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インタビュー

2014年6月2日

Vol.21 「おせち事件」から約3年。グル―ポン・ジャパンのお金で買えない価値が再びフラッシュマーケティングを盛り上げる!

4月消費税が8%に引き上げられた。一部の消費財や家電で駆け込み需要があり、4月以降の消費減少が心配されたが、大きな影響は今のところでていない。国内EC市場は変わらず2桁成長を続けている。2013年度は15.9兆円、2014年度は11%成長の17.6兆円と予測されており、消費市場全体の5.6%を占める状況である。(出典元:MM総研)

Yahoo!ショッピングとヤフオク!の出店料無料やLINE@の無料化メニューなど国内EC市場は常に目まぐるしい競争が起こっています。激しい競争の中で勝ち残っていく為には何が必要なのか?危機的なトラブルが発生した後の復活は果たせるのか?

フラッシュマーケティングの代名詞ともいわれるクーポンサービスで激しい競争と自ら招いた大きな課題を克服し、成長を続けている秘訣を聞きにグルーポン・ジャパン株式会社 代表取締役 根本 啓氏に話を伺いました。



フラッシュマーケティングが話題になったのが3年前で貴社とリクルートが頭一歩抜け出していた状況だと思います。その時におせち事件が起こりました。当時の状況をお聞きしたいのですが、社員の方の動揺や退職者などおられたのでしょうか。


私が代表に就いたのが昨年の8月なので当時の状況はわからないのですが、おせち事件があった時、利用している方、事業者の方々には大変ご迷惑とご心配をおかけしました。また、メディアの方にも厳しいご指摘を受けました。

おせち事件はグルーポン・ジャパンが発足して2~3ヵ月少ししか経っていない時期のため、
この事件で社員が辞めていったというより、この事件を踏まえて2011年をどのようにしていくか、どう乗り越えていくかを全員が考えていました。

あのような事件を起こしてしまい、お客様に多大なるご迷惑をおかけしてしまった事実を真摯に受け止めて、それを踏まえてどういう風に改善していくかということを当時の役員を含めて議論や取り組みをしたと聞いています。



当時、まず着手されたことは何ですか?


事件発生からの1~2ヵ月は、がっかりさせてご迷惑をおかけしてしまったお客様に対してどのようにお詫びや対応をさせていただくかを一番に考えました。具体的には、お詫びのギフト券の配布や、グルーポン・ジャパンの当時の代表は公式の場で、本国のCEOはビデオという形で謝罪をしました。

その上で、1月の第一週目からすぐに始められたわけではないですが、私たちが「パートナー様」とお呼びしている掲載店舗様とお話させていただく営業から、最終的に掲載後にお客様からお問合せをいただくカスタマーサービスまでの一連のプロセスについて、お客様にご迷惑をおかけしないように一つ一つ見直しました。

具体的な施策として、掲載店舗様、お客様に関わる全ての担当部署について評価制度を変更しました。それまでは売り上げに偏重した、売り上げを重視した評価制度にしていましたが、売り上げに加えてお客様の満足度を含めた評価制度に切り替えました。重要だと認識していたので早い段階で着手できたと思っています。

例えば、「運営会社様情報」「掲載店舗様情報」「メニュー」など掲載内容に相違がないか、お客様にご迷惑をおかけしないような受け入れ態勢になっているかを確認する、審査という工程があります。おせち事件当時は大体30くらいの項目を確認していましたが、2年半かけて確認項目を増やしていき、今では、確認項目は約200となりました。

例えばAランクのステーキを提供するお店だとしたら、A4の牛肉であることの証明書をいただくとか、スポーツのレッスンでは、資格があるインストラクターがいらっしゃるのか確認します。資格証明書でひとつひとつ確認していくことで、結果として昨年の年末で確認項目は200になりました。200項目が十分ということではなく、また新しいタイプのサービスが増えてくれば確認項目は増やしていきます。

審査がOKだった場合、次は編集・校正になります。弊社では編集も行っていまして、サイトの中でも文章だったり画像だったりクーポン掲載ページを作るチームがいて、最後に校正しますが、弊社内で編集したクーポン掲載ページを校正する際、当時は外部の業者に一部の校正作業を頼んで依頼していましたが、社内で責任を持った体制を作っていくということで、校正の機能を完全に内製化していきました。


また、レストランや美容サービスなど異なる業種についての知見を確実に蓄積するため、事件後の翌月から業種別の編集・校正チームに編成を変えていきました。

クーポン掲載ページが完成すると、次はパートナー様に掲載前の確認をしていただくのですが、当時は掲載ページ内容の一方的な通知のみとなっていました。しかし事件以降は、きちんとご連絡を差し上げて、お互い確認し、ご了解をしていただくというプロセスに変更しました。

そのあと掲載に至るのですが、掲載後のパートナー様のフォロー・サポートをする部隊を新たに設立しました。これはおせち事件があったから、もしくは新たな事件を防止するためだけではなく、パートナー様の満足度を上げるために、お困りになった時に対応できるような部署を作り、365日24時間パートナー様からお問合せいただけるような体制を開始しました。

最後にカスタマーサービスですが、スタート当初はお客様からのお問い合わせはメールで対応していましたが、お世辞にもいい対応とはいえないような状態でした。具体的には72時間以内のメール返信が7割程度で、あと3割はそれ以上の時間がかかってしまっていました。決して高いサービスレベルではなかったと思います。
そこでお客様についても、何かあった時にできるだけ迅速に対応できるようにと、電話でも対応を受け付ける体制へと少しずつ改善していきました。

昨年末の数値ですが、メールの返信率が24時間以内で93%、電話の受電率が98%弱に改善しました。ただ100%ではないので十分ではないと思っていまして、今後も改善をしていきたいと思っています。

以上が3年前の事件があった後に取り組んできたことになります。

実際に店舗に行って体験するなどの審査をすることはありますか?


実際に店舗へ行ってサービスを体験して審査するということは、行っておりません。
当社では例えば、レストランの場合、パートナー様によってはスタッフの人数や席数など事前に確認させていただきますが、席数が10ある店舗、100ある店舗によって販売可能なクーポンの数の上限が変わってきます。それが過剰でないかは事前に確認し、稼働率などを店舗様とお話して適切な上限枚数や過剰に売りすぎない等は確認しています。

改善の取組みの話の中で、営業の評価制度にお客さま満足度という新しい基準を設けられたとありますが、具体的にどのように指標化されたのでしょうか?


お客様の満足度を指標化するために、お客様がクーポンを買われて、パートナー様の店舗で食事やマッサージをご利用いただいた後に、メールで満足いただけたかのアンケートをお送りしています。1~5段階のようなアンケートになっているのですが、その結果を営業担当にフィードバックし、お客様の満足度の評点が彼らの評価に繋がるという仕組みになっています。

お客様からの評価ですので、良い評価もあれば、当然、逆の場合もあります。結果がダイレクトに分かるので、営業担当のモチベーションや育成に大いに活用しています。



評価制度を変えてから、すぐに効果はありましたか?


社内のデータを見たり話をしていると1年くらいかかったのかなと思います。評価制度を変えて、売上だけではなく、お客様からのフィードバックに対して「パートナー様にどのような改善のご提案ができるのか」の話合いや、「改善の確認ができないと同じパートナー様の案件は再掲載できない」などのルール作りを会社全体として繰り返して参りました。

また、お客様からの生の声を社内だけではなくパートナー様と共有させていただくとによって、パートナー様の方でもお客様からの声を改善に繋げていただき、サービスの向上に努めていただくことができますので、パートナー様からも評価をいただいています。

その取り組みは日本のみなのでしょうか?


日本独自のアンケートとグローバルのアンケートの2種類があります。

これらの施策で掲載店舗はどれぐらい増加しましたか?


実数は控えさせていただいておりますが、2013年の第3四半期時点で、掲載店舗数はスタート時の約2.5倍となりました。スタート時から右肩上がりではありますが、特に昨年末に関しては、掲載してくださるパートナー様の数を増やせたのかなと思っています。

ちなみに昨年末に伸び率が高まっていますが、要因というのはありますか?


当社のサービスはもともとレストランや美容施設のクーポン提供から始めたのですが、2012年後半から物販とかショッピングと呼ばれる「商品」の提供も開始しました。具体的にはファッション関連、家電製品、食料・飲料などの商品を少しずつですが扱わせていただくようになりました。品揃えが増えた結果、昨年末の伸び率に繋がっているかと思います。



共同購入型(一定の人数が集まらないとクーポンが成立しない)を廃止されてから、エンドユーザー、パートナー様からの反響はどうでしたか?


好意的に受け止めていただけたのかなと思っています。2011年に共同購入型を廃止してから、お客様から「一定枚数に達しなかったから買えなかった」とか、パートナー様から「一定枚数に達しなかったから(クーポンが成立せず)お客様が0になってしまった」という声はないので、エンドユーザー、パートナー様からはポジティブに受け止めていただけたのかなと思っています。

お話を聞いていて、おせち事件のあと、お客様にとって良いサービスを目指して真摯に取り組んでいった3年間という印象を感じました。


そうですね、何かやったら魔法のようにすぐに事件や問題が解決するとか、無くなって風化してしまうとか、信頼が元通りになるということはないので、やはり品揃えを増やすなど基本的なことをひとつひとつ改善し、それをお客様から評価していただいてまた改善につなげていくことが重要だと考えます。基本的な体力や質を上げていくために、お客様やパートナー様からのフィードバックで社内の体制を改善するサイクルを3年間少しずつ繰り返してきたというところが正直なところです。

今後、強化していくポイント、成長させていく為にどのような施策を打ちますか?


今後は質の改善をしつつ、お客様から選択ができるように品揃えを増やしていきたいと思っています。幅広いジャンルの選択肢が、どの街でもある状態にしていきたいと思っています。

トラベルであれば、どこの街、都市でも宿泊施設があり、その中でもホテル、旅館、ビジネスホテルなど色々なバラエティのタイプを品揃えし、お客様に選んでいただけるようにしたいですね。
物販であれば、例えば飲み物、お米などの生活必需品、カメラなどの家電、季節に応じたアパレル商品が常にある状態にしたいと思っていますので、そういう意味ではまだまだ品揃えの幅広さ・質を改善しなければならないと思っています。

品揃えの多様化と同時に、お客様が、簡単なプロセスで適切な品揃えが選べるようになっていくこと。PCサイト、モバイルサイト、アプリもそうですがお客様がお求めになっている適切な品揃えの発見ができるような仕組みになっているかというと、改善すべき点はまだありますので、そういった点は引き続き改善をして参ります。

お客様が発見できることの他に、簡単なプロセスでクーポンが買えて、すぐに使えて、予約が取れるという点を今年は目に見える形で改善していきたいと思っています。もう少しするとその改善点が見えるようになります。



多くの店舗検索サービスやクーポンサービス、口コミサービスがありますが、グルーポンがユーザーに与えるベネフィットは何でしょうか?


グルーポンのサイトに来ることによって今まで知らなかった飲食店やエステなどのサービスを発見できる。かつ、まずお店に行ってみるためにクーポンでハードルを下げるではないですが、気軽に体験をしていただける点ですね。パートナー様に対しては、新しいお客様を獲得するための貢献ができることになります。

当サイトを見に来て下さったお客様にまず「わくわく」や「ドキドキ」を発見していただく。その次にお店で「わくわく」や「ドキドキ」を体験していただき、リピートしていただきたい。「わくわく」や「ドキドキ」は我々のサービスの本質ではありますが、この部分だけ工夫しているというより、いかに当社の品揃えや品質を上げ、適切なものを提供できるようサイトを改善するか、そういうことかなと思っています。

パートナー様に対しては、マーチャントセンターというオンライン情報共有システムを無償でご提供し、グルーポンを通じてご来店いただいたお客様のお住まいのエリア、年齢などの属性やアンケート結果をリアルタイムで共有し、店舗様のサービス改善や、マーケティングデータとしてご活用いただけるようにしています。

よい共有システムですね。ちなみにお客様と店舗の連携や予約などのシステムなどはいかがですか?


3年前ですと、クーポンをプリントアウトしていただいて店舗にお持ちいただく形でしたが、今はモバイルではQRコード、スマートフォンであればアプリからクーポン番号を店舗に伝えるだけでサービスを受けていただくことができます。予約は、電話だと手間がかかるので、出来るだけオンラインで予約が出来るようにしていきたいと思っています。

先ほどQRコードやアプリの話がありましたが、モバイルの改革の余地はまだありますか?


お客様がモバイルで快適に適切なクーポンが探せるように改善する余地がまだまだあると思っています。特にアプリに関しては街々にレストランや美容施設があるので、モバイルと店舗様の位置情報を含め結びつけていくことが大きな課題だと思っています。



昨年11月に発表された「夢のおせち」は多くの話題を産み出しました。2014年の取り組みを教えて下さい。


通常であればお金を払ってもできない体験やプライスレスなクーポンなど、お客様に「わくわく」をお届けすることが我々のブランドのステートメントとなると思っています。昨年の「夢のおせち」もそうですが、当社ではこういった「わくわく」をお届けするクーポンのことを“WOWディール”と呼んでいます。

最近では、「キャプテン翼」の作者 高橋陽一先生が率いるフットサルチームやサッカー元日本代表の福西崇史氏らで構成されたスペシャルチームとフットサルの試合ができるWOWディールや、歌手の川嶋あいさんが卒業式で歌ってくれる企画を抽選で提供しています。今年もこういった “WOWディール”を提供していきたいと思います。

さらに品揃えとしてはファッションや家庭用消費材、家電などを豊富に取り揃えていく予定です。

最後に、大事にしていること、メッセージをお願いします。


ぶれないことが大事だと思っています。会社が目指しているサービスの本質は何なのか。それをぶれずに社員と共有し続けられるかということが大切だと思っています。

[取材後記]

約3年前、ネット業界にフラッシュマーケティングと呼ばれる共同購入型クーポンサービスが登場し、脚光をあびた。当時はソーシャルメディアと並び次世代型のインターネットサービスとして多くの企業がクーポンサイトを立ち上げ、200を超えるサービスが乱立した。

その中で大本命がグル―ポン・ジャパン。猛烈に人員を確保し、営業を強化する矢先で起こった「おせち事件」の後、多くのサービスは淘汰・撤退し、今ではリクルート社の「ポンパレ」とグル―ポン・ジャパンの2社が事実上、生き残っている。

その後、Facebook、twitterの大躍進やスマートフォンアプリ、ソーシャルゲームとネット業界は新たなサービスに目を向け変わらず乱立・競争が激しい。

そんな中、グル―ポン・ジャパンは生まれ変わる為に、お客様に向き合い、サービスの質を高め、筋肉質な体制を築いていた。また、劇的な価格と一種の新規体験を楽しむファンがサービスを支えていた。グル―ポンを楽しむユーザーのロイヤリティ、リピート率は非常に高い。サービスの本質である体験を通じたユーザー価値が非常に高いのが特徴である。

グル―ポンの更なる飛躍は単純な値下げでは動かない層に対してグル―ポンの要である”WOW”ディールがユーザーに届くかが勝負である。


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