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インタビュー

2014年2月27日

Vol.19 「SmartNews」から学ぶスマートフォンアプリの完璧を追求するマーケティング手法

ユーザー数300万人超と急速に読者を集めるスマートフォン向けニュース収集・閲覧アプリ「SmartNews」。WEBのニュース覇者がYahoo!ニュースなら、スマートフォンのニュース覇者の最有力候補である。「SmartNews」のビジョンから今後の展開までIT業界を知りつくしたスマートニュース株式会社 執行役員 藤村厚夫氏に話を伺いました。



「SmartNews」を立ち上げるキッカケを教えて下さい。


当社は「世界中の良質な情報を必要な人に送り届けることを通してより良質な情報を生成される空間をつくる」というミッションを掲げています。これからの時代、ますます素晴らしいコンテンツが提供されていくと思います。それと同じぐらい重要な価値として、そのコンテンツを読みたいと思っている方々に届けることがあります。素晴らしいコンテンツを適切に送り届けたいという強い想いを当社代表の浜本は持っています。

彼自身もともと公開されているさまざまなAPIを使ってデータのビジュアリゼーションをやってきました。いくつかのトライアルを作るなかで「SmartNews」より先行するサービスとして「Crowsnest」というサービスを立ち上げていました。

このサービスはTwitter上にあらわれるニュースとソーシャルグラフを組み合わせて、パーソナライズしたニュースを読ませるWeb上のサービスでした。

当時は「ソーシャルニュースリーダー」と言っていましたね。


これを当社が設立する前の2011年から試みましたが、十分なユーザーを獲得することができず、七転八倒しながら思い悩んだ結果、いくつかの方向転換をすることになり、それが今の「SmartNews」のコンセプトとなっています。

1つは徹底してモバイルのネイティブアプリでやるということ。UIを含めて操作性や体験上の気持ちよさにこだわろうと決めていました。

もう1つは「Crowsnest」で試みたパーソナライズは狭い関心空間を作り出してしまいがちのため、むしろ多くの人たちが注目しているコンテンツとの出会いがユーザーにとって新鮮な感動を呼びやすく、世界が広がるのではないかと考え、2012年6月に会社を立ち上げ、12月に「SmartNews」をサービスインしました。


ソーシャルデータとしてTwitterを選択した理由を教えて下さい。


大きく2つあって、まずTwitterのAPIが比較的オープンで、また有償で全量取得することが担保されますし、突然サービスが終了したり、データを取得できなくなってしまうリスクをいろいろな分野で考えると最適なサービスであること。

もう1つはソーシャルメディアとしての特性です。たとえばFacebookとTwitterを比べるとFacebookはお互いが認識し合った人間関係を念頭に置いて構築されたサービスです。面白いコンテンツを紹介した場合、知り合いだから「イイネ」なのか、コンテンツが「イイネ」なのか分かりにくいですよね。Twitterは人間関係が関係なく勝手にフォローするサービスなので客観的でドライな評価に適していると考えています。

そしてTwitterの重要な特徴はリアルタイム性に富んでいます。これを用いて「SmartNews」もリアルタイム性の高いニュースのフィードができているのですが、このリアルタイム性をどこまで使えるのかを考えると今後の展開の面白い材料だと思います。

Gunosyのようなパーソナライズ化されたニュースサービスと「SmartNews」のように最大化された話題を配信するニュースサービスがあり、それぞれ一長一短があります。ユーザーはどちらのニーズも欲していると思いますが、その境界線の塩梅をどうお考えですか?


ユーザー個人個人にパーソナライズする分野は以前から検証し、内部的にはいろいろな実装をしているのですが、まだ外部公開できる段階ではありません。

我々はパーソナライズを否定的に捉えてはいません。例えば“山手線で人身事故があり、運転を見合わせている”という速報性の高いニュースを配信できますが、山手線を利用しない方や東京以外の方にとっては重要ではないニュースになります。

ですので、やわらかくパーソナライズが利いている、自分が今いる場所によっては排除される、また自分の専門性や興味があることに対して微細なことを感知する仕組みは重要で、実装の試行錯誤をしています。



Twitterというリアルタイム性の高い膨大なデータと共に、「SmartNews」アプリからもユーザーのパーソナルデータが取得できますので、どう組み合わせて実装していくか楽しみですね。


「SmartNews」を開発するタイミングから常に意識しているのはRSSリーダーの失敗です。使い始めは登録するのが楽しくてたくさん登録したけど、情報が溢れて読めなくなることがありますよね。

読めなくなるだけならいいのですが、情報を読むことが嫌になり、最終的にそのサービスを使わなくなることがあります。そういう憂き目に遭いたくない、過度に情報を出す、読み切れない情報をバックアップログとすることに対して警戒しています。

「SmartNews」は「トップ」から始まり、「国内」「政治」「経済」……などの11チャンネルに分けています。新聞の紙面構成に近いですね。さまざまなテーマやジャンルがあることは分かっていますが、それをやり過ぎると延々とカテゴリが生じてします。ただ単に細分化していくだけとなるとユーザビリティが下げてしまうと思っています。

今の「SmartNews」はリアルタイムということに繋がりますが、過去に戻れないような仕組みになっています。読まないと消えてしまう仕組みになっているので、そこに対してユーザーからクレームを頂くことがあるのですが、Pocketなどの外部サービスと連携しており、どうしても読みたい情報はユーザー自身で保持して頂くようにしています。

また、無限にフィードをスクロールするのではなく、2スクロールぐらいで記事読めるようにしています。今の話題を読み終わったら、今日はおしまいというような形にしてしまうのが良いかなと思っています。


非常に面白いですね。最先端のデジタル技術を使って、アナログメディアの良さや心地良さを感じます。今のスマートフォンはテレビのように電源入れたらすぐにニュースが流れるわけではありませんので、面白い情報を取得するには、ある程度のリテラシーが必要になります。テレビのように点けたらすぐにニュースが観られる的な役割を「SmartNews」に感じます。


そうですね。我々が目指しているのは、情報感度がもの凄く高い人向けというよりは、これからスマートフォンを契約するマジョリティ層を意識しています。その人たちは浴びるほど情報を欲している訳ではありません。

初心者でも操作がすぐにわかり、気になることが直ぐに目に入り、読んだら終わりというような、後腐れなくコンテンツを読むことに専念できるようなニュースリーダーを目指していますし、大きなマーケットがあると思っています。



「Crowsnest」は会員数の伸び悩み(それでも10万人以上のユーザーが利用)から方向転換し、「SmartNews」が誕生し、短期間で300万人超のユーザーを抱えています。WEBサービスとアプリサービスの違いも含めて、「SmartNews」のプロモーション戦略を教えて下さい。


PC-WEBの成功法則は、Googleのような検索エンジンからオーガニック検索で人が訪れることで、それに加えてソーシャルな人々の1つずつの言及が小さくても沢山のばらけた人たちからクチコミされるという展開が王道でした。

多くの成功したWEBサービスは、ユーザーの数と行動量によって改善を繰り返し、永遠のβ版と呼ぶぐらいインクリメンタルに良いモノに仕立てて、少しずつ評価を高めていきます。

しかしアプリはモバイルのiモード初期の頃と同じで、「App Store」や「Google Play」などの非オープンなマーケットプレイスのランキングに左右されます。ランキング上位に入らないと埋もれてしまい、見つけてもらえない。

ですから、今のアプリ業界は垂直立上げと呼ばれるリリース時に一気にお金を使ってランキング上位に入り、そこからマーケットによるオーガニック流入で利用者を増やし、ランキングを維持するプロモーションが主流となっています。

ただ、弊社にはそこにかける予算に余裕があるわけではありませんので、我々が考えたことはリリース時から非常に完成度の高いアプリに仕上げる発想でした。WEBの少しずつ改善していく手法ではなく、あらゆる要素でこだわりぬいた完成度の高い状態で勝負しないと“よーいドン”の時点で負けると考えました。

「App Store」や「Google Play」はユーザーが評価するレビュー機能がありますので、リリース直後にユーザーから低い評価やレビューを書かれると、そこから改善をしてもなかなか浮上できない厳しいシステムです。しかし、我々は最初から高い完成度でスタートできたので、初期のユーザーから良いレビューを頂くことができました。

また、「App Store」と「Google play」の両マーケットから2013年ベストアプリに選出していただきました。アプリのジャンルやタイミングなどもあると思いますが、リリース直前までこだわりにこだわって最高のクオリティでスタートしたことが上手くいった要因なのかなと思います。


なるほど。当時は既に先行するニュースアプリも大手を含めて多かったと思いますし、GunosyやAntenna、Flipboardなどの高いクオリティのアプリもある中で「SmartNews」の成功秘訣はスタート時の「こだわり抜いた完成度」。ここがポイントだと思いますので、もう少しこだわりの部分を勉強させて下さい。



そうですね、くだらないように聞こえるかもしれませんが、「SmartNews」という名称だけでも物凄い数のタイトルを議論して、直前まで別の名称まで検討しましたし、アイコンも結果的にはシンプルなアイコンですが、3桁ぐらいはデザインしました。

UIだとページめくりなどはOSが標準する機能では満足せず、自社でオリジナルのライブラリを作ったり、0コンマ何秒の世界にこだわったり、違い棚方式と呼んでいるレイアウトも、ファースト画面での記事本数を増やしつつ一覧性の高さを実現するために、何度も微調整を試みています。

見出しの表示も形態素解析という技術を取り入れ、見やすい自動改行プログラムを入れるなど、アプリならではの作り込みをしています。パラパラとザッピングした時でも、気持ち良い動作と共に、何が書かれているかも目で追えるような工夫をしています。


凄いですね。このこだわりはチーム内に専門家や技術者がいるから生まれるのでしょうか。


専門的な知識や経験があった訳ではなく、浜本のこだわりを中心に皆で自分たちが気持ちよくなるに自覚的に作っていきました。

ページめくりなんかも指の動きについてくるか検証しますが、iOSでは機種は限られるのですが、Androidに関しては多くの機種があるので、何機種もテストを重ね作り込みました。

WEBだとブラウザの仕様などもあり、ある程度で収める場合がありますが、アプリの場合、チューニングが可能なので、細部に渡る快適感の追求が可能です。ネイティブアプリにしたのもこだわれるからですね。

また、目には付きにくいですがランダムに特定のユーザーに対してポップアップ表示でアンケートを実施しており、絶えずユーザーの声を聞きながら製品改良しています。アプリに関しては細部のこだわりに差が出る時期に差し掛かっていると思います。


話をサービスやマネタイズについて伺いたいのですが、藤村さんが「SmartNews」に参加してからの役割について教えて下さい。


私が参加したのが2013年4月です。それまで何が起こっていたかというと、ユーザーから高い評価を得てダウンロード数が急増し、会社もサービスも注目されていました。

一方で外部の出版社や報道機関の方からフリーライド(タダ乗り)じゃないか、法的に問題があるのではないかというご批判や懸念される声を頂いていました。サービスの想いとは違う評価をされている部分もありまして、これから「SmartNews」をどうするかという要素に直面していました。

私はサービスの立上げの頃から見ていましたが、「SmartNews」が社会的にグレーな立ち位置にならないようにと、私が仲介となって出版社などのコンテンツホルダさんと交渉しました。

出版社や報道機関との提携も100媒体を超え、見て頂ける目もフェアなものになってきました。今年になってからは大手の新聞社と協業も進んでいます。


収益化はまだ先だと思いますが、マネタイズはどのような方法を考えていますか?


従来型のバナーの設置は考えておらず、自分たちがコンテンツやコンテンツのライツを持っているわけではないので、各コンテンツの中に広告を差し挟んで表示するのは避けようと考えています。

コンテンツを持たない我々はコンテンツの周りにある空間を広告掲載の場にしていくとか、コンテンツホルダさんと一緒にマネタイズ商品を開発していくのかなと思います。


また、パートナー様との提携というスキームでチャンネルプラスという独自のチャンネルをユーザーがインストールできる仕組みがあるので、媒体社と相談の上、課金するという話もあり得ます。課金型の収入モデルや何らかのコンテンツをお持ちの方と相談しながら大きな広告やネイティブ広告のようなものを入れていくことを考えています。いつごろ始めるかというとまだ時間はかかるのかと。


なるほど。マネタイズをする上でもサービスの拡大、1000万人クラスの読者を集めるなど、今後の成長施策を教えて下さい。


基本はオーガニックに成長していくことに期待したいのですが、やはりある種のマーケティングは必要かなと思っています。

ニュースを読むことにはネットワークの外部性が利かないところがあります。ニュースは自分のために読んでいるので、読んで終わりになる。誰かに読むことを勧めるかというかとそうではないのでコミュニケーションのツールほど知り合いなど人を引き込む要素は少ないんですね。

つまりユーザーを増やす要素が強くない。今後はアプリの中の機能として単に他からユーザーを引き込む仕組み作りが必要になってくると思います。ケースによれば、マーケティングというところではもう少し大規模なキャンペーンを実施する必要かなとは思いますね。


「SmartNews」のミッションに“世界中の良質な情報を”と記載されているのでグローバルな展開を期待しているのですが。


議論としてマルチリンガルなコンテンツの表示の仕方を出来たらいいというニーズがあるのはわかっています。海外展開はするつもりで準備はしています。その時のドメインの切り方などを勉強している最中です。

どんなコンテンツが価値のあるコンテンツ、話題にしているコンテンツかということTwitterのツイートに元づくアルゴリズムがあり、ここの部分は言語に依存にしないところなので、すでに世界中のツイートをクロールしている段階です。そこに格別な難しい障害はないです。

一方、アプリのインタフェースなどは、文化に依存すると思います。今日本で出来ているからこのままでいいとは思っていません。


最後に、モバイルでは動画が注目を集めていますが、動画ニュースはいかがでしょうか。


今すでに動画ニュースを売りにしているTBS News iとは協業が始まっていますが、動画そのものをフィーチャーしたスマートニュース的な見せ方、スマートニュースフォーマットっていうのはどんなものなのかという辺りはまだこれからの課題としてあるのかなと思っています。


ただプレイヤーがあるだけでは面白味がないと思っていまして、スマートニュースもニュースというものを見せるという意味ではマルチフォーマットであるべきだと思っていて動画だけでなく音声、静止画などニュースのコンテンツを構成する重要なエレメントを取り込んだ美しいニュースメディアというものが求められる。

今後は写真や音声、動画を含んだコンテンツをどうお見せできるか研究している段階です。

[取材後記]

インタビューの後日、「SmartNews」のダウンロード数が300万件を突破の記者会見が開かれた。ダウンロード数はiOSがAndroidの約2倍、1月の月間アクティブユーザー率(MAU)は75%、毎日利用しているユーザー(DAU)は38%など具体的な定量値が発表され、読売新聞東京本社からニュース提供を受け「ソチ五輪」特設チャンネルを設置するなど媒体社と良好な関係が進んでいる。

携帯電話はウェアラブル端末が普及していない現時点で、最も身近な情報通信端末である。インターネットが登場してから情報発信や編集は一般化し、情報量は膨大に増えている。情報化社会では自分や社会にとって有益な情報を取得し消費する力が求められます。「SmartNews」はスマートフォンの機能性や利便性を理解し、徹底して最適化している。

最新のニュースはTVでも新聞でもパソコンでも見ることができるが、普段のちょっとした空き時間、隙間時間でサクッと読める暇つぶしコンテンツとして、スマートフォンユーザーのベネフィットに刺さっているのだ。

おそらく普段使いのスマートフォンで求められるアプリコンテンツは10個も満たないだろう。そんなアプリ十指に「SmartNews」が入ってくるか、今後の展開に注目していきたい。


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