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インタビュー

2026年8月3日

全国900社時代のMVNOはどう生き残るのか
── 株式会社CoeNova(旧DXHUB)が挑む「ATM本人確認」という新発想 ──

日本のMVNO(仮想移動体通信事業者)市場には、いまや約900社がひしめいているといわれる。格安SIMの普及で身近になった一方、2026年4月施行の携帯電話不正利用防止法の改正をはじめ、本人確認をめぐる規制は年々厳しさを増している。
2026年4月に施行された改正・携帯電話不正利用防止法(携帯電話不正利用防止法施行規則の改正)では、これまで主流だった「本人確認書類の画像アップロード」によるオンラインでの本人確認は原則廃止され、マイナンバーカードのICチップ読み取り(JPKI=公的個人認証サービス)を前提とする方式へと移行が求められている。2027年には犯罪収益移転防止法(犯収法)の改正により、店頭(対面)契約でもICチップ認証が必須化される見込みだ。
店舗を持たない中小の事業者にとって、対面に近い本人確認をどう実現するかは、事業継続を左右する課題だ。
こうしたなか、外国人向け通信サービス「JP SMART SIM」を展開する株式会社CoeNova(以下、コエノバ)は、全国のセブン銀行ATMを本人確認に活用する仕組みを2026年4月にスタートさせた。申し込み後にATMへQRコードをかざせば、ICチップの読み取りによる本人確認が完結する――店舗を持たない事業者でも、全国のATMを“窓口”として使えるという発想である。
今回は、この取り組みを推進したコエノバの赤西智貴氏に、MVNO市場の現状、法改正がもたらす負担、そしてセブン銀行ATM活用の着想から地域事業者への支援までを伺った。

目次

■ 「運用できる専門家は全国で100人ほど」――900社が並ぶMVNO市場の実像
■ 「儲かるわけではない、現状維持のため」――本人確認の厳格化という重荷
■ 全国のセブン銀行ATMを“本人確認の窓口”に――発想の原点
■ 「山を2つ越えないと携帯ショップがない」――地域とユーザーへの優しさ
■ 「ラーメン屋と同じ」――参入から撤退まで伴走するという発想
■ 「通信には色がない」――“声”を聞いて、形にする

「運用できる専門家は全国で100人ほど」――900社が並ぶMVNO市場の実像

まず、現在のMVNOの競争環境をどう見ていますか。約900社がひしめいているとも言われますが。

赤西氏:これまでMVNOは、専門知識がないと参入できない世界でした。私たちも、もともとはプリペイドSIMの販売から参入し、外国人向け、法人向けと少しずつ幅を広げてきた経緯があります。周囲に支えてくださる方がいて、ルールの整備や法改正への対応をサポートしていただけたからこそ、ここまでやってこられました。
業界には900社ほどありますが、私の知っている範囲で言うと、MVNOを実際に運用できる専門家は全国で100人ほどに限られると感じています。だいたい1社に1人か2人いて、その下に多くのスタッフがいて事業を回している。小さな会社だと1人しかいないことも多く、地方ではその人材を雇うこと自体が大変です。MVNOの9割ほどは東京に集中していると思いますので、特に地方で続けていくのは、相当な苦労があるはずです。

通信は、小さなMVNOであっても大手と同じ法令基準を求められる事業領域だ。赤西氏は「性善説では成り立たない市場」と表現する。料金の安さで知られるMVNOだが、その裏側では、限られた専門人材が事業を支えている実態がうかがえる。
特に法改正のたびに開発・運用人材を社内で抱える戦略は、地方や小規模の事業者にとってますます現実的ではなくなっている。

「儲かるわけではない、現状維持のため」――本人確認の厳格化という重荷

その中でも大きいのが、本人確認をめぐる法改正だと思います。いま最も大きなボトルネックはどこにあるとお考えですか。

赤西氏:法律は、これからどんどん厳しくなっていきます。これまでは、たとえば本人確認書類を写真で撮って事業者に送れば契約できていたものが、ICチップを読み取らないといけなくなる。一般のお客様がこれまで経験したことのない手続きをしていただかないと、そもそもSIMカードをお送りできなくなりました。
しかも、その分のコストをお客様に転嫁することは、なかなかできません。新しい開発をしても、別に儲かるわけではなく、現状を維持するためにやらなければならない。ここが、MVNO事業者にとってかなり負担の重いところです。

背景にあるのは、闇バイトや特殊詐欺といった犯罪に携帯電話が悪用されてきた現実だ。スマートフォンがあらゆるサービスの「ハブ」となるなかで、「本当に持っている人を、きちんと確認しよう」という流れが強まっている。一部の不正利用を防ぐために、大多数の一般利用者も同じ手続きを求められ、事業者はその対応に追われることになる。

利用者にとっては、どのような影響がありますか。

赤西氏:いちばんは、ユーザーさんの体験が悪くなることです。これまでは「スマホを変えたい」と思えばすぐにできたものが、アプリをダウンロードしてICチップを読み取ったり、店頭でも専用の端末が必要になったりする。2027年の改正では、店頭でもICチップを読み取る確認が求められる見込みです。現場の負担も重く、社会に浸透するまでには、少なくとも数年はかかるだろうと見ています。

全国のセブン銀行ATMを“本人確認の窓口”に――発想の原点

そうしたなかで、御社はセブン銀行ATMを本人確認に活用する仕組みを始められました。改めて、その仕組みを教えていただけますか。

赤西氏:私たちのお客様は外国人の方が多く、クレジットカードを持たず、お支払いの大半をコンビニでされる方が少なくありません。申し込んだあとにコンビニへ行かれる導線が、もともとあるわけです。では、その導線上にあるものは何かと考えたときに、セブン銀行ATMに行き着きました。
仕組みとしては、Webでお申し込みいただいたあと、QRコードを発行します。それをセブン銀行ATMにかざしていただくと、ICチップ読み取りのメニューが出てくる。あとは大きな画面のガイドに従っていただければ、とても簡単に申し込みが完了します。本人確認の一部を、ATMというサービスとして取り入れさせていただいた形です。

着想のきっかけは、セブン銀行が新世代ATMの認証機能について公表したニュースリリースだったという。

赤西氏:リリースが出たその瞬間に、私のほうから問い合わせをさせていただきました。当時はまだ全国展開されておらず、首都圏に数台あるだけで、一般の事業者を対象にしたものでもありませんでした。ただ、ATMが対応している法律と、通信を提供する際の携帯電話不正利用防止法は、管轄は違うものの、犯収法(犯罪収益移転防止法)を踏まえた似た作りになっています。そこに対応できるATMなら、携帯の法律にも対応できる――そう考えました。

話を持ちかけてから、開発を含めておよそ1年。2026年4月1日の法改正に合わせてサービスを開始することを目標に進め、プレスリリースは前年12月に公表した。全国規模のATMを、小さな通信事業者が活用できるようになった背景には、セブン銀行側との連携があったと赤西氏は語る。
自前で店舗網を整備したり、JPKI対応のシステムをゼロから構築したりしなくても、外部の仕組みを活用すれば、全国規模の本人確認接点を確保することができる――というモデルが、現実に動き出している。

「山を2つ越えないと携帯ショップがない」――地域とユーザーへの優しさ

この取り組みは、店舗を持たない全国の事業者にとって、どのようなメリットがあるとお考えですか。

赤西氏:セブン銀行ATMは、外国の方から高齢者の方まで、あらゆる人の「ハブ」として展開されています。私たちは外国人向けにやっていますが、同じように高齢者の方にも優しい。私自身が田舎の出身なのですが、地方では携帯ショップが「山を2つ越えないとない」ような地域もあります。それに比べて、コンビニやATMはずっと多く展開されている。いろいろな場所で本人確認ができて、SIMカードを購入いただける――そこに大きな可能性を感じています。

中小のMVNOは、そもそも店舗を持たない会社が圧倒的に多い。リアルの接点を持てないことは、長くこの業界の課題だった。全国に張りめぐらされたATMが、その「窓口」の役割を担いうる、というわけだ。

赤西氏:例えば北海道で、技能実習として農業や漁業に従事されている外国人のお客様もいらっしゃいます。都市部から離れた地域でも、セブン-イレブンはある。ということは、どの地域にお住まいの方でもSIMカードを購入いただけるわけです。

無人のATMですが、操作に不慣れな高齢者や外国人の方にとって、難しくはないのでしょうか。

赤西氏:セブン銀行ATMは、設計が本当によく考えられています。「かざしてください」といった指示がやさしい日本語と英語で表示され、大きな絵のガイドが出る。かざしてほしい場所が光ったり、置き方が違えば正しい置き方のイラストが表示され、正しく操作しないと次に進めない仕組みになっている。スマートフォンの複雑な操作に慣れていない方でも、直感的に迷わず扱える、いわゆるユニバーサルデザインです。もともと銀行口座の開設や認証で、誰もが確認しやすいように設計されているからこそだと思います。

無人ATMが培ってきた使い勝手を、そのまま本人確認に活かせる――これが最大のメリットだと赤西氏は話す。

「ラーメン屋と同じ」――参入から撤退まで伴走するという発想

御社は、地方のMVNO事業者の支援もされています。具体的には、どのような支援が多いのでしょうか。

赤西氏:携帯ショップがないような自治体の拠点で、高齢者向けのスマホ教室をされている会社さんと一緒に、SIMカードを取り扱っていただく。そうした支援をしています。地域に根ざし、お年寄りの声を一人ずつ拾ったり、訪問して設定までサポートされたりする事業者さんが、いま「うまくいっている」と言われるところに多い印象です。
法改正のたびに追加投資が必要になるなか、コエノバが提供するのはホワイトラベル形式の支援だ。
「バックヤードは私たちにお任せください」という形です。法改正への対応は私たちがさせていただく。そのうえで、お客様を集めるのは事業者さんにお願いする。そうすれば、莫大な設備投資をせずに、自分たちのブランドで展開いただけます。すでに一部、スタートしているところです。

これからMVNOを始める方、あるいは続けていく会社に、伝えたいことはありますか。

赤西氏:MVNOをやるとき、「売りたいから」と、正直に言うと、綺麗事と無茶な計画を立てられているケースが結構あるんです。ラーメン屋を始めるのと同じくらいの感覚で、というイメージでしょうか。ただ通信事業は、1人のお客様でも同じ基準が求められる。お客様が減ったり、増えなかったりしたときの支援は、これまであまりありませんでした。
やめたくても、やめられないという部分も結構あります。過去には、外国人向けの事業者さんのサービス自体を引き取らせていただいたこともあります。だからこそ、参入の段階からきちんとした計画値を持ち、撤退のところまで支援させていただく。それが、私たちのお伝えしたいことの一つです。

参入支援だけでなく、撤退の伴走まで――。困っている事業者に「パーツを一つでも当てる」ような支援を、と赤西氏は語る。

「通信には色がない」――“声”を聞いて、形にする

業界の動向や法改正の情報は、どのように追いかけていらっしゃるのですか。

赤西氏:テレコムサービス協会から情報をいただくほか、最近はAIの発達もあって、自分好みのニュースの更新を通知してもらうようにしています。それから、先ほど申し上げた100人ほどのコミュニティですね。MVNOの世界は、実はお互いに回線を奪い合うというより、「まだまだ回線は少ないよね、一緒にこの事業を育てていきましょう」という方が多い。そこで情報交換をさせていただきながら、知識を深めています。

競合がしのぎを削る業界というより、限られた専門家同士が支え合う――赤西氏の言葉からは、そんな業界像が浮かぶ。

赤西氏:通信は、逆に言うと「色がない」ので、何にでもなれるんです。「通信を売ってください」と言われても、実は売り方がわからない。だからこそ、皆様の声を聞いて、その色にしていく。「これならどうですか」という提案を、ひたすらしているのが私の状態です。声を聞いて、それに対してしっかりとサポートしていく――そういう会社でありたいと思っています。

携帯電話やスマートフォンは、いまや生活に欠かせない「必需品」だ。大きな声だけでなく、地方や外国人をはじめとする一人ひとりの「困った」という声を、いかにすくい上げ、支えていくか。今後は音声SIMだけでなくSMSのSIMも本人確認の対象となり、将来的にはすべての通信回線に本人確認が求められる方向にあるという。だからこそ、計画を持って一年ごとに対応を重ねていくことが、これからのMVNOには求められていく。

株式会社CoeNovaについて

株式会社CoeNova(コエノバ)は、外国人向け通信サービス「JP SMART SIM」などを手がける通信事業者。MVNOの参入・運用から撤退までを支えるホワイトラベル形式の支援や、IoT向け回線の提供なども行う。2026年4月施行の携帯電話不正利用防止法の改正に合わせ、全国のセブン銀行ATMを本人確認に活用する仕組みを開始した。2026年7月1日には、社名を「株式会社DXHUB」から「株式会社CoeNova」へと変更した。

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