コラム
2015年4月3日
Netflixがやってくる!変わる視聴習慣と動画市場
タイムテーブルが公開されていないことへの不満がTwitter上に多数投稿されていたのです。こうした不満が出た背景には、動画視聴習慣の変化も起因しているように思われます。
MMD研究所では2月にビデオオンデマンドサービスに関する調査を行いました。
ビデオオンデマンドサービスとは、インターネットを利用した動画配信サービスで、放送局や通信事業者などが提供しています。コンテンツはそれぞれの放送局が制作するテレビ番組が配信されていたり、新旧の映画作品やスポーツ中継まで様々。昨年、日本テレビ放送が買収したHuluもこれに当たります。
今回の当研究所によるビデオオンデマンド調査では、サービス認知度は7割に達し、利用経験は3割となりました。利用経験はまだまだではあるものの、動画コンテンツをテレビだけでなくインターネットを介して見ることもできる、という認識は広まっているように見えます。
冒頭に述べた視聴習慣の変化の兆しは、この調査結果からも見てとれます。
視聴デバイスの変化
先ほども述べた当研究所によるビデオオンデマンド調査でビデオオンデマンドサービスを利用するデバイスについて聞いたところ、全体ではPC、スマホがそれぞれ3割、次いでテレビが18.5%となりました。
これを年代別に見ると、顕著な特徴が表れます。10代、20代は半数がビデオオンデマンドをスマートフォンで視聴しているのに対し、30代以上でスマートフォンを使っている人は3割弱にとどまり、PCで視聴している人が最も多い結果となりました。
また、視聴時間についても、総務省による「平成25年 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によれば、10代の平日のネット利用時間がテレビ(リアルタイム)利用時間を上回る結果になっています。
総務省 情報通信政策研究所「平成25年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」
10~20代にとってテレビの前に座って供給側が決めたものをただ受け取るというスタイルはすでに薄れつつあるかもしれません。
ユーザーに寄り添うコンテンツ
筆者は小学生だったころ、選挙が行われる日は非常に憂鬱でした。テレビ番組がほとんど報道特番になってしまい、それ以外の選択肢がまったくなかったからです。でも、今の子供たちはそんな思いをせずに済んでいるでしょう。ネットを検索すれば、見たいものを見ることができるからです。
今秋、アメリカ最大手のビデオオンデマンドサービス、Netflixが日本に上陸します。Netflixは、全世界におよそ6000万人の会員を持つ米国最大手の動画配信です。
面白いのは、そのレコメンデーション機能。Netflixでは全視聴の75%がおすすめ機能からの視聴だといいます。もともとNetflixはストリーミング配信を開始する前、オンラインDVDレンタルサービスでしたが、そのころレコメンデーション・エンジンの効率を10%上げる技術に100万ドルを支払うというアルゴリズム・コンテストを開催しています。なんと、この技術が完成されるまでには3年かかったとか。
それだけ、ユーザーの嗜好に寄り添うことに腐心しているということでしょう。これは、既存の放送局にない視点なのではないでしょうか。見終わるたびに興味を引かれる作品を目にしてしまったら、もうそのプラットフォームから離れられなくなりそうです。
ちなみにNetflixは、スマートフォンのアプリでも、PlaystationやXboxなどのゲーム機でも利用可能で、パナソニックや東芝などもすでに、Netflixに対応したテレビを発売すると発表しています。
さらに、2013年から日本でもストリーミング配信サービスを開始しているアマゾンは今年1月、映画界の巨匠ウッディアレンとテレビシリーズの脚本・監督の契約を結びました。こうして実力ある製作者を迎えてオリジナルコンテンツを製作することで、ネットサービスにつき物の安かろう悪かろうイメージを払拭しようという戦略は他サービスにおいても活発に行われているようです。テレビ局は単純なクオリティ競争だけでは勝負にならなくなっていくのではないでしょうか。
テレビとネットは共生する
今や、視聴者は受け身ではありません。あるものを見るのではなく、見たいものを自由に選択(検索)し、見たいときに見る、という視聴習慣が定着しつつあります。
冒頭のFNS歌謡祭への不満は、見たいものを選択できることが当たり前になった視聴者が顕在化した事象の一つではないでしょうか。
もちろん、それはテレビが即没落することを意味することにはならないと思います。電源を入れればすぐクオリティの高い番組がほぼ無料で見ることができる手軽さと大衆性、また多くの人の共通した関心ごとになりやすい報道(政治・事件)において、確たる裏づけをともなった一次情報を手にすることは、記者クラブに属する現行のマスメディア(記者)でなければ難しい範囲だからです。
また、冒頭に記述したFNS歌謡祭のような豪華ゲストをその時限りコラボレーションさせるというような演出も、テレビ局のような伝統(ブランド)ある放送局でなければ不可能でしょう。
昨年、Huluを買収し先進的な取り組みを進める日本テレビ放送網の山川氏はCNETのインタビューに「放送と配信は喰い合うものではなくて、循環していくもの、というのが我々の認識です」と答えています。
Netflixのサービスが日本で開始されれば、年代を問わずより多くの視聴者が自らに選択権があることに気づき始め、動画コンテンツ市場が一層活性化されるかもしれません。
テレビ局はテレビ局の、ネットはネットの強みを生かしながら、視聴者の要望にこたえるサービス展開を期待したいものです。