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インタビュー

2015年4月27日

Vol.35 テスラモーターズから屋久島まで、ユーザーの“予約体験”を変え世界のブルーオーシャンを狙うクービック

URLやメールアドレスを入力するだけでホームページの作成から予約・顧客管理機能までを無料で利用できるようにしたネット予約システムが「Coubic(クービック)」だ。今月、その導入事業者が1万社を突破した背景には、これまでネット上でのプロモーションや予約受付の重要性を認識しながら、フロントシステムにまで時間や予算を割けなかったスモールビジネスオーナーたちのニーズがある。
もちろん、そうしたビジネスオーナーたちが求めているのはシステムだけではない。「集客までできてこそ、価値が生まれる」と捉えるクービックは、予約者側のユーザーエクスぺリエンスを最大限高めた当日予約アプリ「Popcorn」をリリースした。今回は、この「Coubic」と「Popcorn」を提供する株式会社クービック代表の倉岡寛氏にお話を伺った。


予約体験を変えるクービックの始まり

Coubicは、ネット予約を受け付けたいけれども従来のシステムは使い勝手が難しそうだとか、コストがかかりそう、という理由で予約システムの導入を躊躇してきたスモールビジネスオーナー向けに提供しています。

そもそもの始まりとしては、SNSなどを活用して自力で集客を行おうとする個人事業主が増え、ネット予約という言葉も当たり前なってきているとは言え、それが行き届いていない領域が実はたくさんあるのではないか、という気づきでした。



たとえば私自身、引越業者を検索して登録したときに、色んな業者から電話がかかってくるけれどもタイミングが悪くて出られなかったり、ネット予約もできると言えばできるんだけれどもスマートフォンには対応していなかったり、入力が非常に面倒だったり、相当不便な経験をしました。その時に予約体験というのは、ユーザーエクスペリエンスとしてまだまだ満足できるレベルに達していないのではないか、という課題意識を持ったんです。

一方で、米国を中心に流行しているタクシー配車アプリのUberって本当に1タップ2タップでタクシーを呼ぶことができるんですね。ああいったサービスは、その手軽さが一番重要だと思っていて、そういったものがもっと色んな領域に広まれば、みんなフラストレーションを感じることもなくなるだろうと思い、予約をもっと便利にするための何がしかをやろうというところからスタートしました。

最初は色んな方にアイディアを話していく中でテスラモーターズという電気自動車を作っている会社の知人から、自動車の試乗会の予約管理が大変なことになっているからなんとかできないか、という相談を受けて、あまり深く考えずに「あ、それやります」という感じでテスラの方と一緒にCoubicの原型となるものを作っていきました。

テスラの方々と話し合う中で、予約を受け付けた後に顧客管理もしたいとか、入ってきたユーザーさんがどういう人なのかというのを管理し、その人たちとコミュニケーションまでできるようにしたい、というような要望もあって、「なるほど、予約って予約だけじゃないんだ」と当たり前ですが顧客管理というのはかなり奥が深いなと感じました。

そこから更に、じゃあ個人事業主の方々はどうしているのかなと調べてみると、そういうものが見当たらず、現場でも全部電話や紙で管理していますというケースが多かったので、誰でも使える予約システムというのは、ニーズがあるんじゃないかと感じました。もちろん、そういったものを提供する大企業もありますが、個人事業主の方々にとっては非常に使い勝手が難しいものなので、もっと単純にして誰もが使えるようにすればニーズが出てくるのではないのか、というところから今のCoubicはスタートしました。

BtoBツールをBtoCサービスのように

ローンチするときには本当に使われるかどうか、当然最後の最後まで分からなかったので、「どうするんだろう、出して全く刺さらなかったらどうしよう」って、けっこう怯えながら出したんです。結果的にある程度使ってもらえるようになったので、今はけっこうほっとしているというのが正直なところですね。

ローンチしてから嬉しかったのは、屋久島の観光協会の姉妹組織の方々が使ってくれていたことです。屋久島と言えば屋久杉のイメージが強いですが、その他にも色んなアトラクションやグルメがあるんだということを知らしめるために開催しているイベントがあって、その予約管理に我々のサービスを使ってくれていると聞き、会社の者をすぐに屋久島へ行かせました。行ってみると、その組織の全員がITに詳しいわけではなかったと思いますが、ちゃんと使ってくれていたんです。特に観光地に関しては、外部から来る人とネット上で接点をもって受け付ける、という形になるので、Coubicのようなインターフェイスがあれば、使いたいというニーズが確実にあるんだという発見でした。これは、ローンチしてから気づいたことです。



テスラモーターズの方々も使ってくれてはいましたが、それをセルフサービスとして出して果たして使ってもらえるのか、登録しても使い方が分からなくて、すぐに離脱してしまうのではないか、という不安がつきまとっていました。でも、やはりきちんとプロダクト・マーケット・フィットというところを意識していれば、意図した通りに使ってもらえるものだと実感しています。

BtoBのツールにおいては特に、これはこうやって使うんですよ、と営業担当が一つ一つ説明して回らなければいけないようなシステムが多いですが、メッセンジャーアプリのLINEなんかもそうであるように、BtoCのサービスは、誰が説明しなくても、子どもでもなんとなく使えますよね。そういったBtoCの感覚でBtoBのツールも使えるようにしなければいけない、ということが我々の大きな命題としてあります。

とは言え、本当に我々が意図しているように使ってもらえるかってローンチしてみてからじゃないと分からない。実際にCoubicをローンチする前にテストマーケでサロンの方に無理やり使ってもらったりしたんですが、「使いづらい」とか、「こんなのお客さんに出せるわけない」というようなフィードバックをたくさんいただきました。

それでも、BtoBよりBtoCに近い形で誰でも使えるようにするという考え方は、非常に重要な点なのではないかと思っていて、それさえできれば、営業担当を大勢抱えて営業に行かなくても、ユーザーが勝手に使ってくれるような状況にできると。そういったところを含めてこそ、プロダクトが市場にフィットしたと言えると思っていて、それを実現するために本当に誰にでも使っていただけるような工夫をし尽くし、スマホでも管理ができるようにして、プロダクトの質の部分で他サービスと差別化できるように注力していました。

ビジネスオーナーの価値創造のための、次の一手

ただ、Coubicをいろんなビジネスオーナーの方々に使ってもらっている中で、やはり一番の課題としてあるなと感じたのは集客の部分です。予約管理・顧客管理が簡単にできるというのは助かるんだけれども、そもそもお客さんをどうやって集めるのか、SNSを使いこなせる人も多いので自前で頑張っている人もいますが、やはり全員が全員そうではありません。

世界を見渡しても予約ツールだけでビリオンダラーカンパニーになっているところってないんですね。弊社も予約管理ツールを提供しているだけでビリオンダラーカンパニーを目指せるかと言えば、相当ハードルが高いと感じていて、やはり食べログやホットペッパービューティーがそうであるように、お客さんを運び込める、送り込めるというところが究極的にビジネスオーナーの方々の価値になっていくと思います。そこで、まずはサロンやマッサージというところをバーティカルで切って、そのメディアの一つとして「POPCORN」という当日予約アプリを最近ローンチしました。


マッサージって「今日、今から行きたい!」っていうのあると思うんですよね。でもそのニーズに今までどう応えてきたかと言うと、グーグルで検索して電話して、空いてる空いてないのやりとりをして…ってやっぱり予約体験としてイケてないと感じていました。

そういった中でPOPCORNの着想のときに念頭にあったのは、やはりタクシー配車アプリのUberです。タクシーを呼びたいと思ったときに1タップ2タップで呼ぶことができる、ああいった予約体験を提供することができれば、他サービスとも差別化できるのではないかと。

POPCORNに関してはまだまだこれからのフェーズですが、自分自身、ユーザーとして使ったときの感覚が本当に新しい感覚なんです。1タップ2タップで予約を入れることができて、そのままお店に行ってマッサージ受けて帰って、また行きたいなと思ったときに、また1タップ2タップで行ける、そういう体験ってけっこう新しい感じなんですよ。プロダクトの機能としては、他サービスでもできることではあるんですが、ユーザーに提供できる体験そのものは従来のサービスと全く違うものだと思っています。

とは言えPOPCORNに関しては、オーナーさんを集めないとユーザーの満足度を満たせない部分があるので、今はオーナーさんをどんどん集めて使っていただきながら、どこかのタイミングで踏み込んだプロモーションを打ち、ユーザーを積極的に獲得しにいく、ということを考えている状況です。

アメリカ企業から学んだトップの姿勢

もともとはどちらかと言うと引きこもりで、空想をしているのが好きな人間でした。東京大学の大学院に在籍していたときも、かなり研究に没頭していて、複雑系ネットワークやマルチエージェントシステムという、要素と要素がそれぞれコミュニケーションしあいながらできていく組織、トップダウンで指示を出して動かすのではなく、モノでも人でもロボットでも、自発的に考えながらボトムアップしていく組織やシステムの方がいいよね、という考えを突き詰めていました。

そういった研究をする中で、インターネットってそもそもそういうものだなって気づいたんです。たとえばテレビの例が分かり易いと思いますが、メディアの中では一番影響力を持っているテレビは、一方向に情報を伝えていきますが、インターネットって色んなニュースやコンテンツをユーザーから届けることが可能になっている。そういう意味でインターネットという世界はまさに自分自身の考え方にフィットする感じがあって、おもしろいなと。どちらかというと学術的に見ていたところがあるんですね。

Googleという組織もまさにボトムアップ型の組織で、割と有機的にできていたので、そういうところが面白いなと思って入社しました。

起業については、シリコンバレーにいたときに、みんながキャリアパスの一つとして起業というのを当たり前に持っていたことで、転職すらビビッている自分って小さいなと思ったんです。

向こうの人たちは起業して失敗してもなんとかなるでしょ、といった感じで、実際に出戻ってくる人もいるし、そのままの人もいました。そういったカルチャーだったので、ハードルがどんどん下がっていって、自分のキャリアもその辺りから考えるようになりました。

同時にシリコンバレーにいたころ、配属されたところのトップに現Yahoo!CEOのマリッサ・メイヤーがいて影響を受けました。彼女はアソシエイトプロダクトマネージャーという、ゆくゆくプロダクトマネージャーになる(年間)40人くらいの新卒上がりの人を抱えていました。私もそこにいて、マリッサと話す機会もあったのですが、彼女自身がUX、UI系の人間ということもあって、こういう考え方するのかと強く影響を受けた部分があります。彼女は、やはりめちゃくちゃ頭のいい人です。数字とかデザインに対するアテンションもすごく高くて、「このUIはこういう風にしたいと思っています」とプレゼンすると、じーっと見て「そこのライン、2 ピクセルくらいずれてない?」「お~確かに」そういう指摘をする人でした。


どこまでマイクロマネージするかっていう問題もあると思いますが、いずれにせよトップがプロダクトに対して興味を持ち、細部にまで拘らなくてはいけないということ、トップこそが常に真剣にプロダクトをより良くするにどうすればいいのか、ということを考えていなければいけないこと、これはGoogleやマリッサに関わらず全員に言えることですが、そういうことをすごく学びましたね。

起業に関して言えば、東大はまったく関係ないです。ただ一つ言えるのは、大学院時代にはまっていた研究も、上っ面なところではなく、常に本質的なところは何か、ということが問われていたと思いますし、問い続けなければいけない仕事だったと思うんです。
Googleも、常に世の中がどうあるべきかとか、ユーザーは何を欲しているのか、みたいなところを真剣に考えていました。このゲームを売れば売り上げが上がるからゲームをやりましょう、ということではなく、ユーザーが抱えている問題は何だ?ということを、非常に真面目に探しあてて解決していく姿勢がありました。

そういう意味で、大学院で研究ばかりしていたころと、起業した今の自分の姿勢は変わっていません。そして、そうやって考える中で、究極的にはビジネスオーナーの方たちがハッピーにビジネスをし続けることがやはり重要なんじゃないかと思い至っています。

我々のサービスを通じてビジネスオーナーの方々がよりスムーズにビジネスをできたりコストをかけずに集客できるようになること、それがまさに我々のミッションです。そして、じゃあそこをやり切るために、そもそも何をすればベストなのか、という視点で今後もビジネスを展開し、その軸を見失わずにバリューを出していければと思っているところです。


[取材後記]

「予約」は世界共通の習慣でありながら、この市場で大きく成功しているサービスはまだないようだ。その中で、Coubicはすでに英語と韓国語に対応している。先日は3.1億円の増資と取締役会設置会社への移行を発表し、着々と市場獲得の準備を進めているように見える。ビジネスの本質とUXに拘るクービックこそ、世界市場を制する可能性が高いかもしれない。

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