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インタビュー

2015年5月14日

Vol.36 ジェイアイエヌが創った本当に使えるウェアラブルメガネ『JINS MEME』開発の舞台裏

視力の悪くない人にもメガネをかける習慣を作るなど、メガネ業界を牽引してきたジェイアイエヌが今度はメガネ型ウェアラブルデバイス「JINS MEME(ジンズ・ミーム)」を開発した。鼻パッドと眉間に搭載された三点のセンサーからは“眼電位” を検知することができ、自分では気づかない「眠気」や「集中度」を可視化。耳の部分には加速度センサーとジャイロセンサーが搭載され、体軸の傾きなどを測定してくれる。
今年秋の一般発売を控え、JINS MEMEはSDKを公開、活用アイディアを競うコンテストやハッカソンを開催するなど、積極的にその活用の可能性を広げようとしている。



見た目からして従来のメガネ型ウェアラブルデバイスとは明らかに一線を画すJINS MEMEはなぜ誕生し、何を目指すのか-。今回は、株式会社ジェイアイエヌ、JINS MEMEプロジェクト担当の佐藤拓磨氏と広報担当の渡辺里実氏にお話を伺った。



ほぼリソースゼロからの出発


----佐藤さんの名刺には、「Eコマースグループ」とありますね??

佐藤氏>そうですね、私はJINS MEMEチームの中ではデバイスに載せるシステムや連携するアプリケーションの開発・管理だとか、先日のハッカソンでも使ったSDKの設計・開発管理を全般的に担当しているんですが、そもそもはJINSオンラインショップのバックヤードシステムの担当なんです。

JINS MEMEは部門横断的にメンバーがアサインされています。当然、メガネメーカーである弊社がセンシング技術を取り入れたアイウエアを開発するに当たっては様々な課題があって、まず社内外含めて、なかなかこの領域をスムーズにキャッチアップし即戦力となるようなスキルセットを持った人がおらず、手探り状態からのスタートでした。


佐藤氏>デジタルという踏み込んだことのない世界での開発だったので、すべて暗中模索で進めていましたね。デザイン、電子部品、スマートフォン側のサービス、アプリケーション開発、様々なパートナー企業様のお力を借りる中で、どうやって共通言語・認識を持って進めていくか、という点では非常に苦労しました。

----そもそも何故、JINS MEMEの開発がスタートしたのでしょうか。


渡辺氏>当初は、R&Dが正式にアサインされる前に弊社代表の田中が『脳トレ』で有名な東北大学の川島隆太教授の元へ「頭の良くなるメガネを作りたいんですが、何かありますか」と相談しに行ったという、ウェアラブルデバイスとは全く関係のない文脈から始まっているんです。

弊社には『メガネに視力矯正以外の付加価値を与え、メガネを再定義する』という理念があって、そのためのアイディアがないか探し求めていました。その中で、眼電位を検知できれば自分の生体情報を取得することができ、それをメガネに実装できれば、非常にユニークな情報になるかもしれない、という話に膨らんでいきました。

その後、本格的に開発に着手したきっかけが2012年の関越の高速バス事故だったんです。実は田中が事故の起きた群馬県出身で、しかも群馬県は車が最も普及している県なんですね。その中であのバス事故が起きてしまい、その原因が居眠り運転によるものだったということもあり、改めてメガネで眠気などを検知して事故を防止し、社会に貢献したいと。この技術を使ってなんとかそういったメガネを創れないかという思いがあって開発を加速させました。

そういった構想期間を含めると、実は約5年程かかっています。

メガネ屋として譲らなかったこと


当初はやはり、ディスプレイを搭載したいとか、レンズに何もしなくていいのか、という議論はありました。でも、それをしてしまうとバッテリーの減りが早くなるし重くなる。何より、やはり弊社はメガネメーカーなので“普通に掛けられるデザイン”のプロダクトにどうしてもこだわりたかった。なので、極力技術を減らし、シンプル&スマートなプロダクトにしようと、早い段階で決断していました。

佐藤氏>ウェアラブルって色々なモジュールや機能を一つの媒体につけて、いかにそれを小さくするかということに主軸を置いているように見えますよね。JINS MEMEの場合は前提が全く違って、メガネがベースにあって、その外観を壊さないようにするために、できるだけ端折れるものは端折って、どれだけ「普通の外見のまま付加価値を付けられるか」ということを考えました。

日常にきちんとなじむデザインであったり、形状でなければいけないというのは、メガネ屋の矜持として欠かせないだろうと。今のウェアラブルはそこを大きく逸脱しているものが多いので、今後ウェアラブル自体の定義というか、どういうものが求められてくるのかというのは、業界としてもすごく問われているなと思います。そういった意味でJINS MEMEの開発においては、普通に掛けられるデザインというコンセプトは、絶対にブラせない条件でした。

デザインを担当してくださった和田さん*1)もすごく熱意を持って、弊社以上に弊社のことを考えてくれていました。「すごくカッコイイものを創ろう」というより、生活になじむもの、というコンセプトを受け入れてデザインしてくださったのは有難かったですね。

*1)和田智氏...JINS MEMEのデザインは、Audi A6などを手がけた和田智氏が監修した。



外部のパートナーの方々も皆さんモチベーションが高くて、一緒に新しいものを作っていくんだという姿勢で取り組んでくださっています。社内だから社外だからということではなく、大変だけど同じ方向見て作っていきましょうという感じで進められています。

当初から代表は、社内のリソースだけではなく、外部の知見を積極的に収集しに行くことが大事だと言っていました。

そうやって外部の優秀な知見を柔軟に取り込む素地があったからこそ、このコンセプトを実現できたような気がします。逆に全て内製化してやっていたら、恐らく今のような形にはなっていなかった気がしますね。

渡辺氏>昨年の5月という早いタイミングで製品発表したことは協業先を見つける目的もありました。当初からアプリベンダーさんであったり、アカデミック領域の先生方に向けて広く技術を開放した方が、JINS MEMEの世界観はもっともっとより良く広がるのではないかと考えていて、今はまさにそのフェーズだと思っています。

SDKも無料ダウンロードできるので、どうぞ自由にこの技術を使って面白いもの作っていただきたいですね。

----4月に行われたハッカソンもその表れですよね。参加者の皆さんも楽しそうでした。


渡辺氏>そうなんですよね、すごく愛を感じました。JINS MEMEのコンセプト自体に共感を持ってくださっているんだなと実感できるイベントでした。

4月25-26日にかけて行われたハッカソンでの開発中の様子。
およそ40名が8チームに分かれ、アイディアと技術を競った。


佐藤氏>そういう意味だと、これがいいと思って進めてきたことに対して、初めて実際に生の反応を聞くことができて、やっぱり考えてきた方向性は間違っていなかったと感じることができたので、そういう意味でも良かったよね。

成果としても、アイディアピッチで出てきたものを見ると広がりを感じましたね。社会貢献的な切り口もあれば、エンターテイメント系のものもあったりとか、できることが多くあるんだなという発見はすごくありましたね。

ハッカソンでの最終発表会の様子


----最優秀賞は目の動きで相性を診断するアプリでした。選考のポイントは何だったんでしょうか?


佐藤氏>最優秀賞を選んだポイントは、実際に使うデータと、アプリケーションとして提供する内容に筋が通っていたこと、実装できていたこと、狙い通りに動いたこと、です。実現可能性が最も高く、JINS MEMEでしかできないこと、という意味でも最適でした。

MEMEが一般発売されたとき、様々あるアプリケーションの中に入っていても全く違和感がないし、むしろあってほしいもの、でもあったと思います。

----御社で開発されているアプリについて教えていただけますか?


佐藤氏>確実にMEMEでしかできないことを前提に開発中です。デザインも機能も良い感じで尖ったものになって、JINS MEMEを発売する秋までには完成する予定です。

----読者へメッセージをお願いします。


佐藤氏>オープンイノベーションを前提にSDKも公開していますし、アイディアピッチコンテストは現在も開催中です。JINS MEMEの世界観を広げるアイディアや技術、大歓迎なのでドシドシご応募ください!




[取材後記]

IT分野における新技術、あるいはイノベーションなどというと、ライフスタイルそのものをガラリと変えるような革新性を期待してしまうが、まずは現状のライフスタイルに溶け込むこと、そしてニーズを汲みながら小さな革新を重ねていくこと、それこそが最短でイノベーションを起こす方法なのかもしれないと思った。
メガネメーカーから生まれたJINS MEMEは、図らずもウェアラブルデバイスに大きな示唆を与えるものになるかもしれない。

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