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インタビュー

2015年2月4日

Vol.30 「情熱をぶつけて欲しい」イノベーション創出へ、KDDI ∞ Laboの取り組み

1月27日、渋谷ヒカリエホールにてKDDI∞Labo 7th DemoDayが開催された。KDDI∞Laboは、2011年からKDDIが提供するベンチャー支援プログラムだ。多数の応募の中から選ばれたチームはβ版リリースを目指し、3ヶ月に渡りサービス開発や経営面での支援を受けることができる。これまでにギフトサービス『giftee』や家計簿アプリ『Dr.Wallet』など、延べ34のサービスが輩出された。

第7期でおよそ200の応募の中から選抜されたのは、医療機関専用ソーシャルプラットフォーム『Dr.JOY』、ビジュアルを認識する人工知能システム『Ingram』、気軽に本を出版できる出版プラットフォーム『∞books』、ウェアラブルデバイスとARを活用したテクノスポーツ『HADO』、卓越した技術を持つフラワーデザイナ-に気軽に注文し花を届けてもらうことができる『Sakaseru』の5チーム。いずれも既存のフレームワークを変革する可能性を感じさせるスタートアップだ。

サポート面では7期の場合、『Dr.JOY』に三井物産、『Ingram』にセブン&アイ・ホールディングス、『∞books』にコクヨ、『HADO』にテレビ朝日、『Sakaseru』にプラスがメンタリング企業として名を連ね、この他さらに8社がサポート企業として参画。日本を代表する大企業13社によるパートナー連合が協力体制をとっている。

今回はこのKDDI∞Labo第7期生である『Sakaseru』の西山氏と小尾氏、そのメンターを務めたKDDIの相澤氏。そして第6期に参加し、子どもの成長を記録した動画を自動で編集してくれるサービス『filme』を提供しているコトコトの門松氏とそのメンターを務めたKDDI芝氏にお話を伺った。

上段左:KDDI・『Sakaseru』メンター相澤氏 上段右:『Sakaseru』小尾氏(左)西山氏(右)

下段左:『filme』門松氏 下段右:KDDI『filme』メンター芝氏




業界を変えることに一緒にチャレンジしたいと思った

----KDDI∞Labo では、メンター自身が応募の中からサポートするメンバーを選ぶそうですが、今回200社の中から、それぞれのサービスを採択した理由を教えてください。


相澤氏>『Sakaseru』を選んだ一番の理由は、KDDI∞Laboのコンセプトでもある0→1を生み出せる可能性を感じたことです。まだまだITが浸透していない花業界の中で、テクノロジーを使って構造改革をしようとしているところに強いチャレンジ精神を感じたのと、実際お二人がお花屋さんに携わる中で、自分自身でぶつかった課題をなんとか解決して花業界全体を盛り上げていくんだという強い志、ここに共感したことが大きいです。業界を変えていくことに一緒にチャレンジしたいと思いましたね。

芝氏>私の場合、私自身に子どもが三人いる経験上、スマートフォンで何か思い出を残すことができたらいいなと。一ユーザーとしてちょうど考えていた時にコトコトさんの『filme』に出会い、自分にとって一番身近なサービスに感じられて、一緒にやりたいと思ったのが採択の理由でした。

----具体的にどのようなサポートをされたのですか?

芝氏>私たちの場合、私含めメンターが三人いて割と手厚いサポートになっていたんですが、もともと門松さん含めてエンジニアの方がすごく優秀で、私からアドバイスできることは少ないと感じていました。でも最低限、持てるものは共有しようと思い、自分の息子の写真を使ってもらったり、どちらかと言うと一ユーザー視点でアドバイスをしていました。

門松氏>メンターさん三者三様だったんですよね。みなさんキャラクターも普段の業務も違う方々で。一人女性が入っていたので、女性の視点もいただけましたし、もう一人の方は少し技術が分かる方だったので、KDDIの研究所につないでいただいて、動画の解析技術のアドバイスもいただきました。芝さんには事業計画とか、そういったところを重点的に見ていただきましたね。何より、普通だったら自分一人で悩まなければいけないことを頼りになる人に相談できたので、とても助かりました。

相澤氏>我々の場合は、技術のあるフラワーデザイナーさんにスポットライトを当て、ユーザーとつなげるという大枠はあったものの、細かなコンセプトがまだ決まっていないこともあったので、KDDI全社にアンケートをとって花のニーズ調査をしたり、7期からはたくさんのサポート企業様が協力体制を整えてくださっているので、そうした企業様のところへ直接訪問してアドバイスをいただきました。

例えば凸版さんに行ったことでSakaseru専用の花の配送容器を一緒に開発することができたり、コクヨさんからは別の協業パートナーさんを紹介していただいたり。そうやってKDDIだけではサポートできないところはパートナー企業様を上手く活用して視野を広げてもらうように働きかけました。

ただ、最終的な決定権は二人にしかないので、基本的にはお二人に決めていただきながら、入ってみたり、一方では引いて見て、二人が何か提案したときに「こんなリスクもあるよね、どうする?」というような話をしたりしました。

小尾氏>相澤さんがおっしゃった通り、(パートナー連合の)13企業全部に会いに行ってサービスのプレゼンをしました。もちろん、かなり厳しくダメ出しされることもあれば、この部分で一緒にやりましょうか、という話も出来て、そういった繋がりを作ることができたのは非常に大きかったですね。



西山氏>あり得ないと思うんですよ、ロットで言ったら普通凸版さんと直にお仕事させてもらう時の100分の1ですからね。一花屋とか一サービスがなかなかさせてもらえない経験だと思います。

研ぎ澄まされていったコンセプト

----コンセプトはどのように形になっていったのでしょうか?

小尾氏>とにかく、既存のお花のプラットフォームに代わるものを創りたいというのが最初の思いだったのですが、そのお花屋さんはどうやって集めるのか、既存のプラットフォームとどういった違いを出すのか、という鋭い指摘をいただき、非常に迷いました。

相澤氏>最初はオシャレな女の子向けにと考えていたんですが、男性にもニーズがあることが分かって、法人にもニーズはあると分かり、それならと尖がらせて豪華にしようとしたのですが、大衆的なところの方が裾野も大きいし儲けを考えると捨てきれなくなって…

西山氏>さらに「そもそもこのサービスをいつ誰が触るんだろう?」というところに立ち返って、誕生日に使うサービスというコンセプトに絞ろうとしたんですよね。

相澤>で、入口を誕生日にしたら…何が起きたんでしたっけ?

小尾>結局、誕生日に絞ったコンセプトで世の中にムーブメントを起こせるのかっていう指摘をいただいて、自分自身、自信が持てなかったんです。こうなるのには理由があって、KDDI∞Laboにはプログラムの一環としてWeekly Presentationというメンター企業の方や日本を代表する起業家の方を招いて、プレゼンをする場があるんです。

相澤氏>Weekly Presentationには任意のKDDI社員やパートナー連合の13社も参加して、色んな視点でアドバイスをいただきます。その場で時間がなくて質疑できなかった人はポストイットに書いて置いていくシステムもあって、ここから本当に様々な意見をいただきました。

昨年12月に行われたWeekly Presentationの様子。開場にはメンター企業の他に50人以上のKDDI社員が任意で集まり、プレゼンに耳を傾けた。それぞれのプレゼンの後には、プレゼン資料の過不足、ニーズの捉え方、技術的なアドバイスなど建設的な意見交換が活発にされた。



小尾氏>毎回、DOKIDOKIの井口さん*1)やnanapiのけんすうさん*2)といった素晴らしい起業家の方たちがアドバイザーとして来てくださるのですが、みなさんのパワーがあまりに強すぎて、そっちに流されてしまっていました。あの人がこう言ってたからやっぱりこうかなって。自分たちの中でうまく意見を咀嚼できなかったんです。

*1)井口尊仁氏...ソーシャルコミュニケーションデバイス「Telepathy One」の開発者として有名。

*2) 古川健介氏...ハウツーサイト『nanapi』代表取締役社長



西山氏>毎週、本気で「これだ」と思うんですけど、翌週また違う方向でまた本気で思う連続です。

小尾氏>ロゴもその一つで、最初は女性をターゲットにしていたので割とかわいいロゴとUIで作っていたんですが、もう一人のメンターの方のアドバイスと、プレゼンでの指摘をいただいたことで、結局ロゴだけでなくUIも全部変えました。

相澤氏>小尾さんが言ったようにWeekly Presentationであるエッセンスが入るとコンセプトがちょっと変わって、一晩寝かせるとまたちょっと変わって。ほぼ毎週変えてましたよね。

小尾氏>プレゼンを見ている限り、どのチームも最初のコンセプトがかなり大きかったんです。でも、議論を重ねるにつれて絞り込まれていき研ぎ澄まされていったような気がします。たぶん同じ苦しみを味わっていたと思いますよ(笑)
最終的には自分たちがやりたいかやりたくないか、だけですね。なので今作っているサー
ビスコンセプトは、私と西山が作りたいものです。



門松氏>私の場合は、一番変わったと感じたのは視座が高く持てるようになったところだと思います。3か月という期間を考えると、どうしても目の前のことに夢中になってしまいますが、そこから意識的に視座を高くして、もう少し大きく捉えられるのではないかと考えてみることができました。自分の中の限界って一人でやると勝手に線引きしてしまうことが多いですが、視座をどんどん上に引き上げていくことを意識的にできるようになったところが、参加して変わったところです。

----具体的にはどんなアドバイスがありましたか?

門松氏>たとえば、私たちは子どもの動画を編集してDVDにしてご家庭で見て思い出を振り返るという体験自体を売っています。DVDにだったらできるし、それくらいが限界かなと思いこんでいたのですが、ある日のプレゼン後、動画が流せる使い捨ての電子ペーパーみたいなものがあるので、それを毎月配ればいいのでは?というアイディアをいただいたことがあります。そんなモノがあると知らなかったので必死で探したでのすが、結局ある問題があって実現することはできませんでした。
でも、そうやって脳みそを拡張すること自体がすごく重要かなと思っていて、あの時の経験が生きて、今でも事あるごとに、もっと別の方法がないかということを考えられるようになりました。

KDDI∞Laboに参加して、日本てなんていい国なんだと思った

----プログラム全体の感想を教えてください。

門松氏>集まったチームの経営者は当然、キャラクターも目指すところも違いますが、そういった方々と接する中で自分を高めていくことができたと思います。卒業した今でも良い刺激を受けています。

あとは、数あるベンチャー支援プログラムの中でもKDDI∞Laboは本当に純粋に、日本に良いスタートアップを育てて、日本を良くしていくことを目指してプログラムを提供してくださっている気がしているんです。


見返りもなく、無償の愛だと感じていて、僕はこのプログラムに参加して、日本てなんて良い国なんだって思うようになったんです。こんなことまで大企業がしてくれるのかと。日本をよくしたい、変えたいという思いをそのまま大きくしてくれるプラットフォームだと思っています。

小尾氏>確かに、飲み会のお金も割り勘なくらいクリーンです(笑)
でも、その代わりメンターさんとか、Weekly Presentationに来る他のチームの頭脳を一気に借りることができます。そういった厳しいアドバイスってお金で買えないですよね。DOKIDOKIの井口さんに質問することも、けんすうさんにお会いすることも、僕らだけでは難しいと思うんです。そういうお金で買えない機会をこのKDDI∞Laboで与えていただいて、本当に感謝しています。

西山氏>僕と小尾は一緒に事業を始めたときに、3年でうまくいかなかったら解散しようと決めていました。最初の一年間、けっこうな予算を使ったサービスは鳴かず飛ばずで、あと2年もなんとなく見えている気がして。それでも最後、この業界になんとか爪痕を残すサービスだったり構造を変えるような大きいことをしたいと二人で話していたときに小尾が見つけてきたのがKDDI ∞ Laboでした。

このプログラムに参加したことは、間違いなく私の人生において大きなターニングポイントになったと思います。そもそもテック系の方々と時間の感覚からモノの見方から、すべてが違っていました。事業計画の数字の立て方も、最初は3億儲けたいなんて言って怒られたりして(笑)大変な思いの連続でしたが、今までやってきた花の事業について、改めて俯瞰的で見ることができたり、やり直せることにもたくさん気づけたり、本当に経験できてよかったと思ってます。

ベンチャー企業の情熱や気合みたいなものが欲しかった

----メンターを務めてみて、いかがでしたか?

相澤氏>実は、5期くらいまでは一部の部門だけがメンターを務めていました。6期からは法人部門のメンターも入れたほうがサポートできる範囲が広がるのではないか、ということで1人ずつメンターを出すようになり、7期で私が参加しました。私自身、エネルギーが欲しかったというのも正直あったんです。弊社自体も大きい会社になっていて、法人部門もベンチャー企業さんの情熱や気合みたいなものが欲しかったというのもあると思います。実際、Sakaseruさんと協働する中で、すごく刺激をいただけたので、参加して本当に良かったと思っています。



KDDI∞Laboは色んな人からアドバイスをもらえる場なので、それを全部吸収しながら自分たちに最適なものを作り出し、そこに本気で取り組めるような人に参加してもらいたいですね。

芝氏>私は普段、サービスのプロモーションなどを行っている部署にいるのですが、4,5年前にとてもエネルギッシュなベンチャーさんと協業でサービスを立ち上げた経験がありました。その時にスピード感であるとか、すごく勉強になることが多くプラスになったので、もう一度何か力になれることがあればと思って参加しました。実際、フレッシュな気分になれましたし、一緒にやらせていただいて本当によかったなと思っています。



とにかくこれをやりたいんだっていう思いとか情熱を一旦僕らにぶつけてもらって、僕らもそれに対して答えを出せるように、もちろんアクションを起こしたいと思います。とにかくチャレンジしたい人にどんどん参加していただけたらいいなと思いますね。


[取材後記]

27日に行われたDemoDayでは、8期の募集要項が発表された。8期からはクレディセゾンと
日立製作所がパートナー連合に加わり、地方ベンチャーの支援にも力を入れていくという。
WeeklyPresentationやDemoDayに足を運んで感じたのは、新たなイノベーションへの強い希求だ。「Appleやtiwitterに続くイノベーションを日本から」そんなことも言われて久しい。アイディアを温めている方はぜひKDDI ∞ Laboにぶつけてみてはいかがだろうか。


KDDI∞Labo
http://www.kddi.com/ventures/mugenlabo/
プログラムエントリーはこちら
http://www.kddi.com/ventures/mugenlabo/entry/





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