スマートフォン、タブレットを中心とした消費者動向や市場調査を無料で公開

リサーチのご相談

インタビュー

2026年6月8日

給与明細に載せても、誰も気づかない。
だから“その日に増える”PayPayを選んだ
ー人材派遣会社パーソナックが、“特別手当”で始めた給与デジタル払いのリアルー

給与の一部を銀行口座ではなくデジタルマネーで受け取れる「給与デジタル払い」は、制度解禁から少しずつ広がりつつある。とはいえ導入企業の多くは一部の部署や数名から試験的に始めるのが一般的で、現場で働く人材を多く抱える人材派遣業での事例は、まだ多くない。
そうしたなか、三重県津市に本社を置く人材派遣会社・パーソナックは、経営トップの判断を受け、検討から約二か月という短期間で導入に踏み切った。希望する従業員へ特別手当をPayPayで支給する仕組みを整え、社内へ一斉に展開している。今回は、導入を担当した同社 総務課課長の橋口 晋氏に、検討の経緯や現場での苦労、今後の見通しについて話を伺った。

目次

■ 「社長がこれに食いついた」――トップダウンで動き出した給与デジタル払い
■ 検討から導入まで、わずか二か月――整っていた「土壌」
■ 給与明細では気づかない手当を、「その日に」届ける
■ 一番の難所は「同意書の回収」――現場を駆け回って集めた
■ 「一度入れると、止めない」――現場の手応えと“選べる自由”
■ PayPayだけにこだわらない――変わり続ける決済と人材会社の使命
■ 導入をためらう企業へ――「便利だと思うことは、会社が背を押す」

 

「社長がこれに食いついた」――トップダウンで動き出した給与デジタル払い

給与デジタル払いの導入のきっかけは何だったのでしょうか。

私自身は制度が解禁されたタイミングで「あ、銀行口座じゃなくて、そういうものも利用できるんだな」と知った程度でした。ただ、社長がこれに食いついたんです。「うちに入れろ」という流れで。社長自身がふだんからPayPayを使っていて、便利だと感じていたこともあって、もうPayPayでいこう、と。
橋口氏自身は当初、給与デジタル払いに特別詳しかったわけではないという。導入の起点になったのは、パーソナックの社長でありグループ全体を率いる代表の判断だった。日常的にキャッシュレス決済の利便性を実感していた経営トップが、自社への導入を即断したかたちだ。

検討から導入まで、わずか二か月――整っていた「土壌」

実際に、検討から導入まではどれくらいの期間だったのでしょうか。

期間としては一か月か二か月ほど、二か月ちょっとですね。制度解禁があった年の5月ごろに代表が気になり始めて、7月払いの給与から始めましたから。わからないことはPayPayさんに直接聞いたり、ホームページに出ていたリリースをかき集めたりして、こちらで情報収集して、一気にまとめ上げた感じです。

短い期間でも対応できた背景には、何があったのでしょうか。

ちょうど一、二年前から、派遣の給与計算や勤怠、派遣先への請求、給与の支払いまでを一つのアプリで処理できるよう、ずっとデータ移管を進めてきていたんです。それが整ったぐらいのタイミングだったので、比較的楽にできました。極端に言えば、エクセル表を一枚つくれば対応できる状態には持っていけていたので、その土壌があったからというのもあります。
短期間での導入を可能にしたのは、社内の業務基盤が整っていたことが大きいという。給与計算や勤怠管理などをひとつのシステムへ集約する整備をかねてより進めていたことが、結果的に短期導入を後押しした。準備の土壌があったからこそ、急な号令にも応えられたといえる。

給与明細では気づかない手当を、「その日に」届ける

給与の全額ではなく、一部をデジタル払いにされていると伺いました。どのような形なのでしょうか。

給与の全額を振り込んでいるわけではなくて、希望する社員に対して、特別手当として一定額をPayPayで支給する形をとっています。そうすると事務的な負担も少ないので。背景には、有期雇用で働く登録型派遣のスタッフには、これまで昇給というものがほとんどなかった、という事情があります。正社員は年々昇給していくけれど、登録型派遣の方は契約時の時給のまま、なかなか上がらない。この物価高のなかでそれは厳しいんじゃないか、派遣スタッフに会社に残ってもらうためにも、ということで特別手当を組み込みました。

物価高が続くなか、これまで昇給の機会が乏しかった登録型派遣のスタッフへ手当を届ける――それが導入の大きな動機だった。ただし、支給の「見せ方」にも同社ならではの工夫があった。

あえて通常の給与振込ではなく、デジタル払いにしたのはなぜでしょうか。

同じ手当でも、給与明細に乗せただけでは、なかなか実感してもらえないんです。控除や税金、保険料が引かれて、手元に入ったときには「そんなに増えたかな」という印象にしかならない。でも、PayPayなら支給したその日に、残高がポンと増えるわけです。魔法みたいなものじゃないですか。朝起きて財布を開けたらお札が増えていた、みたいな。それを実感してもらえると、「会社が君たちを必要としているんだよ」ということが社員に伝わる。そこから始めた、というのが実はあるんです。

銀行振込では諸控除に紛れて埋もれてしまう手当も、デジタルマネーなら支給日に残高として「見える」。金額の大小ではなく、会社からの気持ちをどう届けるか。受け取り手の実感を重視した設計だ。なお、手当の金額や対象範囲は経営側の判断によるもので、希望しない社員には通常の給与に同等の手当を加える形をとり、受け取り方は本人が選べるようにしている。

一番の難所は「同意書の回収」――現場を駆け回って集めた

導入にあたって、戸惑った点や大変だったことはありましたか。

一番大変だったのは、同意書の回収ですね。うちは事業所が各地に点々としていて、さらにその先に派遣先がある。メールやLINEで通知はできるんですが、同意は文書で残さないといけない。その回収に苦労しました。派遣担当の営業に駆けずり回ってもらって、集めて集めて、という感じでした。

文面づくりや手続きの面ではいかがでしたか。

同意書の文言はPayPayさんのフォーマットがあって、ほぼコピペで作れるんですが、細かいところで「この言い回し、どういう意味だろう」と迷う部分もありました。あとは、PayPay給与用の口座を設定してもらう必要があるんですが、もともとPayPay銀行に口座を持っている方が、その口座番号を書いてきたりという混乱もありましたね。数件ですけど。

社内への説明や、プロジェクトの体制はどのように進めたのでしょうか。

月に一度、派遣スタッフを管理する社員が集まる営業会議があるんですが、まずそこで代表が「来月からやるからな」と一言。あとは私が「これとこれを揃えてください」という形で進めました。説明についてもPayPayさんがホームページを用意してくださっていたので、そこへのアクセスを一斉に配信して周知しました。問い合わせ用のQ&Aもあったので、まずそれを見てもらって、どうしてもわからなければ総務課に、という流れです。事務作業は経理の給与担当が中心で、銀行へのデータの流し込みや、二重払いにならない仕組みづくりを進め、現場では派遣スタッフをまとめる営業にも一緒に動いてもらいました。

拠点が分散し、その先に多数の派遣先を抱える人材派遣業ならではの難しさが、書面回収という地道な作業に表れた。手続き面ではPayPayが用意したフォーマットや案内資料を活用できたものの、現場での細かなつまずきは避けられなかった。トップの号令で方向性を示しつつ、実務は経理と現場の営業が分担して支えるかたちで、短期間での全社展開を実現している。

「一度入れると、止めない」――現場の手応えと“選べる自由”

導入後、現場の反応はいかがですか。

派遣スタッフから直接の声を私が聞くことはあまりないのですが、「喜んでいるよ」という話は担当営業から上がってきます。一度デジタル給与を設定すると、やめない方のほうが多いですね。途中入社の方でも、「これ、できるよ」と言うと「じゃあやるやる」と。それだけPayPayが生活のなかに浸透しているんだと思います。QRコード決済が使えるお店なら、たいてい使えますしね。

こうした取り組みが、会社にとってのプラスになっている実感はありますか。

こうして取材の対象になるくらい、誰かの目に留まるということですから。こういう取り組みをしていること自体が、企業のイメージとしてもいい面はあるんじゃないかと思います。もちろん、PayPayさんが導入事例として出してくださった、というのもあるんですけれどもね。

受け取り方は本人が選べるようにしているが、いったん利用を始めると継続する人が多いという。生活に根づいた決済手段だからこその手応えだ。運用面でも特に大きな問題は起きておらず、対外的な発信を通じて企業の認知につながる側面もあるとみている。

PayPayだけにこだわらない――変わり続ける決済と人材会社の使命

今後、PayPay以外の決済への対応も考えられますか。

可能性はあると思います。昔は「銀行振込はここだけにしてください」とお願いしていた時代もありましたが、今はもうそんなものは意味がなくなっている。銀行自体も数えきれないほどありますし、通信会社も銀行をやっている。メルカリのようなプラットフォームも、ポイントがあって使えて、ほぼ銀行と同じようなことができる。そうやって垣根がなくなってきているなかで、QRコード決済もだいぶ淘汰されました。残ったものがこれからどう競合していくか。PayPayさんもバックにソフトバンクさんがついていますが、絶対に安泰とは言えない。だから会社としても、変化には対応していかないといけないと思っています。

将来的には、こうしていきたいという展望はありますか。

本来は、本人が希望する額で対応できるのが一番いいと思っています。ただ、そこには導入のハードルがある。今うちで使っているシステムでは、給与の振込先は一つの口座しか登録できないんです。PayPayの分は一定額にして、補助的なエクセル表と組み合わせてデータを流し込んでいる。これが金額自由になると、どういう形がいいのか。とはいえ、これだけAIが進歩していますから、投げればポンとフォーマットができるようになる気もします。社員から声が上がれば、対応していきたいですね。

決済サービスの勢力図は移り変わりが激しい。特定のサービスに固定するのではなく、変化に合わせて対応していく――その姿勢の根底には、人材サービス業ならではの危機感がある。「人材は、人を集めてなんぼ」。働き手に選ばれる魅力的な会社であり続けることが、グループ全体の課題だと橋口氏は語る。

導入をためらう企業へ――「便利だと思うことは、会社が背を押す」

最後に、導入に不安を感じている企業へ、アドバイスをお願いします。

働く人が生活のうえで便利になる、利便性を感じる――そういうことは、会社が背中を押してあげる部分じゃないかと思います。そこが会社の魅力になる。「ブラックかホワイトか」という以前に、まず守らなければいけない法令があって、その向こうに、その会社がどういう会社なのか、どれだけ一緒に歩んでいけるのかがある。従業員が「便利だな」と思うことは、会社は導入していくべきだし、経営者はそういうことにアンテナを張っておくべきだと思います。私はたいした経営者でもないんですけど、そう感じます。特に我々は人材サービスの会社ですから、人を大切にしなければいけない。使い捨ての人材派遣では、生き残っていけないと思うんです。

便利さを従業員に届けることは、人を大切にする会社の姿勢そのものだ――短期間での導入を実現した現場の言葉には、人材サービス業としての信念がにじんでいた。

株式会社パーソナックについて

パーソナックは、三重県津市に本社を置く人材派遣・人材サービス会社。従業員は約400名で、製造業を中心に幅広い業種へ人材を派遣している。研修を経て現場へ送り出す育成型の派遣を特色とし、グループ各社の管理部門機能の集約も進めている。給与デジタル払いは、制度解禁とほぼ同時期に、希望する従業員を対象として導入している。

会員登録をすると、
調査結果の詳しいファイルを
ダウンロードできます。