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インタビュー

2014年10月7日

Vol.25 グッドパッチ代表が語るユーザーインタフェースとアプリ戦略

数多あるアプリの中からユーザーに選ばれるために必要なこととは何なのか。
500万ダウンロードを突破し、ニュースキュレーションアプリの中で勢いのあるGunosy(グノシー)。TVCMのプロモーションやレコメンドエンジンなど、選ばれるアプリとなった理由はいくつか挙げられる。中でも、その操作性や読みやすさは初期から高い評価を得ていた。
そのユーザーインタフェース(UI)を生み出した会社は、気鋭のテクノロジーベンチャー、グッドパッチ。ネクストスタンダードとなるUIを生み出す株式会社グッドパッチ 代表取締役 土屋尚史氏にお話を伺いました。



iPhoneが登場したとき、世界は変わると思った

新しい技術とかそういうものがもともと好きで、新しいサービスとか技術とかデバイスとか出てきたら真っ先に試して取り入れる側の人間なので、スティーブ・ジョブズが初代iPhoneを発表するときのYouTubeを見て“これは確実に世界が変わる”と思い、発売後すぐ買いました。

iPhoneを知ったキッカケは確か本田直之さんのレバレッジ・シリーズだったと思うけど、その中に出てきたんですね。本田さんはハワイに住まれているので日本でまだ未発売のiPhoneがすごい人気があって便利と紹介していました。iPhoneのことを調べて絶対に買おうと思っていたら2008年に孫さんのソフトバンクがiPhoneを出すって発表して、もうガッツポーズでした。僕の起業のきっかけは孫さんだし、完全に孫正義教なので(笑)

でも日本はガラケーが全盛期で「誰がiPhone買うの?」という感じでした。カメラ200万画素ですか?お財布ケータイないんですか?みたいな。当時はそういう状況だったんです。

最初はデバイスの美しさとかUIがすごいっていうのは認識してなかったんですけど、でも明らかに今までとは違うものが出てきたと。ジョブズがiPhoneを発表したときに「これはレボリューショナリーなユーザーインタフェースのデバイスだ」っていう風に言っているんです。確かにiPhone買ったときに一番驚いたのは、スライドでロックが外れるっていうところでした。


起業を決意し、シリコンバレーで見たもの


会社辞めて起業しようと思って、とにかくいろんな起業家のセミナーを見に行った中にDeNAの南場さんの講演会があって。「私は月の半分くらいをシリコンバレーで過ごしているけれど、日本のベンチャーとシリコンバレーのベンチャーとは、成り立ちがまるで違う」という話をしていて。

「シリコンバレーはアメリカにあるけれども、純粋なアメリカ人だけで会社を作っている事例はほとんどない、アメリカ人もいれば中国人もいればインド人もいれば、いろんな人種の人たちが混ざって1個のサービスなりプロダクトを作っている。だからこそ、考えるマーケットが最初からグローバル。日本のベンチャーはまず日本人だけで集まって日本で成功することを考えて、これがうまくいったら2年後世界に行こうとか、そういうタイムラインで意思決定をしている。最初から世界を目指している奴らにスピードで敵うはずがない」っていうことを言っていて、「これから起業する君たちは日本人だけでチームを作ってはダメ、多国籍軍を作りなさい」という話を聞いたときに、これは行くしかないなと思ってシリコンバレーに行きました。それが27歳のときですね。

その時まではUIっていう言葉はもちろん知っていましたけど、別にそこにフォーカスしようとは思っていなくて。向こうに行って、いろんなイベントに参加して初めて気づいたのが、もう明らかに向こうのサービスとかアプリっていうのは、UIに力を入れている。βの段階からなんでこんなクオリティ高いんだろ、みたいな。

当時、日本はまだアプリを作れればよくて、WEBをそのまま持ってきたようなアプリでしたし、基本的に日本人は詰込み型なので、色んな機能をとにかく全部つぎ込んで、こういう機能がたくさん入っているからこのアプリは凄いんだ、みたいな考え方だったんですね。

でもサンフランシスコ、シリコンバレーのスタートアップっていうのはユーザーの体験にフォーカスしていて、そのユーザーが体験するコアな価値を最大限にするために、余計なものはそぎ落とすっていう考え方だったんです。

さらに言うと経営層、上の人たちがUIとかUXに対して、そこに価値があるっていうのを明確に分かっていたんです。当然、そこに投資をするというのがあったので、日本の会社も世界中で使われるようなアプリを生み出すためには、絶対にUIに力を入れなきゃいけない時代がくると思って、UIを事業の一つにしました。


当時の日本はソーシャルゲームを中心にエンジニアが絶対重要で採用もエンジニア中心の時代でした。もちろんサンフランシスコもエンジニアが必要なんですが、UIやUXの需要が高まってきてデザイナーが足りない状況だったので、これは間違いなく日本でも同じ状況になると思っていました。

アメリカはもともとUIを重要視する土俵はありましたが、iPhone前ってインターネットとかWEBに触れる体験はパソコンでしたので、机の上を通してしか体験しなかったものが、持ち運べるようになったときに、もう全てが変わったんです。シチュエーションがまずいろんなシーンになるわけで、当然それにあった使い方があるし、それに合ったUIの作り方があるっていう状態なので、僕はUIの世界はiPhone前とiPhone後で確実にバッサリ変わったと思っています。

当時、僕がUIにフォーカスしたときUI、UXっていう言葉が日本でも広がりつつあって、特にUXに関しては概念の話や定義がどうのこうのっていうUX論争があって、中途半端にUXって謳っちゃうと危険だなと思って。UIは明確なので、それのデザインと設計をやる会社っていうのはなかったので分かりやすく尖れました。ただ、なぜか分からないですけどUXのプロフェッショナルって言われたりします。UIとUXって全く違うし、HP上にもUXっていう言葉は一言もないんですけどね。もちろんUXを考えた上でUIを考えるので、それは当然なんですけど。でもあの時にUIにフォーカスをしたのは実はかなり重要だったと思っています。


アーリーアダプターの人が触ってクールじゃないとダメだと思った


設立当時はエンジニアがあまりいなかったのでスタートアップを手伝う場合は、エンジニアばかりのチームでデザインの重要性は感じているけれども全然できないっていう会社に関わることが多かったです。まずそのサービスを触って、もうちょっとUIよくしたら使われるのにって思っていました。

僕がシリコンバレーで関君と出会ってグノシーを見たとき、サービス自体はすごいシンプルで、ニュースが一日一回配信されてっていうだけのサービスでしたが、その潔さが僕はすごい尖ってるなって思って。その時はやっぱり今ほどUIとか世間的に重要って言われているときではなく、グノシーもデザインにそこまでこだわってなくて、かなりプライオリティも低かったんです。

グノシーを使うユーザーはアーリーアダプター、ブロガーとかアーリーアダプターの人たちがまず触ってクールだって言ってもらえるようなものにしないと絶対ダメだなと思ったので。僕自身もそういうシンプルなサービスを手伝いたいっていう思いがあったので、大学生にお金はとれないから「いいよタダで」って言って僕が勝手にデザイン作ってUIも作りました。

あの時、当然グノシーの本質的価値はアルゴリズムでしたが、やっぱりUIに注目してくれる人たちが多かったので、あれきっかけでUIちゃんとやらないとダメだねっていう声が増えたなって感じています。

アプリの勝負は市場に投下されてから


UIって80%設計だと思ってるんです。骨組みから作らないと、そこが使い勝手につながるじゃないですか。なので骨組み出来上がってます、デザインだけお願いしますって言われても絶対無理で。

もっというと設計が出来上がったとしても、根本的な企画段階でサービスとして、そもそもユーザーに求められていないとか、競合がたくさんいるとか。とにかく、分からないけど作っちゃいました、みたいな状態も多くて、そもそもこれはこういうマーケットの中で競合がこれくらいいる中で、どういうポジションを目指すかっていうところですね。

僕自身がデザイナーバックグラウンドではなくて、どちらかと言うと、営業やディレクターをやっていてマーケティング寄りの考え方、ビジネスサイドなんですね。なのでそれが既存のデザインと全く違います。ほとんどのクリエイティブ、デザイナーのバックグラウンドを持っているデザイン会社の社長は、デザインを作ることが目的になってしまう。

今までのデザイナーって日本では広告デザインとかビジュアルデザインが多かったので、そこをきれいに作るっていうのは、広告とかだったらいいんですけど、そもそも使われるサービスは、そこを綺麗にしてもどうしようもなくて。なので、うちは事業企画から提案するケースもかなり多いんです。



あと大企業だと新規構築にお金をかけられるんですが、そのサービスをローンチした後に、本当はそこからがスタートなのに予算がかけられないというケースがかなり多いんです。「作りました、ゴール」みたいな。

本来はローンチしてからがスタートで、UIは新規構築するまでは仮説でしかないんです。もちろん過程でユーザーインタビューは何回もするんですけど、結局は市場に投入されて数多くの人たちに使ってもらってどうなるかっていう話なんです。

多くの場合、儲かってから考えますっていう考え方なんですよね。それは今までの日本の業界がスポットでキャンペーンのWEBサイトを作って期間が終わったらなくなるっていうものだったからだと思います。それがサービスになってしまうと、長期的にユーザーと付き合わなきゃいけなくなるんですよね。考え方が根本的に違うんです。

広告一発スポットでバンとやって色んな人に見られるんじゃなくて、徐々にコアなユーザーをファンにしながらやって、最低でも2年くらいかけてユーザーとの接点を持ち続けていくっていうものにしないといけない。残念ながらローンチ後も付き合える会社は20%くらいです。

事業がある程度波に乗るまでは2年はかかるんです。グノシーもスマートニュースもフリルにしても2年はかかったんです。ローンチまでの初期構築っていう予算組ではなくて、2年間の事業計画を立て、その中でUIも定期的に絶対変わる。それを考えた上で、どういう風に予算配分をし、グロスオンさせていくかを考えないといけないので、2年スパンで事業を設計した方がいいというのは間違いないと思います。UIも絶対に変えていかなきゃいけないですから。



スタートアップに関して言うと、当然、うちが最初手伝ったとしてもお金がないので、そのあとに必ずデザイナーを社内で抱える方がいいんです。社長がそこを勉強することも重要です。一番、権限とかサービスに熱を持っている社長がデザインとかUIの作り方について勉強するっていうのが重要です。そこが重要だって理解するだけでもいいかもしれないですね。

デザイナーとかって、今いる会社でどうしても経営者がデザインについて重要視してくれないとか、フラストレーションがたまっている人たちが多いですが、経営者が明確にうちのサービスはデザインを強化すれば確実に伸びるとか、デザインが重要なんだっていう考えさえ示してくれれば、それに共感してくれるデザイナーがいると思います。

グッドパッチとUIのこれから


今、日本に足りていないのは、経営層のデザインへの理解だと思っています。かつてSONYはデザインの最先端だったわけです。日本がデザインの最先端をいっていた時代があったのに、それが今やアジア勢に負けてしまっている。アジアの中でトップだった日本がアジア勢に負けていて、その考え方の根本はデザインを明確に経営者層が理解しているかっていうところだと思います。

グッドパッチはUIのソフトウェアにフォーカスしているんですけど、当然ハードもやるつもりです。これからの時代はどうなっていくかというと、人々に触れられるのはソフトウェアで、間違いなくソフトウェアのデザインとユーザーインタフェースの世界観を元にハードを設計するっていう時代になっていくんですね。その領域をグッドパッチは絶対にやろうと思っています。


[取材後記]

今からおよそ8年前の2007年1月9日サンフランシスコ。
今は亡きスティーブ・ジョブズがゆっくりと歩く舞台に浮かんだ「Revolutionary UI」というシンプルなメッセージは今も強いメッセージを持っている。日本の確かな技術力が、世界中のユーザーの体験を最大限に高めるサービスなりプロダクトとして結実するために、グッドパッチのこれからの挑戦に期待が高まる。


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