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インタビュー

2015年3月16日

Vol.32 コミュニケーションの新常識を引っ提げ 東南アジア市場を狙うエウレカの戦略とは

今年2月、あるアプリのCM放送が始まった。コピーは“カップルのためのアプリ”、アプリ名は『Couples』。カップル間だけでアルバムの共有やチャットができる機能を持つアプリだ。ローンチからおよそ8ヶ月でCMを開始し、150万ダウンロードを突破したこの勢いあるアプリをリリースしたのが、株式会社エウレカである。
エウレカは国内最多800万のいいね!数を誇るFacebookを利用した恋愛・結婚マッチングサービス「pairs」も展開中。
コミュニケーションの中核を押え、数百億規模の世界市場も狙うエウレカのサービスだが、“出会い系”のイメージ払しょくという課題も抱える。
今回は、株式会社エウレカCEO赤坂優氏にお話を伺った。



テーマは新常識化



スタートアップがCMを打つケースというのは増えてきていると思うんですが、ニュースアプリのように、もともとあるコンテンツはCMを打つとしても名前売りが多くなりますよね。
でも、「カップルアプリ」について事前に認知度調査をしてみたら本当に全く認知がなくて、15%未満でした。

実際に高校生にグループインタビューをしてみても、端末に入っているわけでもなく、もちろんその存在すら知らないような状態でした。業界にいるとカップル市場ってちょっときてるらしいよというのはあったのですが、実際にはユーザーはまったく知らなかったので、これは「新製品」だと位置づけました。新製品であれば、世界観から伝えてあげないと誰の心にも響かず、「カップル専用アプリ」って何なのかが伝わらないまま名前だけ先行してしまうので、こういう使い方ができるんだよと伝える、『新常識化』というのを今回CMのテーマにしました。
アプリをリリースしたのが2014年の6月頭で、CMの構想を練り始めたのは9月でした。3ヶ月くらいでCMをやるというジャッジはしていたんです。それは競合の動きや世の中が変わってきているのを見て、意思決定した感じですね。

Couplesの競合は主に2つあるのですが、1つは2年間で50万ダウンロード、もう1つは100万ダウンロードを突破していました。この2つが徐々に伸びつつも、Couplesも80万ダウンロードまで追い上げていた。そこからダブルスコアにもっていくタイミングを早くしないと、「カップル専用アプリ=競合のサービス」になってしまう可能性があって、一刻も早く新製品のブランドを取らなければと思い先行してCMを打ちました。社内でもずっと「一次想起、一次想起」って言ってましたね。



Couplesのプロモーションに関してはTwitterが8割です。去年の6月くらいからテストしているので、まだここが確実な勝ちパターンだ、とまではいっていないんですが、Couplesというものがあるという事実、それが街中で流行っているという事実、そして私たちは使っている、なぜならという理由を、ファッションカテゴリ、音楽カテゴリ、流行トレンドを抑えているインフルエンサーに投稿してもらい、その投稿を私たちがアドクリエイティブとして使っていく。しかも「CanCam」とか「Ranzuki」とか「non-no」など10代の子たちが好きなアカウントをフォローしている子たちにピンポイントで配信することで、振り向かせることができました。

10代の死活問題に応える


商品的な差別化もマストだと思っていました。既にカップルアプリを使っているユーザーの中ではある程度カップルアプリと言えばこれ、と決まっていて、とは言えそれが15%しかいなくて85%は知らないとなったときに、85%の新規ユーザーを取るか15%のユーザーをリプレイスするかであれば、既存ユーザーのリプレイスを取るべきだと思っていたんです。なぜかというと、既にカップル専用アプリの使い方を理解しているお客様に、より良い製品を届ける方が簡単だと思ったからです。

なのでまずは競合サービスの良いところ悪いところを全部出して良いところだけを残し、サービス設計をしていきました。
あとは対面インタビューを50人以上して、お客様となりうる高校生に実際に会い、彼女たちが一番何を気にしているのかをヒアリングしました。

たとえば、最初はスライドショーの機能がデフォルトであったのですが、それを止めました。恋人間では3000枚写真をアップしたりしているので、スライドショーでふいに3年前の思い出写真が出てきたらけっこう嬉しいだろうと、そういう演出を入れていたんですが、「電車に乗っているときに恥ずかしい写真が出てくることで、開く勇気がなくなる」
っていう意見が一つあったのと、スライドすると都度通信されているように勘違いされてしまう、という懸念があったからです。

高校生の彼ら彼女らにとって一番重要なのはバッテリーなんですね。充電がなくなってLINEができなくなることは、本当に死活問題らしいんです。なので今は再生ボタンを押すと昔の写真が流れてくる、というような仕様にしています。そうやって、つぶさにお客様に合わせた改善はやり続けています。

また、10代の子たちが読む雑誌の編集部に何度も遊びに行ったりもしていました。原宿のオフィスに毎週木曜日になると高校生が遊びにくるよっていうのを聞いて、木曜日の夕方5時くらいに行って高校生と絡むっていうのを2時間くらい。もう絶対、端末を見せてもらいます。「スマホ見せて、見せて」って。

Couplesの着想を得たのはそうやってLINEを見せてもらっていた時でした。LINEはもともと1to1のメッセンジャーアプリだったのに、今彼らのLINE上はグループメッセンジャーばかりになっていて、そこにバッチがものすごい溜まっている。彼らにとってそこは今、渋谷のスクランブル交差点みたいなことになってるけど、特別な人とは家があったら嬉しいんじゃない?みたいな発想からクローズドアプリの需要を見つけました。

ベースはこうしたユーザーへのヒアリングなんですが、社内でもユーザー目線でこうした方がいいよね、という意見の出し合いを大事にしています。
例えば、Couplesにはカレンダー機能がありますが、既存のカップルアプリには土曜と日曜しかないんです。でも僕らが一番アガるのって祝日じゃないですか。三連休に色がついてないのって愛がないなと思いますね。

カレンダー一つ作るのも、他のカレンダーアプリを50個くらい落として触ってみて、いいところと悪いところを全部見ます。自分が中学生とか高校生のときに恋人とカレンダー見て一番考えるのって休みの日がいつかとか、天気だったなとか。そういう当たり前のことをやっている感じですかね。



pairsとCouplesのユーザーさんって年齢層が全然違っていてCouplesは18~22歳、pairs
は28~32歳なんですね。pairsで出会って付き合ったお客様がCouplesを使ってくれるかというと、そうでもないんです。なので、pairsで出会って付き合ってくれたお客様にCouplesも使ってもらう、というような導線設計もそんなにないですね。Couplesはpairsでカップルが成立してたことにヒントを得ただけですね。たくさんのカップルが生まれているので、そこの愛・コミュニケーションをもっと弊社で支えることができるかもしれないと思っただけで、ユーザーを流し込むということはあまり考えていません。

課題は日本の文化


話をpairsに戻しますと、アメリカではFacebookのソーシャルグラフを使った実名、実写真によるマッチングアプリが日本よりも早く普及していました。調べたところFacebook上の月間のアクティブユーザー数が500万人もいて「これはすごい」と思ったのが、この分野に目を付けたきっかけです。さらにそこからマッチングアプリを調べると、イギリスやフランス、スペイン、中国にも巨大サービスがあるということが分かりました。しかも彼らの売上が200億円〜300億円規模で大きなマーケットが成立しているのに、日本にはないなと。

Facebookがアメリカで流行り始めたときに日本で流行っていたサービスはmixiです。匿名の時代に生まれるサービスは、どうしても既存の出会い系みたいな形になってしまっていたのに対して、アメリカではFacebookが先に動いていたので実名実写真という文化が醸成されていた、という背景が非常に大きかったと思います。

日本で出来上がっていた出会い系のイメージを払しょくするのは、相当厳しいとは思っていました。ただ、やはりFacebookの顔写真というところで、ある程度の健全さみたいなところは担保できると思っていましたし、pairsをリリースする前から受託で行っていたFacebookプロモーションなどのノウハウがかなり蓄積されていたことも大きいです。診断アプリやライトな占いアプリをFacebook上で年間200本くらい出しました。実際、Facebook上のプロモーションを攻略できているところは少ないと思いますが、pairsは日本でも台湾でもNo.1のLikeを獲得しています。

「出会い系」ではないというのを理解してもらうには、まず女性が安心して使えることが重要だと考えたので、デザインにもいわゆる「ティファニーブルー」を使うなど、イメージにも気を遣いました。新規会員の獲得も本来なら有料会員になってくれるのは男性だけなので、男性を獲得するのが当たり前なんですが、CPAを度外視して女性との比率を常に担保するため女性会員の新規獲得に注力をしていました。それぐらい女性を大事にしていましたね。

また、安心・安全に使っていただくために、実際にメッセージ交換をする前に保険証かパスポートか免許証で年齢確認をしたり、そういう真摯な姿勢でのサービス運営を続けてきたことで真剣にパートナーを探しているお客様が集まり始め、いいスパイラルに入ることができたと思います。

ユーザーがユーザーを警告する仕組みを設けたりもしました。出会い系サイトならではなんですが、ユーザーを装って入会し、他の出会い系サイトに誘導する業者もいるので、そういう人たちを徹底的に排除する仕組みを作っています。

台湾版のリリースは社員旅行中に





台湾への進出は15分のスタンディングミーティングで決めました。その時に調べていたのは、日本では人口1億2千万人に対してFacebookユーザーが2200万人で約6人に1人。それに対して台湾は人口が3000万弱なんですけどFacebookユーザーが1600万人いて、2人に1人がFacebookやっているんです。しかも台湾は島国ですが、台北に人口が集中しているので、台北のFacebook利用率は限りなく100%に近いんです。もうみんなやっている状況ですよね。となると、ものすごい口コミ力を発揮するだろうという仮説があったのと、親日で日本の文化を取り入れる環境もありました。LINEが非常に普及していて、コミュニケーションアプリも参入できているということは、日本のものがすごく受け入れられやすいのではないか、という確信があってリリースを決めました。

ビジネスモデルは北米、イギリス、フランス、中国にあるけれど、アジア市場はブルーオーシャンと考えると日本だけに留まるのはもったいないとは思っていたので、いけるぞと思っていましたね。同様のサービスが台湾国内でないかと探してみたところ、1つあって、でもそれは日本でいう(匿名の)出会い系だったので、これは日本でやっているリプレイスと代わらないんじゃないかとも思いました。
エンジニアチームに「台湾版作りたいんだけど、繁体字対応ってどれくらいでできる?」と話して、すぐ開発スタート。ちなみに3ヶ月後の台湾への社員旅行中にホテルで台湾版をリリースしました。

目指すは文化の変革とライフライン化


ビジネス的なところで言うと、コミュニケーションを押さえるっていうのは戦略として効果的です。長期戦略として、「ゆりかごから墓場まで」というのをスマホで作りたいというのがあります。pairs、Couplesに続いて、結婚準備市場、出産、育児市場というところに派生してサービスのラインナップを増やしていきたいですね。多くのユーザーのライフラインになれるように。そしてそれを日本だけではなくて台湾、シンガポール、マレーシア、タイ、ベトナムなどのアジア圏に広げていきたいですね。

中期で言うとpairsは「文化を変えること」が必要です。まだいかがわしいというイメージがあると思うので、そこを壊していきたい。サンフランシスコに行った時に、H&Mとシャネルの横にZOOSKというアメリカでNo.1のデーティングサービスの広告が並んでいる光景を見ました。バス停で交互に並んでいたんですよね。彼らの生活に根付いた文化・慣習としてあるわけですが、日本にはそれがないので、そのポジションを作るためのクリエイティブと啓蒙活動をしていきます。

国に対して少子化、晩婚化対策の一環としてアプローチする方法もあるし、あとは実体験を通じてユーザーが幸せになって結婚式を行ったって言う事実をもっと外に出すこともそうだと思います。例えば、人がパートナーを見つけて幸せになるってとても良いことで、そのためにもっと輝く自分になろうとファッション、ヘアスタイル、化粧に気を遣う、これも素晴らしいことですよね。となると、アパレルや化粧品の企業とのコラボレーションを積極的にやるというのも、pairsにとって今後必要な施策だと考えています。

Couplesも、恋人たちがペアリングをする文化なんてなかったところから、今や普通のことになったように、ペアでアプリをもつこと自体を文化にしていきたいです。そのために、ブランドで言えば、ティファニーのような存在を目指していきたいと思っています。


[取材後記]

エウレカのコーポレートサイトへ行くと、最初に「Business is art.」という文字が飛び込んでくる。赤坂氏に聞くと「稼ぐことはカッコイイ」を言い換えた言葉だという。

Facebookを通じて実名でのデジタルコミュニケーションが当たり前になった今、効率的な出会いを提供してくれるサービスへ需要が高まっていくことは、ごく自然なことのように思える。“出会い系”という既成概念を覆し、時代の要請に応えながらユーザーのハッピーを支える。これは最高にカッコイイ稼ぎ方ではないだろうか。

台湾でも順調にユーザーを伸ばしている。LINEに続き、日本発のコミュニケーションサービスがどこまで通用するか、期待して見ていきたい。





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