言われるのが決定的だからです。なので、その世界観をどう作るか、タグをいくつ付けるかということよりも、生活に入り込んだアナログなレコメンドというのを大事にしていきたいですね。

Netflixの上陸は大きなチャンス


Netflixに関しては、多くのVOD業者が大きなチャンスだと認識しているはずです。

ぼんやりと落ち込んでいるという風に認識されているレンタルDVD市場でも、2013年度でレンタルだけで2500億円市場です。逆にオンデマンドってものすごく伸びているというイメージがあって、確かに比率では130%伸びてはいますが、2013年度でいうと600億円に満たず、まだまだ市場自体が小さいんですね。

そこから考えるとNetflixさんがどういう戦略を打たれるか分かりませんが、相当なマーケティング戦略を打たれるとは思うので、SVODというビデオオンデマンドサービスが、すごく良いらしいぞ、という認知は広がると思うんです。

そのときに、Netflixさんよりもより良いサービスで、より良いコンテンツを提供し、みなさんにお届けするということができていれば、脅威ではなく一つの大きなチャンスになるはずだと、他サービスのみなさんも考えていると思います。少なくともSVODのビデオマーケットスケールが飛躍的に伸びる大きなチャンスになることは間違いないと思います。

ライバルとして本当に意識し始めるのは、市場が一定程度大きくなって、少なくともビデオオンデマンドの市場がレンタルDVD市場と同じ2500億円~3000億円市場になったときだと思います。

どの商売も踊り場というのが必ずくると思うんですね。WOWOWもスカパーも300万人まではいきましたが、オンデマンドも同じようにその当たりで踊り場となるでしょう。その踊り場が来たときには競合を強く意識すると思いますが、それよりも、先にビジネススケールを拡大することによって我々のビジネスの場を大きくした方が、はるかにやりやすいと考えています。

現状、「Huluがないと夜眠れない」というお客様を増やしていくことが第一であって、まだNetflix入ってきてまずいんじゃないの、という感覚は正直ないんです。当然、どんなビジネスモデルでも市場を占めるのはトップ3くらいなので、我々がそこに残りたいという気持ちは強く持っていますが、そこにNetflixがあったとしても、我々は十分にやっていけるだろうと自負しています。


Huluは、生活の一部になりたい


代官山蔦谷書店へ土日に行くと、大勢お客さんがいるんですよ、特にこのコンテンツを借りたいからってそこに行っているわけではなくて、土日になるとなんとなく家族で行く、いいものがあったら借りる、という一つの文化ができています。それに比べてオンデマンドサービスはまだまだです。

技術的な進歩というのは、その都度キャッチアップしていくしかありませんが、基本的なサービスとして、我々はみなさまからプレミアムなコンテンツを預かり、時には自ら作り提供していく、ということになるので、少し抽象的な言い方になりますけれども生活の一部に入り込みたいんですね。

もちろん生活スタイルは多様化しているので、たとえば5分、10分でも見ていくんだっていう方もいれば、毎晩寝る前に1時間Huluを見て自分にご褒美をあげるっていうのもあると思いますし、あるいは週末に1日は遊び、1日はHuluを見るんだという方がいる、多様性はあると思いますが、とにかく生活の一部になりたいというのが一つ。

あとは、先日あるアニメの最終アフレコに行かせていただいたんですが、リハーサルから最後まで、やりながら声優さんたちが泣いてるという、素晴らしい現場でした。現状、Huluにはおよそ2万本の作品がありますが、その中には必ずみなさんの人生の中で人生を支えるような作品というのが必ずあるはずです。そういった作品を提供できる、2万本の中から一つか二つでいいから、みなさんの人生を支えるようなコンテンツを常に提供できるような、そういった存在になりたいと思っています。


[取材後記]

重要視するデバイスとしてテレビが挙がったのは少し意外にも感じたが、クオリティが担保され、安心して動画コンテンツを楽しめるデバイス=テレビという認識は、やはり深く日本人に刷り込まれているのだろう。激しい“隙間時間争奪戦”の中で、こうした文化の壁を越え、ビデオオンデマンドという新たな文化が根付くか否は、いかにコンテンツの質・量ともに充実させ、サービスの利便性を高め、その魅力を伝えられるか、にかかってくるのではないだろうか。

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