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インタビュー

2014年11月21日

Vol.27 500Startups、クールジャパン… 次々に投資されるTokyo Otaku Mode その軌跡とは

日本のアニメやマンガを中心としたポップカルチャーニュースを配信しているTokyo Otaku Mode(以下TOM)。そのFacebookページは現在、1600万以上のlike!を集めるほどの人気だ。
立ち上げ時には米国の著名なエンジェル投資家から支援を得、今年9月にはクールジャパン機構からの投資が決まった。国内外から熱い注目を集めるTOM。今回はCEOである亀井智英氏と共同創業者である秋山卓哉氏に話を伺った。



起業前、新しいことが始まりそうだと嗅ぎ付けたら、いち早くそこに飛び込んでいく、そういう動きばかりしていた


亀井氏>もともとアニメオタクだった訳ではないんです。小学生の時にはドラゴンボールを見て弟とかめはめ波の練習をしたり、高校生のときにはスラムダンクを見たり、アニメやマンガは好きでしたが、社会人になってからは時間がなくて、だんだんと遠ざかってしまった感じですね。一方で起業したいとはずっと思っていて、でも何したらいいか分らなかったんです。ただインターネットって面白いなっていうのは、大学時代のときからずっと思っていました。会ったこともなく、この先もきっと会わないであろうフランス人と「今そっち何時ですか?」みたいな会話をしてネット上でコミュニケーションが取れる。それがすごく面白くて。

それもあってインターネットに関わろうと思い、就職活動をして、インターネット広告事業をやっているCCIという会社に入りました。数年経って、そろそろ別のことをやりたくなってきたころにデジタルガレージに出向してみない?と打診され、面白そうだなと思って出向しました。そのデジタルガレージで、たまたま伊藤穰一さんから「Twitterが日本に入ってくるから、お前らやってくれないか」っていう話になったんです。

Twitterも今でこそサーバーがちゃんと動いていますが、昔なんかくじらのマーク(*1)ばっかり出てきて、提案しようとしても動かなくて、しょうがないから紙芝居みたいなことをやって説明したりしていました。「今トラブルで動いてないんですけど…」と説明したら、「本番でこんなことになったら困る」と言われて、そうですよね、出直してきます、みたいな感じでした、懐かしいですね(笑)

(*1)くじらのマーク... 「twitter」のサーバが過負荷時に表示される、たくさんの鳥に網で吊りあげられた白い鯨。twitterクジラと呼ばれている。



で、デジタルガレージから戻ったら今度は電通に出向っていう話になって、しかも短いスパンでまた出向だったので、最初は気乗りしなかったんですが、行ってみたら面白かった。正直、通常の業務が面白いというよりは、新しいことが始まりそうな動きがたくさんあることが、すごく面白かったんです。何か新しいことが始まりそうだと嗅ぎ付けたら、いち早くそこに飛び込んでいきました。電通の中にはクリエイティブで遊び心のある人たちが多くいて、その遊び心のある人たちに、僕はうまく引っかかったんです。

インターネットの部署にいたんですが、ラジオ・新聞・雑誌各セクションのインターネット担当の人たちが月に1回くらい集まってみんなで失敗例や成功例を共有する会に、僕は外部社員なのに混ぜてもらっていました。そこでラジオでTwitterを使った番組をやるという、今から考えたら当たり前のことを僕が最初に提案してやり始めました。結果的にそれはうまくいかなかったんですけど、面白いチャレンジしいてるやつがいるなって色んな人に思ってもらっていたようです。

なんでこんなに日本のコンテンツがたたき売られているんだろうと、怒りみたいなものがあった


一方で、個人的な興味で海外の企業視察をしに行っていました。今ってシリコンバレー発のサービスを日本に持ってきてUber(*1)をやったり、Square(*2)をやったりってあると思うんですけど、日本から東南アジアに持って行ってやるタイムマシン経営もありなんじゃないかと思って見に行っていたんです。今から5年くらい前なんですが、その時に現地で流行っているサービスをやっている人たちに話を聞いたら、日本とシリコンバレーのサービスを見ながら作っているという話だったので、僕が考えていたタイムマシン経営っていうのがあながちズレていないなと感じていました。

そういう風に海外の企業視察していたときに、市場にお土産を買いに行ったら、日本のコンテンツのコピー品を売っている店を見つけて、買ってる人たちにどうして買うのか聞いてみたんです。そしたら「日本のアニメとか好きだけど、自分が住んでいるところだとTVでやってない。外に来てこういうマーケットで買うと安いから(コピー品を)買ってるんです」という話で。そうやって色んなところを見て行くうちに、日本のコンテンツが好きな人はいるけどちゃんと流通していないし、違法ばっかりで作っている人たちにちゃんとお金がまわっていない。コピーして売っている人とそれを買っている人にしか笑顔が生まれていない状況っていうのを目の当たりにしたときに、10年スパンくらいで考えると、そのコンテンツがなくなっちゃうんじゃないかと思ったんですよね。

今は内需で日本はもっているからいいですけど、今後は人口が減っていきます。韓国と同じ7000万人くらいまで減ると言われていますが、じゃあ韓国ってどういうことになってるかと言うと内需でまかなえないから海外に出ていこうよってなっていますよね。
そういう風に、今までは日本の人たちだけ相手にしていればよかったけど、長期で考えるとそういうわけにもいかないだろうなという思いと、なんでこんなに日本のコンテンツがたたき売られているんだろうと、そういう怒りみたいなものが湧きあがってきて、日本人として日本のコンテンツの現状の扱いに理不尽さを感じました。

そういうことを考えた末に、とりあえず(日本のコンテンツが)好きな人はいそうだという一方で、まだまだ日本のコンテンツが面白いということに気づいていない人たちもたくさんいるので、そもそも知ってもらうことから始めようとFacebookページを立ち上げました。日本のコンテンツとしては相撲とか伝統工芸とかもあったんですけど、情報更新があまりできず、メディア運営を考えると情報更新性の高いものがいいので、そういった意味でマンガ、アニメ、ゲームがいいかなっていう感じで始まりました。

(*1)Uber...配車アプリ。日本でも今年3月からサービスを開始した。
(*2)Square...モバイル決済サービス。日本でも2013年5月からサービスを開始した。



TOMは共同創業者が多いんですけど、僕ができないことをできる人を集めたんです。僕は、人を繋げることしかできないので、なんかとりあえずやるよっていうことだけ宣言してあとは、材料買ってくるから、あなた日本料理やってあの人フランス料理やってみたいな感じで、とりあえず僕は人だけ呼んでくるみたいな感じです。

僕たちはコンテンツに助けられている


TOMには、日本語の記事を英語などに翻訳する“Ninja”なるボランティア部隊が存在する。

亀井氏>やり始めて気付いたのは、日本のアニメとかマンガが好き過ぎて、日本に来たことがないのに日本語が読めたり話せたりできてしまう人が世界中にいるということです。
普通では考えられない優秀な子が日本のアニメのファンであるという理由で、TOMに入りたいとか、給料いらないので働かせてくださいと声をかけてくれるんです。普通のスタートアップでは絶対にありえないことだと思いますし、僕たちはすごくアニメやマンガなどの日本のコンテンツに助けられているなと感じます。

それから、最初は会社じゃなかったので大きい会社に情報下さいって言っても、渡せないですと断られて、ニュースリリースなどの正規の情報は取れませんでした。仕方ないので取材に行くしかないかという感じでイベントの取材に行っていたんですが、やり始めてから意識すると、いろんなところにマンガのキャラクターが使われていたりとか、日本はアニメやマンガがすごく身近な存在なんだと改めて思いましたね。海外に行ってみるとこんなのあり得ないですよね。ディズニーのキャラクターがLA中にいるかっていうといないですから。

秋山氏>取材と言ってもプロではないので、最初は街中を撮るだけでした。それでも、秋葉原に行って街中を撮るだけで、海外の人から見たらすごく興味深い絵なんですね。コンテンツは街中にあふれている分、正規の情報が取れなくても、外国人の人が興味のある情報を集めることができたんです。

それから、最初に作ったWebサービスはユーザー投稿型のサービスでした。日本には、すごくクオリティの高い作品を生み出すクリエイターがいるけれども、あまりにも競争が激しすぎて僕らから見ればプロにしか見えない人たちも同人誌など限られた場所でしか創作活動の発表の場がないのが実状です。なので、そういう人たちを海外でもっともっと知ってもらう機会を創ろうと。ただ、見に来る人たちから凄いって驚いてもらえるような作品が並んでいた方がいいと思ったので、最初のうちは招待制にして、ある程度サイトのトーンセッティングをしました。このサイトに投稿できるレベルになりたいと思ってもらえるクオリティを保とうと意識しましたね。

あとは、ユーザーが“すごい”って思うものだったらカテゴリは意識せずにやろうと、イラストとかコスプレだけじゃなくてキャラ弁みたいなものとかラテアートみたいなものとか、すごいと感じればOKですという形でやりました。僕らがそこまでオタクじゃなかったので、変にコンテンツに対する狭いこだわりがなく、「あ、これ海外でウケるんだ」って思えば、それをフィーチャーするような感じでした。

シリコンバレーに対して憧れはほぼなかった、500 Startupsもほとんど知らなかった


TOM誕生の背景には、いくつかのベンチャーキャピタルからの支援がある。最初のきっかけになったのは、日本のベンチャー投資育成会社ネットエイジの西川潔社長だった。

亀井氏>西川さんにはFacebookを使って日本のコンテンツを外に出そうっていうことくらいしか決まっていない段階で話を持って行ったんです。企画書もない状態で、普通にお茶する感じで彼の事務所に行き「こういうことやろうと思うんですよね」っていう話をしたら、「おもしろいね、オレ金出すよ」と言ってくださいました。

2011年の1月に西川さんに会って、2012年の2月にサンフランシスコに行って、3月に500Startups(*1)からの投資が決まり、4月に行っちゃったっていう感じです。アメリカに行くとは思っていなかったので、うっかり僕2月の後半に引っ越しちゃってるんですよね。それくらい急な出来事でした。

シリコンバレーに対して憧れはほぼなかったんです、当時。別に英語がしゃべれるわけでもないし、行って何があるのかも分かってなくて、500 Startupsも知らなかったんですよ。親に「アメリカにちょっと行って投資家に会って10分くらい話したら投資してくれるって話になったからアメリカ行くわ」と報告したら母親から「バカかお前、100%騙されてるわ。お母さんが今聞いただけでも分かる」と(笑)さすがにちょっと調べようと記者の友人に「500 Startupsっていうところから資金調達できてアメリカに行けそうなんだけどどう思う?」って聞いたら、「それ亀ちゃん、めちゃめちゃスゲーことだよ」って返事で、そうなんだ、みたいな。信頼できる友人が勧めてくれるし面白そうだったので、とりあえず行くかと、あまり深く考えずに行きましたね。

(*1) 500 Startups...アメリカを代表するインキュベーター。アメリカ国内に留まらず日本を含む多くの国のスタートアップ起業を支援している。


元Appleのモバイル担当幹部でTOMアドバイザーのアンディ・ミラーとは、僕は電通の時に一回くらいしか会ったことがなくて、ほぼ面識はなかったんです。最初は、ダメ元でした。
今思えば無謀ですよね。英語ができないのでとりあえずメッセージだけでアポをとって、僕ともう一人の英語ができない2人だけでアンディのところに行って、彼が出てきてとりあえず「こんにちは。久しぶり、元気?」「元気」って、そこから会話が続かないんですよ(笑)困り果て、“Do you have a wi-fi?”と尋ね、スカイプを繋ぎ、そこから日本にいる英語が話せるメンバーに交替しました。俺ら何しに来たんだろう?って思いましたよ(笑)


(英語は)使えた方がいいに決まってるんですけどね。仕事の話はもちろんですが、雑談でも、最近こういう面白いことがあったんだけどさ、もしよかったら今度飲みに行こうよって話をしたいなって思うときってたくさんありますから。

----シリコンバレーのVCが認めてくれた要因はどこにあったんでしょうか?

亀井氏>サービスがニッチだったおかげでしょうか。500 Startupsが投資するエリアは、ニッチなところが多かったんです。アニメってすごくニッチだけど、けっこう底堅いファンの人がいるので、ニッチさとターゲットがいいとは言ってもらえました。あとは、FacebookのTOMファンページに、当時ですでに300万人くらいファンが集まっていたので、それも面白がってもらえました。

秋山氏>デイブ(*1)は色んな記事で「ニッチもグローバルで数を集めれば大きなビジネスになる」と言っています。会ったときにもマネタイズの話は全然言わずに、とにかく“トラフィック、トラフィック、トラフィック”。ユーザーベース集めなさいと言われることが多かったので、そのへんの話を踏まえると300万人のニッチなユーザーをFacebookのLikeで可視化していたところを評価していただいた気がします。

(*1)デイブ... 500 Startups代表デイブ・マクルーア


----ビジネス化を意識したのはいつからですか?

亀井氏>1年目はほぼ意識していませんでしたね。投資家から、そんなの考えなくていいよと言われていたので、マネタイズは考えず動いていました。ただ、2012年から広告ビジネスを、2013年にはeコマースを始めたので、そのあたりからでしょうか。eコマースは権利の問題がとにかく大変なんです。並行輸出をするとすごく楽なんですが、TOMでは、正規品を正規ルートで販売することにこだわっているので。

日本人が作ったシステムで日本のコンテンツをうまく海外に出せない状況がある


ちゃんと権利をクリアした状態でコンテンツを海外に持って行くのはものすごく大変です。手間がかかってうまくいかない。僕らがやろうとしているビジネスは日本のソフトコンテンツを広めて、しかもちゃんと外貨を取ってくるという、日本の経済に貢献できて、大勢の人に応援してもらえるビジネスのはずなのに、どの企業も海外進出はしたいと考えていながら、その日本人が作った複雑な権利システムや古くからの商習慣のせいで海外に出せないという矛盾も生じているんです。応援してくれる人はすごく多いんですけど、じゃあ商品を販売させて欲しいと言うと出来ないことが多い。応援してはくれても協力はしてもらえない状態になってしまっています。だから、そういった古い仕組みを日本の関係者が変えてくれと思いつつ、もちろん自分たちも変えるように努力しなくちゃいけないなと思っています。



[取材後記]

インタビューの最後に亀井氏が吐露したように、政府からの資金援助があるというだけでは、本当のグローバルな競争力にはなっていかない。民間同士の協力体制、政府の介入の仕方、仕組みにはまだまだ課題があるようだ。ロールモデルとなり得るTokyo Otaku Modeが本当の意味でクールジャパンを体現できるかどうか、オールジャパンの真価が問われているのではないだろうか。


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